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ニート、コルセンでバイトしてみる


学校を卒業後、約二年間ニートだった。


最初は呑気なもんだ。
今はネットの発達した時代だし、クラウドソーシングでも使えば適当にバイトでもできるだろうなんてゲロ甘な考えを持って過ごしていた。
結果は当然惨敗。やる気も技術もない奴がネットで楽に稼げるなら今頃皆やってるだろ、という当たり前の事実を実感した。

二年目になってからは流石に焦りも出てきた。親の足音が怖かったし、小さなため息や物音が自分を責めている気がした。いや実際責めていたかも。
そろそろヤバい自覚はあっても体と脳はとっくにアホになってるので求人を見てるふりをしつつ仕事は探さない。親が部屋の前を通る時だけサブの仮想デスクトップに切り替えて作業中のソフトを表示させたり、一日中ネット見て遊んでるくせにその瞬間だけ求人サイトを表示させたりした。こうして改めて認識すると酷いカスだな。

とにかくそんな日々が続いた末にいい加減プッツン来た両親にケツをシバかれて適当なバイトを始める事にしたのである。

某企業のコールセンターのバイトを始めたのは去年の終わり頃だ。
理由は職場と家との距離、それから給料の良さ。元々は「データ入力の仕事だから」なんて理由もあったのだが、それは面接時に「データ入力の仕事?無いよ。受電の仕事だけあるけど」と言われてしまったので無かったことにした。
まぁ、この手のバイト"あるある"らしい。

話し下手なので全然向いてないと思ったが仕事を選り好みできる立場でも無い。これも経験だとそのままオペレーターになった。


それからなんやかんや半年以上続けているのだが、どうせなのでこれまでに感じた良かったところ、悪かったところをそれぞれ記録しておこうと思う

後味良く記事を終わりたいのでまずは悪かったところから。


悪かったところ

  • メンタルに悪い

コルセンバイトが嫌厭されがちになる一番の理由だろう。言うまでもない。

どの業界のコールセンターで働くかにもよるかもしれないが、電話越しになった途端自分が王様になったと勘違いするような輩は大勢いる。普段は面と向かって文句を言えない人種でも電話越し、またオペレーターは絶対に言い返してこないと思えるから割合として変な客が増えるのだろう。
この世の中にはまともじゃない奴が大勢いるのか……と心底げんなりすると同時に「コレと比べたら自分はマシかも」なんて嫌な自己肯定感の上がり方をした。
対面での接客じゃないので相手から拳が飛んでこないのは幸いだが。

勿論正当なクレーマーのお客様もいる。そんなお客様にはより丁重に応対し最大限できる対応をさせていただき謝罪を述べるわけだが、やっぱりどんなに正当でもキレてる人間の相手は面倒だし怖いのが本音だそりゃそれなりの給料が出ないと誰もこんな仕事やりたがらないだろう。


クレーマー以外にもストレスの要因はある。
コルセンバイトをするまで知らなかったのだが、一人一人の応対と全体の応対でスコアが存在する。スコアは主に応対時間の短さと応対品質で決められるわけだが、このスコアというシステムが好きじゃない。
必要だから存在するのだろうとは思う。大したことのない案件をダラダラと長時間対応しては一人当たりの対応件数が少なくなり生産性が下がる。応対品質を気にしなくなればいい加減な対応が増え企業の印象が悪くなり多分損失とかが出るのだろう。それにオペレーター側まで態度悪く接しては進む話も進まなくなる。

それはわかるのだが、応対時間なんて相手が厄介なクレーマーならどうしても伸びてしまうし、複雑な案件でも時間がかかるのだから多少しょうがない部分もあると思うのだ。スムーズに応対し上手く時間を縮めるのが技術なんだろうな。
品質については仕事としてやってるのだから高品質をお客様に提供するよう勤めるのが当然だ。相談窓口らしく話しやすい暖かな空気感を作り、共感し受け入れる必要がある。実際応対に問題がなかったか知るためにはアンケートを送る必要もある。

しかし客が嫌いになってしまったので1mmも寄り添いたくない。客の悩みに全く共感できない。アンケートは私自身送られて「面倒臭いな」と思ったことがあるので送りたくない。なので本当はスコアとか無視したい。と、思いながらやってるのでかなりストレスだ。
お客様的には大変お困りなのだろうが今電話をかけるために使っているスマホでHPを検索し、"よくある質問"でも見れば一発でわかる内容のものを何故わざわざ長い時間待ってまで窓口で確認するのかが全く理解できない。しかも人によってはさらに「繋がるのが遅い!」と文句を言う。
文明の利器に対する無関心と不勉強を年齢のせいするくせに、埃まみれでろくに手入れもしていないプライドだけはいっちょまえに掲げたりもするので呆れてしまう。

そんなわけで、「これくらいで困る事ないやろ」と感じてしまって全く共感できないし寄り添えない。というか思ってもない事をペラペラ喋り、行動するのが嫌いだと思ったのでやはり接客業自体向いていないのかもしれない。

その他細々としたストレスとしてはお客様側の音声がメチャクチャうるさかったり(お客様が喋る背後でご家族様が喧嘩してるらしい声&犬の鳴き声……等々)、聞き取れなかったり(滑舌悪く早口&方言音割れ……等々)である。
後は窓がないため閉塞感を感じて若干息苦しいとか。

実践に投下されたばかりの頃は物珍しさから寧ろ楽しみながら業務に当たれていた。慣れてしまった今では不快感ばかりが残り、家に帰って布団に入る時点で「帰りたいなぁ」などと思うようになった。業務中も、応答可能のボタンを押すときに動悸がする。
このバイトをして良かったところは沢山ある。だが、ストレスの方が上回ってしまった。色々と良くしてくれたバイト先の方々には本当に申し訳ないが、おそらく近いうちに辞めるだろう。
どんな仕事にも大変なところはあるだろうが、今度は自分に合ったストレス値のところで働けたらと思う。

嫌なところばかり記してもバランスが悪いので良かったところも沢山書いていこうと思う。

良かったところ

  • ハードルが低い

  • 給料がいい

  • 環境がいい

  • メンタルにいい

上記4つが大体の良かったところ。
それぞれ紹介する。

ハードルが低い

意外と大事ではないだろうか。
無駄な二年を過ごしたお陰で同い年の若者と比べて知識も技術も経験も情熱も全て劣るような人間でもなんとかやっていけそうな気がする。世間(の一部の人?)から底辺職の烙印を押されたコルセンバイトは、人間性底辺野郎には寧ろ希望の光に感じた。
人手が足りてないのは想像に難くない。ニートでも雇ってくれそうな雰囲気は面接前で勝手に挫けて尻込みするのを防いでくれた。


よく求人の文言でもあるようにコミュ障でも別に問題ない。
何せお客様に話すことの大半は既に台本が用意されているし、会話の流れも殆ど決められている。基本は、挨拶(要件聴取)→ 反復&確認→  回答→  質問聴取→  終話となっておりフリートークは少なめ。やはり臨機応変な対応は美しいが、用意された台本を読み上げ用意された流れに沿って案内すれば最低限成り立つ。

言葉遣いについては座学やOJT研修である程度身につけ、その後は対応が上手い人を真似することでなんとかなっている。語尾を「〜ございます」にすること、肯定には「左様でございます(たまに"そうです")」、あと「恐れ入ります」だとか「恐縮ではございますが」だとか使えばそれっぽい。
意外な事に言葉遣いを指摘してくるお客様は殆どいない。ほんの少しだけ砕けたような話し方の方が好印象な場合もあるようなので、度が過ぎなければ神経質にならなくても良いのかもしれない。

覚えることは沢山あって大変だった。
ただ、短い期間での詰め込みとはいえまず最初に座学で色々教えてくれる。覚えきれてないところがあっても、その時々でパッと調べられるような分かりやすい資料も用意されているのでありがたい。調べるのに長くかかりそうならフォローの方々に助けを請える。最初はてんやわんやでも、慌ただしく業務をこなすうちにいつの間にか分かることの方が多くなっていた(というのは驕りかもしれない)。


気づいただろうか。
このバイトを始めるにあたって必要なスキルは何もないのである。
巧みな話術だとか豊かな人間性だとか1cmも必要ない。
このハードルの低さのお陰でひとまず脱ニートを達成できた。

給料がいい

言うまでもないコルセンバイトのメリットだ。
我が家周辺だと多分一番給料が良いんじゃなかろうか。しかもウチは社保完備。

やっぱりお金が沢山あるのは嬉しい。
おかげで家にお金を入れられるようになった。自分の給料で家族で使う車も買えて(といっても中古車だけれど)、自分にとって必要なものも揃えられるようになった。

またお恥ずかしながら今回初めてクレカを作った。
いい加減自分の名義で携帯を契約しなければと思った時に色々調べて気に入ったのがpovoだったのだが、povoの支払い方法はクレカ一択だったのだ。
これをきっかけに娯楽の方にも手が伸びて、ほんのり世界が広くなった気分だ。
自分の給料でチケットを買い映画館で映画を鑑賞したできたのが嬉しかった。(『君たちはどう生きるか』を観た)


環境がいい

当たり前のことかもしれないが施設が綺麗だ。
掃除のおばちゃん達がいつもピカピカにしてくれている。
明るいし綺麗だし空調もちょうどいいので居心地がいい。休憩スペース(食事スペース)も明るく綺麗な印象で設備も整っている。

そして何より人間がいい。
SVさんとLDさんと既存のオペレーターさんの仲がとてもいいので、コールセンターという仕事にも関わらず以外と場の雰囲気は和やかだ。新しく入った新人にも同じように接してくれるため非常に話しやすい。オペレーターが気軽に質問できるよう意図的に明るい雰囲気を作ってるのだろうか。もしそうでもあそこまで自然にいい空気を作れているのだから心の底から尊敬する。

コミュ障元ニートにも普通に接してくれている。
といっても応対中の質問以外では殆ど話さない。「おはようございます」「お疲れ様です」程度の挨拶と、たまに短い雑談をするくらいだ。深く関わることがなくても笑顔で雑談できるのは心地よい。相手から見て挙動不審に見えていないか心配だが、多分優しさとちょうどいい無関心さで見逃してくれているのだと思う。

中々理解できなかったことも根気よく教えてくれて、激ヤバ客にブチ当たってしまった時には対応後に「大丈夫だった!?」「頑張ったね!」「冷静に対応できてたよ!すごい!」と数人ではちゃめちゃケアしてくれた。あとお菓子貰った。
勿論対応中はLDがしっかりフォローしてくれて、なんとか対応を終えることができたのだ。仕事の内だからと接してくれてるにしても皆良い人すぎて逆に申し訳なくなってくる。

こんな環境の良い職場に当たってしまったんじゃ違うバイトを始めた時に落差ができて絶望するんじゃないか、と戦々恐々とする今日この頃である。


メンタルにいい

何言ってんだ?という感じだが実際いい影響を受けた。

まず単純に、オペレーターはお客様の疑問や困りごとを解決する仕事だ。相手の気性にもよるがうまく解決できると「ありがとう」と感謝されることも多い。人の役に立っているという実感と感謝の言葉は多少なりと自己肯定感を上げてくれた。

またニートの時には『何ひとつできない人間』であるという無力感でいっぱいだったがオペレーターになった事によって『何もできない』から『これくらいなら意外とできる』に変わった。
大した技術も知識もない人間ではあるが、人の話を聞いて要件を割り出し状況に合わせて解決策を提示するくらいのことはできるのだ。あと情報を探して伝える事だとか、自分で解決できなかった時にフォロー者に相談することだとか。

人とのコミュニケーションについても以前よりはスムーズになった。職場の皆様がいい人達でこちらの挙動不審を許してくれてるだけだとしても「以外と普通に会話をこなせている」と思えたことで、相手から見た自分を無駄に考えすぎたり、変に卑下して会話の無い変な時間を作ることも少なくなってきている。

本当に些細なものだが0と1では全く違う。
この辺はコルセンバイトで得たメリットというよりニートを脱却した事によるメリットのような気もするが、自分の状況にこのバイトが合っていたのは確かだ。
結果的にコルセンバイトは自己肯定感を少しだけ上げてくれたのでメンタルに良かったと言えるのではないだろうか。




クロージング


まぁ、楽しいことも嫌なことも体験できたし、何より少しでも成長できたのだから間違いなく”良い経験”だったと思う。このバイトを切っ掛けにまた一歩前に進めるように、すぐに怠けてニートに戻ってしまわないように精進していきたい。

おわり





見出し画像には80′s様の写真を使わせていただきました。
ありがとうございますm(_ _)m

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