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やばい、まじやばい!  社内の有休マーケットが大暴落した!

やばい、まじやばい!
何がやばいって、社内の有休マーケットがよもやの大暴落。
会社中がパニくってる。こりゃ、自己破産が続出しそうだ。

うおぉぉぉーーーーー

会社のあちこちからそんな叫び声が上がったのが、今朝の10時過ぎだった。
そう、週明けの有休マーケットが開いて約1時間たった頃だった。
それまで史上最高額だった有休価格が前代未聞の大暴落を起こした瞬間だった。

俺の会社に有休マーケットができたのは、社内の不用品掲示板に、社内のお調子者が洒落で自分の余った有休を売りに出したことから始まった。
実に俺の会社らしい始まりだ。

紆余曲折はあったけれど、別のお調子者が簡単な自動取引&決済プログラムを作ったことと、とにかく「世界初」が大好きな創業者の会長の一声で、未消化有休の会社の買い上げ制度が廃止されて、有休の買い取りは社内マーケットに任されることになった。
ついでに、有休が会社の管理を離れたことから、有休の2年間の消化期限も撤廃された。
うちは系列グループ会社合わせて20万人はいるからな。マーケットとして十分成り立つ。

当初、人事のやつらは、有休価格は、買い手の中心となる年次有休数発生数の少ない若手の購買力に依存するので、高値が予想されるお盆や年末年始休暇の前でも1有休あたりせいぜい1万円程度、それ以外のシーズンなら3千円~5千円程度で推移するだろう。これからは、余分に有休を取りたい社員は格安で休みを取得できるようになるうえ、政府が推進する長期連続休暇も取りやすくなる。これは世界初のウェルネスプログラムだと自慢げに言っていた。

でも、ポンコツ人事のその予想はまったく外れた。完全に外れた。

正式にマーケットが開始されると同時に、高値が高値を呼んだ。
2カ月間あったテスト期間中は、取引制限があったうえに、会社の監視・介入もあって、みんな猫を被って大人しく取引をしていたんだな。
だいたい1有休5千円ぐらいの取引で、取引量もぼちぼちって感じだった。

ところがマーケットに完全移行した途端、本気モード、全力モードに切り替わった。
テスト最終日の終値4773円から始まった有休価格は、開始から大量の買い注文が入って、たちまち5万円まで爆上がり。
昼までに7万円台に到達。そして15時のマーケット終了時には、10万円を突破した。
で、翌日の火曜には終値は14万円台まで上がって、その後もじりじり上がり続けて、とうとう月末の終値は23万円台まで上がった。

毎年有休が自動発生するとはいえ、社員が売却できる有休は限られている(=マーケットに出回る有休数は限られている)からな。
有休は金よりも希少価値が高いということで、高値を呼んだわけだ。

こんだけ金利が低いと定期預金は馬鹿らしいし、株はもう頭打ちっぽいうえ、いろんな要素に左右されるからな。ボラタリティが大きすぎる。
その点有休は、会社が存続する限りその価値に大きな変動はない(はず)。だから金があったら有休に投資しておこうって雰囲気になったよ。会社全体が。

価格がどんどん上がるにつれて、買い手の中心と思われていた若手がどんどん売りに走って、売り手の中心になった。
そりゃそうだよな。休みなんかより、金が欲しいんだよ。若手は。 
おかげで持ち有休を全て売却して、休み無しで働くだけの社畜同然になったやつも多数発生。
うちの社畜解放運動はここから始まったとする説もあるけど、俺に言わせれば自業自得だな。社畜が嫌なら休みを売るなって。

で、そこまで価格が上がると、社内の元金融屋(銀行や証券あたりから転職してきた連中で、だいたい経理にいる)が目をつけないわけがない。

有休の信用取引(レバレッジ5倍)を始めた株屋みたいな元金融屋が現れてから、有休マーケットはますます過熱した。
とにかく基本右肩上がりだからな。信用売りでほぼ確実に儲かる感じだろ。金のあるやつは(だいたい部長とか役員クラスだな)、信用取引に夢中になった。元金融屋も、手数料もかなり美味しいけれど、部長・役員クラスに名前と恩を売れるんだから実に美味しい。

一方で、一般社員がおいそれと買える金額じゃなくなってきたことに目をつけた元金融屋もいた。金融仲間でファンドを作って、”有休投信”みたいなことをやりだした。
ドルコスト法で毎月一定金額(一口5000円)で安定して有休を買っていけるし、信託報酬も0.3%と安く設定したこともあって、かなりの社員が申し込んだ。

そのうち、有休を担保に金を貸しつける元金融屋まで現れた。
どんなに高い有休持ってても、急に現金が必要なやつっているからな。そういう連中に有休を担保にして、それなりの金利で貸し付けるんだが、中には1日3割(ヒサン)の金利を取る闇金ウシジマくんみたいなやつまで出てくる始末だ。

人事には、死亡退職となった社員の有休を、家族に内緒でファンドに売ったのがバレて、懲戒解雇になったやつまでいた。
で、懲戒解雇となったそいつの有休を、経理の元金融屋が格安で買い取って、ファンドに売りつけたってオチまであって、会社は文字通り”人間社会の欲望の縮図”そのものみたいな感じの所になった。

まっ、とにかく有休価格はずっと上がり続けるって誰もが思ってたわけだ。
それが、どーーーーんと下がった。
83万円台まで暴騰していた有休価格が一気に14万台まで暴落。
全売却のパニック売りが始まって、それがまた別の全売却のパニック売りを次々に拡大再生産した。
俺みたいに、給与、ボーナスの大部分を有休につぎこんでいるやつがいるぐらいだからな。そりゃ社内中あちこちで叫び声が上がるよな。
今日はとうとう8万円を割って7万円台まで下がった。一日で1/10以下になった。
明日はもっと下がるだろう。

大きな信用取引やってたやつは完全にアウトだろうな。
今日一日、うちの課長は虚ろな目をしてぼーーーーっとしてるんだけど、こりゃ相当やられてるな。気の毒に。

誰かが怖くなって大量に売ったのがきっかけだろうってのが、もっぱらの噂。真っ先に高値で売り抜けた犯人捜しをしようなんて声まで上がってる。気持ちはわかるわ。

でも、大量に売ったのは間違いないが、怖くなって・・・は間違いだな。

朝会社に来て、頭がまだぼーっとしてた俺が持っていた有休の”全売却”ボタンをうっかりクリックしちまったことが、パニック売りのきっかけになったって、もう絶対一生言えないわ。これ。

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