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コロナ禍で家族が入院している人の日常

現在、ほとんどの病院では新型コロナウイルス対策のため、たとえ家族でも入院患者との面会は原則禁止されている。

もう嫌になるほど「面会禁止」の文字を見た。
病院の入り口、廊下、受付、どこを歩いていても「面会禁止」の文字が際立っていて、厳戒態勢であることが一目で分かる。
そうやって万全な対策をして、患者さんの安全を守ってくれている病院には本当に感謝している。
患者さんを守るための「面会禁止」であることも理解している。
病院内を自由に解放して患者さんを感染リスクに晒すよりは、「面会禁止」にして外部と遮断してもらっていた方が安心だとも私は思っている。

それが本音ではあるけれど、もう一つの本音も聞いて欲しいと思って、この記事を書くことにした。

もう一つの本音は「面会禁止」で家族と会えない精神的ダメージと、どうすることもできないもどかしさ。

治療や手術のことで不安でいっぱいな時に、家族と会って話すことが出来たら、家族に寄り添うことが出来たら、入院している本人も家族も少しは気持ちが和らぐかもしれない。
それなのに今は、ほんの少しの面会も禁止されている状況。

夫が入院してから2ヶ月以上が経ったが、一度も病室に入ったことがない。
病室はどんな感じなのか、きちんと荷物は整理しているのか、そんなことも分からない。
いつも廊下のあそこで曲がるから、きっと病室はあっち側なんだろうな、という感じだ。
せめて携帯電話がある時代で良かった。

週に2回ほど洗濯物などを届けに行くが、受付で体温を測り、2週間以内に県外に行っていないか、PCR検査を受けている人と一緒にいたことはないか、家族以外との会食はしていないか等をチェックするシートに記入して、看護師さんに持ってきた荷物を預けて、持ち帰る荷物を受け取る、基本的にはそれだけだ。

「遠くから手を振るくらいなら良いですよ」とか「これくらい離れているなら少しだけ話しても良いですよ」と看護師さんが声をかけてくれる時もある。
その時は廊下のあっちとこっちに立って、遠くから手を振ったり、少し話したりすることは出来る。
おかしな光景かもしれないが、会えないことが当たり前の状況なので奇跡のような時間だ。

それでも「面会禁止」は守らなければいけないし、病院に迷惑をかけたり、他の入院患者さんに不安な思いをさせてしまうかもしれないと思うと申し訳ない気持ちになって、あまり話すことも出来ずにそそくさと帰るしかない。

どうしてこんな世の中になってしまったのか。
行き場のない憎しみや怒りが、湧き上がってくる。
こんな世の中じゃなければ、と思ってしまう。

そんなこと、考えてもどうしようもないことなのだけれど。

心配性な私は、病院に行く前にシャワーを浴びて服を着替えている。
病院に持っていく荷物をまとめる時は手を何度も何度も洗って、差し入れする食品や飲料は買ってきた日と持って行く日に除菌シートでひとつひとつ丁寧に拭いて、車に乗る前にはハンドルやドアなどを何度も除菌して。
それでも「自分がウイルスを病院に持ち込んでしまったらどうしよう」という不安が拭えない。
もうずっと手も荒れたままだ。
「そこまで気にしなくていいんじゃないか」と言われる時もある。

それに、こんなに神経を擦り減らして気をつけていても「面会禁止」であることは変わらない。

私がオリンピックやフェスの開催に否定的だったり、マスクをしない人に怒っているのは、自分が感染したくないからという理由だけではない。
もちろん自分が感染したくないことが大前提だけど、入院患者と家族が面会できないこの状況がいつまでも続いて欲しくないからだ。
以前のように家族が気兼ねなく会える世の中に戻って欲しいからだ。

これは医療従事者や身近な人が入院している人でなければ関係のないことだと思う。
関係がなければ、こんな現実があることを知る機会もないかもしれない。

「長く入院していると季節も分からなくなる」と聞いた。
長期の入院とは、それほど日常から遠ざかってしまうことなのだと思う。
そんな中で、家族とさえも会えない日が続いたら、どんなに孤独でどんなに心細いことかと思うと心が痛む。


私たちは二人暮らしなので、夫が入院してから私もずっと一人だ。
一人でいると色々と考えてしまって眠れなくなる時がある。
何かで気を紛らわせようと思っても、こんな世の中じゃ出来ることも限られるし、夫に洗濯物を届けたりできるのが自分しかいないと思うと、不要な外出をしてリスクを高める訳にもいかない。
コロナ禍になる前は、一人でランチをしたり、実家に帰ったり、自分なりのリラックス法があったのだけど、今はストレスを上手くコントロール出来ていないように感じる。
仕事中に急に涙が出てくる時もある。
「本当にしんどいのは私じゃない」「今は私がしっかりしなくては」そう思うと奮起するけど、やっぱりたまに弱気になってしまう。
夫と電話で話して、私の方が元気をもらっていると感じることも多い。


家族の顔を見ること会って近くで話すこと、そんな当たり前のことが、どんなに大切なことか、どんなに心の活力になることか、今になって痛感している。

きっと同じ思いをしている人が、この世の中にはたくさんいると思う。

病気の苦しみだけでも辛いのに、どうして家族に会えない苦しみまで上乗せされなければならないのか。
どうして孤独とも闘わなくてはならないのか。
そして私にはどうすることも出来ないのか。
そんなことばかり考えてまう。

今になってこんなことを書いてみたくなったのは、自分の行き場のない思いを吐き出したかったから、それと入院患者とその家族の苦悩を誰かに知って欲しかったから、多分それだけ。

でも、もし同じ思いをしている人に届いてくれたら、少しは意味があるかもしれない。

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