見出し画像

健さん(完)健とひとみは、あっさりと結婚を決めた。

健とひとみは、本当にあっさりと結婚を決めた。
その「あっさり感」には、父良夫と健の妹静香も驚くほど。
何しろ、一緒に金目鯛の煮付けを食べた夜に、「決めました」との結果報告だったのだから。

ただ、父良夫も、健の妹静香、健の実家も、実は望んでいたことなので、反対する理由はない。

それどころか、まず先に佃島で大騒ぎが始まってしまった。
「結婚式場の予約を早く、新婚旅行もさっさと決めろ」
「モタモタしない、伊豆長岡にも挨拶、佃のみんなにも挨拶」
「家具屋にも行かないと、電化製品は?」
「衣装は紋付と高島田?ドレスはどうする?」
「美智代さんにもっと料理を教わって!金目鯛の煮付けだけでは健さんが可哀想」
「健さん、スピーチの練習はしたの?」
「エスコートするんだよ、練習したほうがいいよ!」

そんな大騒ぎの中、健を狙っていた料亭の圭子は、落胆しきり。
「まさか、ひとみちゃんに取られるなんて」
「おっとりしているから、恋敵とも思っていなかったけれど」
「あのスーパーで二人で買い物している姿を見るとねえ・・・」
「不器用な二人が、あんなに和気あいあいと・・・」
「全く・・・これで私もまた婚期が遅れる?」

また、女子高生集団は、諦めるのは、あっさりだったけれど、健とひとみの結婚式に出たくて仕方がない。
「将来の参考になる」
「文金高島田になるって、それを見たい」
「健さんのために、みんなで応援歌を歌おうよ」
「昭和風?それでも新しいかも」
「健さんって、歌って知っているのかなあ」

さて、そんな大騒ぎをよそに、健とひとみは、まず佃住吉神社に二人で参拝、結婚の報告。
そこから歩いて、佃大橋にのぼる。


「これからは、ひとみさんって、呼ぶよ」
ひとみは、首を横に振る。
「だめ、ひとみでいいの」
「私は、旦那様って言おうかな」
健は苦笑い。
「すごくレトロな言い方だなあ」
ひとみは、健と腕を組む。
「何を今さら?・・・誰かさんがレトロだから、ちょうどいいの」
健は神妙な顔。
「気持ちを言うのが、遅れてごめん」
ひとみも、顔が途端に真っ赤。
「私だって・・・ごめんなさい」
「でも・・・離さない」
健はひとみを強く抱く。
「離れたくなかったから、ここにずっといた」
「それ以外にはない」

ひとみは、そのまま健に身体を預けている。

                                                                                      

                      (完)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?