エッセイ|小さな葛藤 『も』
文・矢内原美邦 (1749字)
戯曲を書いていると、あんなこともあった、こんなこともあったと、何度もうなずきながら書く。考えてみると、私は忘れるということが一番怖いことのように思って生きてきたのかもしれない。それは幼い頃に目の前で祖母を交通事故で亡くしてしまったことも関わっているんだろう。「亡くなった人のことをいつまでも憶えておくわけにはいかないよ」現場に一緒にいた母は美容室の仕事をしながらお昼は忙しくそうに言うんだけど、夜中になると祖母の写真を見ては「なにもできなかった