あの頃、生活に音楽があった

大学生だったときがもう20年前とは驚きだ。
20年前。
mixiが出始めた頃。
まだスマホはなく、ガラケーを持っていた時代。

最近、音楽をしている人と知り合いになったお陰で、久しぶりに眠っていたベースを引っ張り出してきた。そのときに昔音楽が好きだったことを思い出したので日記を書いている。

大学生の頃。私や私の周りの友人は音楽をやっていた人はいないが、そこそこ好きで、皆ジャンル隔たりなく聞いていた。Jpopはもちろん、ジャズ、ロック、ボサノヴァ。フレンチポップやジプシー音楽、レゲエ、ブルース。

あのときは音楽を楽しむ時間もあったしライナーノーツや歌詞もじっくり読む時間もあった。
DAIGAKUSEIってひまだから。

お互いが持っているCDを貸しあったり、CDショップやレンタル屋に行っては新しい音楽を試した。
CDをジャケ買いしてそれが当たりだったら友達に勧めたり、ライブがあったら行ってみたり。
学生だったからお金はたくさんなかったけど、少ないバイト代でもそれくらいなら楽しめる余裕はあった。

ある日、友達と当時京都駅のポルタに入っていたCDショップに入って、偶然試聴したバンドに惹きつけられた。
当時Ego wrappinとかジムノペディなど、ジャズやレゲエ、色々なジャンルがミックスされた、無国籍サウンドと呼ばれるようなジャンルのバンドがいくつか存在していた。そのバンドも分類するならそんなジャンルに属していた様に思う。

当時二十歳くらいの私にとって聞いたことのない情熱的な音楽。イメージは赤。心が揺さぶられた。若かったから感動したものだ。

バンドの名前はSugar mama。
当時関西を中心にライブをしていて、結構ファンも多かったと思う。


あるとき、地元のCDショップでちょっとした奇跡があった。
当時、神戸ハーバーランドのUmieの前身のダイエーの中にCDショップがあった。
そこで、京都で聞いたあのバンドのCDがあったので、手に取りレジに向かった。
その時お店の人に「このバンドのボーカルが働いていますから、よかったらサインもらいますか?」と聞かれた。

レジに、そのボーカルのひとがいた。
想像より小柄で、黒髪で当時流行していた(と思う)アシンメトリーな前髪。
黒猫のように丸く、どこか鋭いような目をしたお姉さん。

名前は由姫さんといった。漢字も美しい。
「ありがとう、名前なんていうの?」
京都で試聴したバンドのボーカルの人に出くわすなんて、漫画みたいな偶然だ。

「みかちゃんていうんやぁ。音楽何聴くん?」
その当時友達の影響でボサノヴァやピーターシンコッティというジャズシンガーを聞いていたので何が正解かわからないが正直に答えた。
「ああ。ボサノヴァええよなあ。ジョアンジルベルト聞くんやぁ。夏に聞くと涼しくなるよなぁ」

そんな話をしたことを思い出す。
それからSugar mamaのライブは友達や、母まで連れて行った。本当に大好きなバンドだった。
物販で挨拶に行くといつもみかちゃん!と声をかけてくれた由姫さん。

しかし残念ながらバンドは解散してしまい、由姫さんは上京するということを聞いた。
今はどこで何をしているのか、今も歌っているのか。こんな情報社会でも、由姫さんの情報は出てこない。


今はCD屋もレンタルショップも少なくなり、すっかり音楽を聞かなくなってしまったし、歌詞の意味を考える余裕も無くなってしまった。
楽器やCDもお気に入り以外は売り飛ばした。
サブスク時代になり、それなりに音楽を楽しんで入るが、いまいち昔のように新しいアーティストを知る方法がわからなくて、現代の音楽の楽しみ方がいまだにわからないままでいる。そして音楽が好きな友達は今は周りにいない。

でも再びベースを取り出した今。
あの頃聴いていた音楽や、その当時は聴いていなかったけど私が知らないだけで人気だったバンドの音楽を今聞き返している。

わたし、やっぱり音楽好きだったんだなぁ。
昔のかけらをもう一度見つける。
金もなく自意識過剰で劣等感のかたまりでいつも不安だった私。
音楽が救いだった私。
あの頃の自分は確かにまだそこにいるけど、時が経てばなつかしい。

由姫さん、もしまだ歌い手ならぜひあなたの声を聞きたいです。


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