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生活の質第一スパルタkaigo1


88歳の母が、63年続けた美容室を令和6年3月で閉めた。
4月から従業員もお客さんも来ない日々が始まる。
覚悟はしていたつもりだったけれど、想像以上に年老いた母は難敵であった。
今は6月、たった2ヶ月で転がるようにボケて行った。
いや、元々だいぶボケていたけれど、触れ合う時間が限られていたからバレていなかっただけなのかもしれない。
長くいた従業員さんと「最近物忘れが酷い」という話はよくしていた。「ヤバいね」と話しあっていたけれど、年相応と言えばそうだし、まァ文句のつけようもない米寿なので仕方ないのだが。
普段は味噌汁の冷めない距離で暮らしていて、何かあれば駆けつけるスタンスでやっている。元々全く気が合わない。性格も正反対な上、彼女は趣味みたいなものは生産性がないから無駄(最近の文脈で訳すと)ということで私のオタク生活を完全に全否定であった。
シングルマザーでキャリアウーマン、バリバリやってきたプライドが今はとてつもなく様々なことに障壁となっている。
ブルドーザーのように周囲を薙ぎ払って生きてきた彼女には、思うようにいかない人生は受け入れ難いことなのだろう。
やめることにしてから、仕事をしていたからこその周囲の気遣いに気がついたようだ。
4月はまだ余裕があった。こちらも仕事が忙しく寄れない日もあった。
これは想像以上だな、と実感したのはGWが終わった頃だ。


4月27日(土)
頭がしっかりしているうちにと2人で通帳やその他の照会をやっておこうと約束していた。訪れると「何かいね?」そもそも約束を忘れていた。
早速始める。こちらの言いたいこととあちらの言い分の齟齬があり、口喧嘩のようになるが、分かっていての主張なので、頭はしっかりしている。メインの通帳など照会し、番号確認など。


4月28日(日)
また「何かいね?」忘れている。
引き続いて確認作業を。母は1時間で活動の限界、頭が相当混乱している様子で疲れてしまうので切り上げる。
店用や個人で通帳が出てくるでてくる。
全て照会する。
口喧嘩しながら。
保険やそのほかの確認はまた次に。
駐車場の支払いはこれから私が引き継ぐ。

GWに遠方に住む姉が帰ってくる。姉との接触のため2人とも必死。(いろいろ話し合う予告があった)
姉は、母よりも激しく苛烈なので私は蛇に睨まれたカエルのごとくなにも出来ない。この10年口を利いたことがない。
ずっと避けていたが、お呼びがかかったので話さざるを得ない。理論武装のため、把握しておかなければ突っ込まれた時が厄介だ。母も姉には逆らえない。
まだ残っているけど、一旦終了。

「あんたは来んでもいいわね」
確かにそう言っていた。
「私がいろいろ説明するから」
とも言っていたはずだ。

4月29日(月)
母からのLINE
「あんた早くきて」
「は?なんで仕事なんだけど」
「○○が、待ってるからとにかくこっちに来て」
姉にいろいろ聞かれて辻褄の合わないことを言ったらしく、私は行方不明ということになっていた。仕事に行っていただけなのに。
観念して仕事終わりに寄る。
結果、ろくなことがなかった。
やはり、姉は鬼門だ。

ボケてくると、いろいろ削ぎ落とされるものらしく、母も来し方を振り返ることも多いようだ。後悔だらけのようで日々泣き言ばかりだ。
あの人はずっと不遇を呪って、跳ね返すことを動力に行く手を阻むものを薙ぎ払ってきた。その結果、のんびりすることが苦手になった。人が夢中になるものが馬鹿馬鹿しく時間の無駄に感じると豪語していた。
でも80過ぎてやっと気がついた。
「私には好きなものが何も無い」
80を少し過ぎた頃、そう言って嘆いた。何故か私の前で泣きながら慟哭していた。つまらん人生だった。仕事ばかりして、なにも残ってない。と。
正直「知らんがな」と思う。
せっせと好きなものを積み上げてきた人を嘲笑って生産性のないものを切り捨ててきた結果がこれだ。
深く同情はするけれど、自分自分を何とかするしかない。むしろ気がついてよかったね。とすら思うよ。
私からすると目の前の私や姉をなんだと思っているのだろうか。何も残っていないとは?失礼千万ではないか。
そうした繊細な神経は昔からなかった。

好きなものがないとあれこれもがいていく中で編み物と折り紙をやって見ることになって折り紙教室に申し込んだりしていた。
行くのをすっかり忘れて、カルチャーセンターから当日電話が来ていたけれど。

嘆き悲しんでいるけれど、あの年齢の人が生きてきた時代では仕方ない。小学生で終戦を迎えて激動を生きてきた立派なひとであることには変わらない。
私はそう思っている。
何度も伝えたのだが、彼女には刺さらない。それでもブルドーザーのような母を知っているからこそ、リスペクトをもって、娘としてきびしく最後までQOL第一に見守っていくことを粛々と覚悟を決めた。周囲に何を言われようと、知るか。

そして、さらに心配になる5月が始まった。

つづく。

#介護
#母




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