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わらしべ長者的飲み歩き紀行 ー沖縄の「へそ」うるま市石川のローカル生活(10)

定期的に酒場放浪記みたいな長文が上がりますが温かい目で見守ってください……。

さて、うるま市石川でスナックデビューを果たした僕。しかしいくらなんでもひとりでスナックに入り浸るような貫目があるわけでなし、あの空間を楽しむには人生経験が浅すぎます。結果、プライベートではいつもの居酒屋でテレビや新聞をお供にビールや泡盛を飲み、常連さんとうだうだ話す日々が続いておりました。

するとある土曜日の晩、今度は店のお母さんが「私の知り合いが、石川の町でバーを始めたみたいだから、行ってみる? あなたもたまには若い人が行くような店で飲んだ方がいいでしょ」と言ってくれるではありませんか。不憫に思ったのかわかりませんが、ありがたいや……。タクシーで石川の繁華街へ向かいます。

ラーメン屋脇の通りでタクシーを止めて店の前で降り立ちます。外観の最初の印象は、石川に似つかわしくない(失礼)パンクな雰囲気。金属製の扉は固く閉ざされ、横についている小窓はネオンサインがギラギラ輝き、中を窺うことができません。

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この頃には変な度胸がついており、躊躇わずにドアを開けて入りました。手狭な店内は「ここはクラブか?」と思うような重低音の爆音がかかっています。防音工事はしっかりしてたんだな、などとどうでもいい感想を持ちつつ、カウンターに腰掛けました。店は他に2人組の男性客が、ひと席だけあるテーブル席にいるのみです。

内装はサイバーパンク調といえばいいのか、無骨で金属質な店内に、アメリカの昔の看板がかかっていたり、ゴジラやケロちゃんの人形が飾ってあったり、雑多なカルチャーで混沌としたバーでした。カウンターの中に立つ店員は、若くて眼鏡をかけてひょろっとしたお兄ちゃん。

音楽は、ドンキで売っていそうな洋楽ヒットチャートDVDを店内で流しているようでした。飲み物は、お兄ちゃんに聞くとウイスキーのほかカクテル類もあるとのことで、ジントニックを頼みました。「バーとかこの感じ、懐かしいな」と思いながら気さく風に話しかけます。彼は地元石川出身のバイトで、居酒屋のお母さんの知り合いではないようです。

お兄ちゃん(年下だったので仮名でハヤトくんとしておきます)曰く、このバーは朝まで営業しているので深夜帯になると石川の繁華街のスナックやキャバクラで働き終わったホステスやキャバ嬢、スタッフで賑わうが、僕が訪問した時間帯(21時頃でした)は、だいたい客がいないとのこと。まあ、こっちとしてはそれぐらいの方が好都合です。

身の上話をしているとやがてドアが開き、長めの茶髪にかりゆし、ふくよかな沖縄あるある体型の中年男性が入ってきました。「あ、オーナー」というハヤトくんの呼びかけで、彼がバーの主で、お母さんの知り合いだとすぐわかりました。

胡乱げな目でこちらを見てくる男性に「居酒屋◯◯のお母さんの紹介で来まして……」と自己紹介すると、笑顔を見せて「ああ、あの店」と、そこから親しげに話しかけてきました。といってもこちらへの質問ではなく、オーナー(仮名でキンジョウさんとします)の一方的な話で、店のコンセプトやら自分の野望やらを熱く語るので「ああ、こういうタイプの人ね〜」と途中からは合わせるように。フィット感、大事です。

一通り話すと「まあ、ゆっくりしていってよ」と言いながらまた出て行きました。「オーナー、近隣を飲み歩いてそこの店主とか客とかを連れてくるんですよね。営業活動っつって」と呟いたハヤトくんのセリフに「コミュニティあるあるだ〜」と思いつつ、その夜は軽めにそこで切り上げることにしました。


その後も週末など居酒屋だけでは暇なとき、そのバーに顔を出すようになりました。ハヤトくんの言っていた通り、僕が訪問する時間はだいたい閑古鳥で、その分、店員と駄弁って仲良くなることができました。

このバーを起点に、僕の石川繁華街の開拓が始まります。例えばバーのカウンターで親しくなった地元の人に「ここ以外だとどういう店に行ってます?」と質問し、教えてもらった店で「◯◯さんにいい店があると聞いて、来ました」と話すのです。

すると店員の反応も悪くなく、忘れられる前に何度か通えばすっかり常連顔に。おそらく、ナイチャーが唐突に一見さんとして入っていくよりは、比較的温和に溶け込むことができたのではないかと思っています。

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