「セレッソのみんなが大好き」インドネシア初プロ選手 ザーラ ムズダリファが大阪で挑戦する思い
トップ写真:©2023 MAISHIMA PROJECT
舞洲Voiceでは、3つのプロチームが拠点を置く舞洲ならではのインタビュー記事をお届け。『#舞洲での思い出』と題し、舞洲を拠点に活動する選手にお話を伺います。
今回登場するのは、セレッソ大阪ヤンマーレディースのザーラ ムズダリファ選手です。12歳の時にチーム唯一の女子選手として出場した、男子サッカーの国際大会で優勝を経験。以降、イングランドのSouth Shields FCでのプレー経験を経て、2023年7月セレッソ大阪ヤンマーレディースに完全移籍を果たしました。
インスタグラムのフォロワーは90万人を超え、母国インドネシアではサッカーのパイオニア的存在として知られるザーラ選手。彼女のサッカー人生を振り返りつつ、セレッソへの思いや母国インドネシアにおけるサッカーの課題、今後の目標について伺いました。
プレーするのは、男の子も女の子も一緒
ーサッカーを始めたきっかけについて教えて下さい。
私が7歳の時に、父がフットサルの試合に連れて行ってくれました。それをきっかけに、遊ぶことよりもフットサルにのめり込んだんです。ボールを蹴る楽しさ、ゴールを決める喜び、パスを出す満足感、そして1対1のプレーの緊張感など、自分でプレーをすることでフットサルの面白さを知りました。
サッカーが上手くなりたいという思いはあったものの、インドネシアには女子のサッカーチームはなかったので、自己流で練習を始めました。3年が経った頃、初めて父にリフティングやシュートを披露した時には上手だと驚いてくれたので嬉しかったです。
その後、父からサッカーチームへの入団を勧められ「入りたい!」と即答。でもやっぱり女子チームは見つからなくて男子チームへの入団を提案されたんです。私はサッカーが上手くなることに性別は関係ないと思っていたので、迷わず男子チームへの入団を決断しました。男子と一緒に練習をしたのは10歳から14歳まででしたが、私はこの4年間でたくさんの経験を積むことができました。
ー4年間で印象に残っていることは、どんなことですか?
12歳の時に、ノルウェーカップ、マレーシアのタイガーカップ、シンガポールのJSFLに出場して、全ての大会で優勝しました。その結果、チーム唯一の女子選手だった私は、メディアから注目を集めるようになったんです。この時に、多くの方々が、女性もサッカーがプレーできることを認識したと思います。
ただサッカーの認識は変わっても、FIFAのルールは変わりません。男子とプレーができるのは14歳まで。それ以降は、男子と同じ試合に出場することはできませんでした。
やっと叶った、「プロ」サッカー選手の夢
ー所属チームを退団された後のキャリアについて教えてください。
退団後も諦めずにトレーニングを続けた結果、ASIANA Soccer Schoolとエージェント契約を結ぶことができ、ヨーロッパでのトライアウトを経て、イングランドのSouth Shield FCと契約をしました。
ーなぜインドネシアではなく、海外でのプレーを選択されたのですか?
海外に渡った理由は、パフォーマンスを披露する場が欲しかったからです。インドネシアには女子サッカーのリーグがないため、一般の方々にプレーを見てもらう機会はほとんどありませんでした。母国を離れることは勇気のいる決断でしたが、イングランドではより多くの経験を積めましたし、大勢の方々に自分のプレーを見てもらうこともできました。
その後セレッソ大阪ヤンマーレディースから、2週間のトライアルの機会をいただき、日本での挑戦を決めました。
ーつい先日までは、学業を続けながらサッカーも続けていたそうですね。
セレッソでの3ヶ月間の練習参加中、実は卒業論文を書いていました。既に大学を卒業したため、今はサッカーだけに集中できています。
今までは学業と両立しながら頑張ってきましたが、今後は契約を結んだプロの一人としてサッカーに全力を注ぐつもりです。トレーニング方法や試合に対するプレッシャーなど、これまでと全てが変わると思いますが、覚悟はできています。
ひとまず今は、子供の頃からの夢だった「プロサッカー選手」という夢を叶えることができて、本当に幸せです。
ーチームに合流してみて、いかがですか?
驚きました!ヨーロッパの選手と比べて、日本の選手たちは小柄で可愛くて、礼儀正しいなと。これは私が日本人を大好きになった理由の一つでもあります。それにみんなすごく親切でフレンドリー。英語でたくさん話しかけてくれて、日本語も教えてくれました。
でもピッチの上では全く違う印象を受けました。試合の時は普段の姿からは想像できないくらい真剣な顔つきですし、一緒にトレーニングをした時はレベルの高さに驚きました。セレッソはトレーニングのレベルが高く、毎日へとへとになりながら練習しています。でもその厳しさが挑戦意欲を掻き立て、セレッソの選手のようになりたいと思わせてくれるんです。
選手たちが家族のように温かく迎え入れてくれたので、たった2週間で私は心を掴まれました。今は本当にセレッソ大阪が大好きです。
ー今後の女子サッカーの環境について、求めていることはありますか?
インドネシアにも女子サッカーのリーグができて欲しいです。もしリーグがあれば、選手たちは1シーズンに一定数の試合に出場することができます。
定期的に試合があれば、彼女たちのモチベーションも高まりますし、ナショナルチームの強化にも繋がると思っています。リーグ設立は私の唯一の願いです。
ーインドネシアでは女性がサッカーをする上で、どのような課題がありますか?
若い頃は、ただ自分が好きだからという理由でサッカーをプレーできますが、20歳を過ぎれば生計を立てるために働かなければなりません。インドネシアには才能のある女性選手たちが大勢いますが、リーグが存在しないため、結果的にサッカー選手として生きていくことをを諦めざるを得ないんです。
また、私のように男性と一緒にプレーすることを選ぶ女性選手はそう多くありません。私は男女の差を気にしていませんでしたが、男性と同じピッチでサッカーをすることに違和感を感じる選手も少なくありません。
みんなが自由にサッカーをするためには、女性のためのアカデミーとリーグの両方が必要だと考えています。
休日は、たこ焼きに1時間
-文化の違いについて、何か感じていますか?
だんだん日本の文化も分かってきました。挨拶を重んじる国民性と時間に対する意識の高さを実感しています。インドネシアは遅刻が当たり前なので、3時に集合と決めても、実際にみんなが集まるのは4時頃(笑)。しかし日本では、3時に会う約束をすると、みんなは2時には来ています。2時ですよ?!
最近はその文化にも慣れてきたので、インドネシアの友人と3時に約束をすると、私は2時に来て2時間も待つことになるんです。その時に「ああ、インドネシアにいることを忘れてた」と文化の違いを思い知ります(笑)。
あとは規律や清潔さなど、非常に多くのことを学びました。日本は公共の場も清潔に保たれているので、私も綺麗に使うように心掛けています。
-日本でチャレンジしてみたいことはありますか?
挑戦的でアクティブなことが好きなので、スカイダイビングをやってみたいです。
あとは自然のある場所へ旅行に行きたいですね。まだ訪れていない所がたくさんあるので、時間を見つけて行ってみたいです。
-大阪、もしくは日本で気に入ったこと、食べ物、スポーツなどはありますか?
富士山でのスノーボードが楽しかったですね。食べ物は、寿司とたこ焼きが大好きです。日本に来てたこ焼きを食べた時、インドネシアとの違いに本当に驚きました。私が今まで食べてきたものは、たこ焼きでは無かったです(笑)。
特に大阪駅の近くで食べたたこ焼きは本当に美味しかったです。いつも長い行列ができていて、1時間並びましたが、食べる価値はあると思います。
セレッソにいる仲間が大好き
-日本とインドネシアのサッカーの違いについて教えてください。
日本はチームプレーを非常に重要視していますね。インドネシアやイングランドではチームの連携より、いかに個々で相手を倒せるかを重要視していました。
日本のプレースタイルはパス中心で、試合中には高い集中力が求められます。ボールを失わないためには、どこにパスを出すかを瞬時に考えなければなりません。インドネシアでは、楽しければそれで十分といった雰囲気もあるので、サッカーへの向き合い方は全く違いましたね。
ーセレッソ大阪ヤンマーレディースの特徴はどういうところですか?
セレッソの選手たちの特徴は、持久力の高さです。練習の強度は常に高く、終わるといつも疲れてヘトヘトです。
イングランドにいた頃は練習後に友達と遊びに行ったり、他のスポーツを楽しむ余裕もありましたが、今では考えられません。練習が終わったら早く家に帰って休みたいです(笑)。
ーセレッソ大阪での挑戦的な日々が今のザーラさんにとても合っているように感じます。
毎日が挑戦の連続です。練習が厳しいと感じることもありますが、自分を追い詰めてコンフォートゾーンから抜け出せる環境はありがたいです。
すぐには難しいと思いますが、徐々に練習にも慣れていきたいです。慣れるというのは決してネガティブなことではなく、自分が選手としてレベルアップした証だと思うんです。セレッソには素晴らしいプロの選手がたくさんいるので、彼女たちのようになりたいです。
-日本で注目されている選手はいますか?
私はここにいる親切な仲間がみんな大好きですが、中でも注目している選手は16歳で、同じポジションの栗本悠加(くりもと・ゆうか)選手(※)です。
彼女はプレーも素晴らしいし、スタミナ面でも非常に優れているんです。それなのにまだ16歳なんですよ。それが驚きで、将来的にスーパースターになる可能性があると思っています。彼女のやる気や、ボールを持ってドリブルする様子からも、サッカーを本当に楽しんでいるように見えます。彼女のプレーを見た瞬間、心を掴まれましたね。
「まだ今の私では敵わない」と感じつつも、彼女の活躍を目にすることで「私もあんな風になれるはず!」と思い、モチベーションを上げています!
ー次のシーズンの目標を教えて下さい。
セレッソ大阪ヤンマーレディースがリーグ優勝することです。そして、自分自身が成長し先発メンバーとしてプレーできるようになることが目標です。
もちろんベンチから応援してチームが勝利することもとても嬉しいですが、将来的には先発メンバーとしてプレーできるようになりたいと思っています。