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色褪せないリトルブラックドレスの魔力

リトルブラックドレスに魅了されたのは、女子の世界が小悪魔ブーム真っ只中だった時代。私がまだ29歳の頃だった。

ある編集者さんの披露宴に出席したとき、同世代とおぼしき、ひときわ目立つ大人っぽい女性がいた。

彼女は、凄まじい色気を放っていた。

その彼女がリトルブラックドレスを着ていたのだ。

ドレスはシンプルなブラックのタイトワンピースだったのだけど、なんせ色気が一般的ではない。とはいえワンピースのラインは決して、ボディラインが目立ちすぎるものではなかった。

それなのに、彼女自体から放つ品の良い色気は、会場のハッピーな空気感も巻き込み、薔薇のようにその場を香り立たせていた。

DNAからくる魔物のような圧倒的な色気は、よく見るとディティールからも演出されていることも分かった。

例えば後ろにまとめた髪のうなじから。そして一筋はらりと目にかかった前髪からも。凝り過ぎていないシンプルネイルもかえって生っぽかった。メイクは、ブラックアイナーとマスカラで切れ長の目を強調していてとても似合っていた。紅いリップにも、夜を思わせるねっとりとした唇ではなく、昼間の披露宴にふさわしい色気がほどこされていた。

全て、彼女の計算だったのだろうか。

一目で魅了され、彼女の魅力の秘密を解くために懸命に目で追っていると、彼女から話しかけられた男性はもちろん、女性さえも、頬を染めていることに気づいた。

「本物の小悪魔とはああいう人の事をいうのだ」と尊敬の念さえ抱いた。

そして同時に、リトルブラックドレスには、オンナを無言の色気を纏わせてくれる不思議な魔力があると思った。

密かに噂されていた「黒はモテないから着ない」という発想は安易であるとも感じた。

むしろ「おいしそうな女」の中に要素としてあり続ける「モテ」の雰囲気作りなら、魔力を持った小悪魔カラーである黒は、時代が変わっても色褪せずに君臨し続けるだろう。

私は彼女を見かけたときからそう考えてきた。

そもそも黒という色自体に魔力がある。様々な色を重ね合わせたときにできる最後の色、その先はない。

もともとは喪服の色。

それを、1926年、喪服として受け入れられていた黒一色のドレスをファッションブランド「シャネル」がモードの洋装として発表したのがきっかけでうまれたのが、リトルブラックドレスだそうだ。

“その先はない色み”にその先を作ったのがシャネルだったのだろうか。

女性には、抑制された中で、個というものを自由に表現したときにこそ放たれる美しさというものがある。

リトルブラックドレスとひとことで言っても、タイトワンピースは魔力を兼ね備えた小悪魔になるし、フィット&フレアワンピースは、キュートで賢い小悪魔、レースワンピースは、エレガントな小悪魔といったように、規制のあるリトルブラックドレスの中でも「個」は発揮できる。

規制のある中での美という魔力。

さぁ、あなたはリトルブラックドレスをどう着こなす?

柴崎マイ

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