記録によって記憶は彩られる(『佐々木さん、記録って何の役に立つんですか?』感想)
読みました。
『佐々木さん、記録って何の役に立つんですか?』、とてもおもしろかったですね。
私自身記録が好きで、本書の中に登場するツールTaskChuteユーザーというところを抜きにしても、おすすめだと思います。
記録によって記憶の精度が上がる
本書のポイントの一つが「記録により記憶の精度が上がる」ということです。
アスリートが練習や試合の記録をノートに残すのはよく行われています。
たとえば中村俊輔選手の「サッカーノート」、羽生結弦選手の「発明ノート」などですね。
この理由は、記録により自分を客観的に見ると同時に、記憶の解像度を上げることが重要だからだと思っていますし、本書でも触れられています。
「身体の記憶がより詳細になっている。そのためにアスリートはみんな記録を残します。それと同じことをやればいいと思います。」
アスリートにとって自分を客観的に見る、自身の記憶の解像度を上げることは、「自分自身をより上手に動かす」ことにつながります。
特に記憶の解像度が上がれば、自分がどう動いていたかが細かくわかります。
たとえば陸上で走るときにコーチから「腕を振れ!」と言われるよりも「肩甲骨を軸にして、上腕二頭筋には力を入れるな!」と言われた方がどこに気を付けたらいいのか分かります。
(脱線→ちなみに、この陸上のアドバイスが正しいかは不明なので、信じないでください。でも解像度が高い指示であれば効果がなかった時でも修正はしやすいはず→脱線終了)
記憶の解像度を上げるということは、昨日自分が「腕を振った」のではなく、「肩甲骨を軸にしていた」かが分かるということです。
そうした差もたらす結果は積み重なれば大きくなります。
こうした記録の効果は、自分自身をより上手に動かすことにつながるのです。
そして、『ハンター×ハンター』での好きな理論に、この理論があります。
すごい大雑把に言うと「相手の最低能力値より自分の最高能力値が高ければかつ可能性はある理論」です(20巻でビスケがキルアに言ってました)。
「自分自身をうまく動かす」=「自分の最高値に近い能力を出す」とすれば、勝率は上がると考えられます。
まぁ何に勝つんだというのは置いておいても、仕事などにおいて自分自身をよりうまく動かすことの効果は複利的にじわじわ効いてくるはずです。
記録による記憶の彩色
この本の個人的なもう一つのポイントは「記録は記憶のフックになる。そして、そのフックは何になるか分からない」ということです。
本文中から引用します。
ごりゅご 地図が詳細だったことを記録するのは大事だけれど、その記録そのものはそれほど重要ではないということですか。
佐々木 そうではないです。これは結局「何が大事かはわからない」ということを意味しています。ゼンリンの地図がすごく詳細だというのは当時の記憶の中でもけっこう鮮やかに残ってるんですね。だからそれは「大事」だったんです。そのときのゼンリンの地図の雰囲気を思い出すと、仕事をどういうふうにしていたかを一緒に思い出すんですよ。筋トレで特定の場所を鍛えると他の場所も一緒に鍛えられてしまうという話があるんですが、それとちょっと似ています。とにかく印象に残ったことを記録に残しておくと、その周辺の記憶を必ずいっしょに思い出すようになる。それがつまり仕事に関するすべての記憶を含むんじゃないかなということです。
記憶を引き出すためのフックは何になるか分かりません。
さて、次に引用するのはスティーブジョブス氏の有名なあのスピーチです。
もちろん、当時は先々のために点と点をつなげる意識などありませんでした。しかし、いまふり返ると、将来役立つことを大学でしっかり学んでいたわけです。
繰り返しですが、将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。
「ハングリーであれ。愚か者であれ」 ジョブズ氏スピーチ全訳|日本経済新聞
点と点をつなぎ合わせるのは後からしかできない、そう、後からしかできないのです。
今日私が行ったあることが伏線となり、どこかで回収されたとき点と点は繋がります。
問題は伏線を忘れてしまった時です。伏線は回収されたとき、おもしろさは倍増します。自分の人生であっても同じです。
わたしと妻との出会いには、個人的な伏線が記録として残っています。大した伏線ではありませんが、この伏線がなかったら全く違った人生になっていたのだろうなと思うと、なんとも人生の奥深さを感じます。
しかし、伏線が記録として残っていなかったら、記憶として残っていなかったら、そんな奥深さは感じられないのです。
こうした伏線の回収により、記憶はより色鮮やかになります。そのためには記録が必要なのです。
自分の人生は、極論を言えば自分の頭の中にしかありません。
自分の頭の中にある人生を彩るための一つの方法、それが記録なのだと思います。
眠った時に見る夢に色はないと言いますが、記録をすればきっと色がつくでしょう。
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