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チャイメリカを観たらどうしても文章を書きたくなったので。

 世田谷パブリックシアターで上演された『CHIMERICA チャイメリカ』という作品を観た。主演は今をときめく田中圭、そして栗山民也演出。見逃すわけにはいかない!とチケット争奪戦をなんとか勝ち抜き、運良く2公演(2/9夜、2/15夜)を観ることができた。2回目を観てようやく自分の中で腹落ちしてきたので文章にしてみたい。
(注:映画『図書館戦争』以来の田中圭ファンです。)

 あらすじなどは公式ホームページをご覧いただくとして。舞台は2012年のニューヨーク、そして1989年の中国・天安門。アメリカ人カメラマンのジョーと、その友人ヂァン・リン、そして周囲の人々の物語。

※この先は盛大にネタバレしていますm(_ _)m

「戦車男」の写真に写されたもの

 この作品の中心に「1枚の写真」が据えられた意味を考えてみる。「戦車男」を写したジャーナリストであるジョーは、この世界史に残るヒーローが生きていると知り、何としても探し出そうとする。彼にとって、そのヒーローを見つけ出し、再び世界のスポットライトを当てることこそが正義だった。さて、「戦車男」は本当にヒーローなのだろうか?ジョーが写真に写したものは、彼がそこに見出したかったものではないか?写真は単なる事実の記録ではなく、写す人、そして見る人のまなざしを切り取るものである。

人々のまなざしをめぐる物語

 物語の中で、ジョーのまなざしはいつもひとつにしか向けられない。彼の行動は盲目的で、そのために周囲の人たちが傷つけられていることにも気付かない。それでいて無邪気で、正義感が強く、自分が信じたものにまっすぐな彼を皆憎めないのだ(もちろん観客たちも。これが田中圭の上手さだと思う)。このジョーのキャラクターはヂァン・リンにも通じていると思う。彼らが親しくなったのは、同じくらい無邪気でまっすぐだったからだ。23年の時を経て、また、中国とアメリカの距離を経て、2人の「正義」は少しずつすれ違っていく。

 真実や正義の答えはひとつなのか?ジョーにとっての正義は、丸腰で戦車の前に立つ男だった。中国で自由を求める人々にとってのそれは、戦車男かもしれないし、戦車を前進させなかった兵士かもしれない。正しさはいつも主観的だ。そして、誰かに押し付けられた正しさを受け入れることは自由ではない。その意味で、ジョーも公安も同じなのだ。スモッグではなく「霧」だと言うことも、戦車男にヒロイズムを求めることも。中国の多くの人々は、ヂァン・ウェイのように、「ふつうの暮らし」を選んだ。事実に目を背けることになっても、生きることを選んだ。それも真実であり、正義である。

戦車男の買い物袋には何が入っていたのか?

 ヂァン・リンがジョーに突きつけた「みんなに見えるものが、あなたには何一つ見えていない」という言葉が、この戯曲の問いかけのひとつとして重く響いている。テスやメルは、戦車男の買い物袋には何が入っていたのかと問う。そしてジョーはそれをくだらないことだと切り捨てた。ここで切り捨てたものは、誰かの今日1日、誰かの人生なのだ。

 この舞台を観たあと、映画『ホテル・ルワンダ』のこんなやり取りが浮かんだ。

「この映像を流せば、世界は私たちを助けてくれる?」
「世界の人々は、怖いねと言うだけで、ディナーを続けるだろう」

痛烈な皮肉である。どんなに凄惨な光景を目にしようと、基本的に人間は自分以外のことには興味がない。ヂァン・ウェイはジョーに対して「ヂァン・リンが助けを求めても、あなたは助けなかった。グァンシー(絆)を築いたのに」と言い放つ。ジョーは世界の警察然とするアメリカ人だ。それでも、彼は友人1人すら救えない。ジャーナリズムを振りかざしながら、ディナーを続ける側だった。

まとめ――ジョーのまなざしに自分を見る

 繰り返しになるが、ジョーは悪いヤツではない。ちょっとすけこましの普通の男だ。このストーリーの中では彼に共感なんてできないと思っていたけれど、自分だって同じディナーを続ける側だ。インターネットや物流、さまざまな交通が発達し、目まぐるしい速度でモノが行き交う現代社会において、もはや自分の目に見える範囲だけでは生活できない。他者のまなざしを想像することは、私たちの義務だ。だからこそ誰しもがジョーになりうる。正義とは何かを語るときに、写す側、見る側、傍観者にしかなれないのだ(演劇を通じてそれを思うというのもまた皮肉……)。

 真実や正義を追い求めることは崇高である。しかし、それは唯一無二の答えではない。ましてや、万人の幸せではない。人々は、どこを向いて、何を考え、何を話し、何を聞くのだろう。「多様な価値観」からこぼれ落ちたものはどこにいくのだろう。膨大な情報やモノに溺れないように足掻きながら、私たちはこの作品の問いかけを自らに問い続けなければならない。

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