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閻魔大王の眼差し

巫女の舞を観ていると、いつも背後から私を突き飛ばす外道の一味が居た。奴等は自分達には誰も逆らわないと傍若無人に暴れ回り善良な人々を押し除けて居た。

誰もが神聖な場所で騒ぎは起こしたいとは思わない。みんなが我慢して居た。

都でも美男子として浮き名を轟かせて居たリュウケイは巫女達の視線をいつも釘付けにして居た。そんな彼を良く思わなかったのか奴等はリュウケイを目の仇にしていた。


通りすがりに態と肩を当て、何度もリュウケイの酒はこぼれ落ちた。

それでもリュウケイはじっと我慢して酒を買い直し、彼等にやりたい放題の嫌がらせを受けて居た。

彼等の嫌がらせは、日を追うことに激しくなり体当たりや脚を掛けられるのは当たり前で、人々はどんどんリュウケイの周りから離れた。

いつもポツンと一人ぼっちで居るリュウケイを、彼等は、これみよがしに背後から突き飛ばした。


その日の突き飛ばし方は度を超えて居て、奴等に突き飛ばされた私は、前の人にぶつかった。その衝撃で彼は地面に倒れ危うく怪我をさせる所だった。

その時は、私にぶつかって倒れた人の救護に集中した。一瞬、後ろを見たが奴等は知らない顔してその場から離れた。

私は背後から突き飛ばされた事を説明して、どうにか彼に許して貰う事ができた。しかし、このまま奴等を放置して居れば誰かが傷付く事になる。私の心中には怒りと同時に使命感のような憤怒が沸々と湧き上がった。

再び奴等と遭ったリュウケイは彼等の眼の前に立ち睨み付けた。リュウケイは普段は猫を被っているだけで、その本質は天上天下唯我独尊の暴れん坊。

自らの凶暴な性質を必死に抑えてるだけで、心の内では獣ように暴れ回り、全てを破壊したい衝動に駆られている根っからの傾奇者だった。


迷惑者の眼を睨み付けると、自分と同じ眼をしてる事に気付いた。彼は死ぬ事を恐れてないし、故に怖いものが無い眼だ。

死を受け入れてる人間は殺す事も厭わ無い。いつ自分は死んで良いと思ってるからこそ、いつでも人を殺す事が出来る。

死を恐れ無い者同士が戦えば、単純に強い方が勝つだけ。奴は初めて殺す側の人間と出会ったようで怯えながらも嬉しそうだった。

彼はその時に初めて知ったのだろう。自分は1人じゃないと。だが、その感情を教えてくれた目の前の相手は、今まさに自分を殺そうとしてる同類なのだ。

彼は、自分が孤独じゃない事を教えてくれた眼の前に居る不動明王の化身により煉獄に落とされた。

リュウケイは愛情と憤怒を抱いたまま、踠き苦しむ彼の姿を冷酷に見て居た。


苦しむ彼に救いの手は差し伸べ無い。しかし、追い討ちをかける事もせず、ただ見つめて居た。その姿はまさに、慈悲深い神でありながら人を地獄に落とす閻魔の眼差しを思わせた。

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