文芸誌つむぐ(京都芸術大学大学院文芸領域 小説創作ゼミ)

文芸誌「つむぐ」は、文芸評論家の池田雄一先生、作家の藤野可織先生が教員を務める「京都芸…

文芸誌つむぐ(京都芸術大学大学院文芸領域 小説創作ゼミ)

文芸誌「つむぐ」は、文芸評論家の池田雄一先生、作家の藤野可織先生が教員を務める「京都芸術大学大学院文芸領域 小説創作ゼミ」の第1期生有志で結成。言葉を「つむぐ(紡ぐ)」ことで人と人との絆をつくり、文学の可能性を追求したいという思いがある。2024年冬の創刊号を準備中。

最近の記事

短編連作|『打ち子伝』 ⑵

文・ハル ハヤシ (4112字) 2 リサ、誘拐される  俺は打ち子、相変わらず人の金でパチンコを打っている。大きなシンジケートの小さなグループのサブリーダー、中間管理職にも満たない組織の歯車だ。今朝、知らないアドレスからショートメールが届いた。あと30分寝られたのに、振動で起こされた。そういうのは無視するのが俺の質(たち)だ。いつもの通り店の前に並んだ、そのときだけが俺が季節を感じるとき。店の中は季節のない騒音だけの世界。そろそろ靴を買い替える必要がありそうだ、寒さが靴

    • エッセイ|小さな葛藤 『も』

      文・矢内原美邦 (1749字)  戯曲を書いていると、あんなこともあった、こんなこともあったと、何度もうなずきながら書く。考えてみると、私は忘れるということが一番怖いことのように思って生きてきたのかもしれない。それは幼い頃に目の前で祖母を交通事故で亡くしてしまったことも関わっているんだろう。「亡くなった人のことをいつまでも憶えておくわけにはいかないよ」現場に一緒にいた母は美容室の仕事をしながらお昼は忙しくそうに言うんだけど、夜中になると祖母の写真を見ては「なにもできなかった

      • 書評|『中上健次短編集』

        文・キミシマフミタカ(2480字)  わりと最近(2023年6月)岩波文庫から発売された短編集だ。初期作品から後期作品まで、(編者の道簱泰三に)選び抜かれた10編がバランスよく収録されている。長編のイメージが強い作家だが、中上文学の物語世界が凝縮された短編作品も魅力的だ。  ここでは、中上文学を論評するのではなく、文体について考察したい。  作家にとって文体の変化は必然なのだろうか。変わる作家、あまり変わらない作家がいる。この短編集は、作家活動の初期から後期までが網羅さ

        • エッセイ|I Scream for Ice Cream (Cones)

          文・和奏 (2533字)  アイスクリーム・ショップでアイスを食べるとき、カップを選びますか、それともコーンですか?  わたしは絶対コーンがいい。でもいつからか、コーン派の大人はわりに少数派かもしれないと気がついた。  夏に(いや夏じゃなくても、)出先でアイスを食べるとき、結構な確率でわたしの周りの大人たちはカップを選ぶ。べつに、コーン代を別途支払うお店によく行くからとか、アイスを一度に4スクープも5スクープも食べるからとか、そういう事情があるわけじゃない。それな

          短編連作|『打ち子伝』 ⑴

          文・ハル ハヤシ (4280字) 1 パチンコ店、静まる  俺はパチンコの打ち子。未成年なので本当はパチンコ店には入れない。でも、背が175センチあり、顔をマスクでかくせば誰もわからない。それに最近はコロナを心配してみんなマスクをしているので、ますます安心だ。 「打ち子」というのは、簡単にいうと人の金でパチンコを打つ仕事。俺はそのサブリーダー。店で他の打ち子の監督もしている。  パチンコって知らない人も多いだろう、教えてやろう。サイコロを振って当たりの目が出たら1万

          短編|『湯ヶ島』

          文・キミシマフミタカ (4132字)  湯ヶ島の四つ辻に、笑顔の「井上靖」が立っていた。坊主頭の少年で、絣の着物に帯を締めている。少年「井上靖」は四つ辻の真ん中で、くるくると回り出す。両手を横に広げて、バレエダンサーのように回転し始める。上手なものだ。すごい早さで回転するため、竜巻みたいな風が巻き起こる。落ち葉が浮き上がって、大きな黄色の渦になる。僕らは関心してそれをしばらく眺めた。「しろばんば、しろばんば」と少年「井上靖」は声を上げる。  暮れもおしつまった頃、僕と妻は

          映画評|『ジャックは一体何をした?』

          文・キミシマフミタカ (1119字)  デヴィッド・リンチの新作短編映画である。時間は17分と短いが中身が濃すぎる。フィルムノワールふうの白黒画面。どこかの鉄道の駅、殺風景な取調室らしきところで、容疑者の猿を相手に、刑事役のデヴィッド・リンチが取調べを行っている。何かの容疑があるらしいのだが、何なのかよくわからない。そもそも取調べなのかどうかも定かではない。    会話の噛み合わなさは、もはや神懸かり的だ。それはこんなやり取りだ。 「お前は現在または過去において、共産党の正

          創刊号準備中

          2024年12月1日 文学フリマ東京39(東京ビッグサイト) 2025年1月19日 文学フリマ京都9(京都市勧業館 みやこめっせ) 出店予定