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ほんとにあった不思議な出来事 はじめての告白┃004

十年以上前の話になります。 先にことわっておきますが、私には霊感も無ければ、稲川淳二さんのような体験もありませんし、空想癖や記憶障害なども一度もありません。 ただ、あの日の出来事だけは、、、、、

当時私は転職したばかりで、運悪く、今で言うところのブラック企業に営業として入社してしまいました。転職した経験のある方ならわかると思いますが、営業系の場合、入社して最初の1年は大変重要で、その期間で結果と周りの評価を得れば、仕事が良いサイクルでまわりだしますし、逆であれば会社に居場所は無くなります。 そのため自主的に、毎日終電ぐらいまで働き、土日の出勤も積極的にしていました。(いつも転職後の1年間は刑務所にでも入ったつもりで、仕事で結果を出すためだけに集中していました。)

そんながんばりもあり、新規の受注も順調に獲得していたある日、外回りしていると、営業部長から携帯に連絡があり、すぐ会社に戻るように指示がありました。理由は、私の新規クライアントから2ヶ月ぐらい入金が無かったからです。すぐクライアントの担当者へ連絡しましたが、電話がまったくつながらないのです。嫌な予感もあり、即日訪問しましたが、会社は施錠されていて、私と同じような業者っぽい人が2~3人いたので、話をうかがってみると、彼らも同じ督促で来ていました。

嫌な予感はしていましたが、その会社は事実上倒産していたのです。社内的な建前として、破産管財人と交渉して回収できるようにします、とは報告しましたが、現実として相手側に資産が残ってなければ交渉など時間の無駄です。 言い訳になりますが、どうしても新規営業中心に開拓していると、社内の取引規定で事前審査はしますが、変な会社に当たる確率も多くなるものです。ただ、営業は回収までが仕事ですので、責任はとるつもりで上司に相談したところ、「とりあえず明日、始末書を本社経理部に提出してくれ、俺も一緒に行くから、、。」との指示がありました。

今の時代ならバカみたいですが、明日の謝罪ために髪を坊主にしてくれ、との上司指示もあり、その日は雨が降ったり止んだりでしたが、当時の彼女からプレゼントされたハイブランドの傘を差し、退社後にオフィス街を理髪店探してブラブラしていたのです。大通りから路地に入り歩いていくと、ボロボロの家やアパートがあったり、ビジネス街とは思えない風情のあるエリアでしたが、その一角に、クルクルまわってはいませんでしたが、理髪店のサインポールが目に入ったのです。 店内を覗くと明かりが見え、営業中のようでしたので、「ごめんください、、。」と声をかけてみました。しばらくすると、ハゲていて、わずかに残っている髪は異常に長く、疲れているのか、目には大きなクマがあり、顔色も悪く痩せた高齢の男性(70代ぐらい)が奥からでてきたのです。今思いだしても、奇妙な幻をみているような瞬間でした。

私「営業中ですか?」

おじいさん「ええ大丈夫です。」

私「坊主にしたいのですが、できますか?」

おじいさん「ええ、どうぞ、こちらへ。」

正直、高齢すぎたのと、声が弱々しく、動作も遅い感じでしたので、不安もよぎりましたが、バリカンで坊主だから大丈夫だろうと思い、鏡の前で座って待っていました。 すると、手にバリカン?? 今では見かけることは無いでしょうけど、おじいさんは、手動の錆びたバリカンを握って鏡越しに微笑みかけてきたのです。 

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その時やっと、この店やばいと気付き、席を立とうとした瞬間、鏡越しにおじいさんと目が合ったのです。すると体が金縛りというか、腰や足が脱力した感じで、まったく力が入らないのです。 すると おじいさんは、ゆっくりと近づいてきて、ゆっくりと手を動かし、ゆっくりとバリカンを反復させました。 感覚的には30分ぐらいだったと思いますが、おじいさんがバリカンを下げて、少し離れた瞬間、私は我に返りました。 そして鏡にうつる自分の頭を見た瞬間、戦慄が走ったのです。 そう、、、、まるで落ち武者のように、、、、、

落ち武者

特に頭頂あたりは、髪をすいたようになっていて、20~30本のみ長いまま残っているので、ちょっとイっちゃってるヤツのようにしか見えず、私は思わず叫びました、「これで終わりじゃないよね!」 するとおじいさんは、ゆっくりと「カットは終わりで、あとシャンプーじゃ。」  と言い、何事も無かったように微笑みかけてきたのです。

怒りと不安で体の震えが止まらず、ふざけんなーと叫ぼうとした瞬間、また鏡越しにおじいさんと目が合ったのです。するとまた、体が金縛りというか、腰や足がしびれるというか、まったく力が入らないのです。 そしておじいさんは、ゆっくりと近づいてきて、ゆっくりと私の落ち武者頭をシャンプー台へ押し込んで、ゆっくりと頭を洗い始めました。そこから気を失っていたようで、ハっと気がつくと、元の位置で鏡の前に座らされていました。

そして鏡にうつる自分の頭を見た瞬間、ふたたび戦慄が走ったのです。そう、、、、シャンプーのようなピンクの液体が頭から顔へダラダラたれたままの状態なのです。 そしてその液体は間違い無く、幼い頃に大好きな祖母の家に遊びに行ったとき嗅いだ記憶がある、エメロンシャンプーの匂いだったのです。

戦慄と恐怖、そして、懐かしい郷愁が入り混じった不思議な感覚、、、。

でも私は思わず叫びました、「これで終わりじゃないよね!」 するとおじいさんは、ゆっくりと「シャンプーは終わりで、あと乾燥じゃ。」  と言い放ち、また何事も無かったように微笑みかけてきたのです。

ちゃんと洗い流さないで乾燥させるつもりか!と、ふたたび怒りと不安で体の震えが止まらず、ふざけんなーと叫ぼうとした瞬間、また鏡越しにおじいさんと目が合ったのです。するとまた、体が金縛りというか、腰や足がしびれるというか、まったく力が入らないのです。するとおじいさんは、ゆっくりと近づいてきて、ゆっくりとドライヤーを近づけ、ゆっくりと液体で濡れた落ち武者頭をワシづかみにし、ゆっくりと頭を乾かしはじめました。そこでまた気を失ってしまい、はっと気がついた時には、私の頭は、落ち武者カットに得体の知れない液体が乾燥状態でコビリついており、この世のものとは思えないヘアースタイルに仕上がっていたのです。




あらためて自分の落ち武者頭を目のあたりにすると、現実を思い知り、無力感というか、何も抵抗できない放心状態におちいり、私はおじいさんに言われるままにお勘定をして、お店を出ようとした瞬間、背後からおじいさんの「また、来年おいでや、、。」という無邪気な声が聞こえましたが、くやしくて、くやしくて、後ろを振り返らず店外へ駆け出しました。

そして我に返り、今置かれている状況を理解し、タクシーに乗り込み、安売りの殿堂ドンキホーテ前で降ろしてもらい、帽子を購入し、とりあえず落ち武者ヘッドを隠すことに成功し、その足で東急ハンズに行き、電動バリカンを購入し、スーツ姿に帽子は奇妙でしたので、またタクシーを拾い、自宅まで命からがら逃げ帰りました、、、、。 しかし、あとになって気づいたのですが、傘を理髪店に忘れてきてしまったのです。ビニール傘なら気にもしませんが、その傘は当時の彼女からプレゼントされたものだったので、思い出したくも無い理髪店でしたが、やむを得ず後日とりに行く事にしたのです。

ちなみにその夜、東急ハンズで購入した電動バリカンで、生まれて初めて、自分自身で頭をまるめました。バリカンも初めてでしたので、鏡を見ながら後頭部をカットするのが、とにかく大変だった記憶があります。

最悪の体験でしたが、倒産の件は会社の経理部への報告や謝罪も無事済んで、今回は始末書の提出で落着しました。

それから数日後、忘れた傘をとりに、再度、理髪店を訪れたのですが、営業日なのに、シャッターが閉まっているのです。仕方が無いので、日をあらためることにし、翌日、営業の途中でしたが、理髪店を訪ねてみると、またシャッターが閉まっており、その後も数回訪問しましたが、同じでした。ただ、ひとつ奇妙に思ったのが、シャッターの前に植木鉢がたくさん並んでいて、おそらく店を開けるたびに、植木鉢を移動させているわけで、つくづく変な理髪店だなぁ、と感じたのは覚えています。

それから数日後、今回も理髪店が閉まっていたら傘はあきらめるつもりで、会社のランチタイムを利用して理髪店を最終訪問したのです。やはりシャッターは閉まったままでしたが、植木鉢を手入れしている初老の女性がいらっしゃったのです。 私は、店主の奥さんかと思い、声をかけてみました。

私 「あ、すいません。こちらの理髪店の方ですか?」

女性 「ええ、今は店はやっていませんが、何か?」

私 「先々週に、こちらでカットしてもらったのですが、その時、傘をお店に忘れてしまったので、とりに伺いましたが、傘の忘れ物は無かったですか?」 すると、女性は怪しい人間を見るような視線で私を見ていましたが、しばらくすると、、、、驚愕の事実を語り始めたのです。

女性 「うちのお店は、1年ほど前に閉店してますので、何か間違えてませんかしら、、、。お店は主人が経営しておりましたが、1年前に他界しており、その時に廃業してるんです。三回忌まではお店はそのままにしておくつもりですが、私はここの2階に住んでおり、ここ最近でシャッターを開けたことも無く、時々、植木鉢に水をやったり手入れをするぐらいなんです。 ほかのお店と間違えてませんか? 」

私 「ええー! いえ、勘違いではありません、間違いなくコチラのお店です。」

とにかく私は、その時のご主人の特徴やお店の内部、自分の傘の特徴、ブランド名など、覚えてることは、すべて話してみました。すると、女性はしばらく考えこんでいるようでしたが、私の話が店主の特徴をとらえていたようで、とりあえずシャッターを開けて店内を調べてくれることになったのです。

そしてシャッターを開け店内へ入ると、入り口横にある錆びた傘立てに、まぎれもない「私の傘」が残っていたのです。 女性も私も身動きがとれず、しばらく放心状態でした。女性は泣いているようでしたので、私は丁寧にお礼を言い、手を合わせて黙祷だけさせていただき、傘を受け取って失礼させていただきました。

以上が、あの日の出来事のすべてです。そして初めての告白です。もっと怪談風に話を盛ることもできますけど、あくまで事実に忠実に告白しましたが、おかしな人に思われるでしょうね。でもその後、このような経験は、一度もありません。

後日談ですが、あの日以来、気持ち悪いので傘は折りたたんだまま利用していなかったのですが、当時付き合っていた傘の送り主の彼女が自宅に遊びに来たとき、傘を見つけて、「ちゃんと、使ってくれてる♡」と言って、傘を開いた瞬間、大量の髪の毛が傘の間から落ちてきたのです。その中には、長い髪もあったらしく、浮気を疑ってきました。 それでやむをえず、今回の不思議な出来事を話始めたのですが、途中で彼女が、「もう言い訳はいいから、そんな作り話やめてよ! 全然おもしろくも無いから!」 と怒りだして出ていったのです。 私も知人の怪談話など信じたことなかったので、彼女の対応も十分理解できます。 でも、、それが真実だから、、、。

その後しばらくして交際はうまくいかなくなりましたが、今でも雨の日にビジネス街を闊歩すると、あの日の出来事を思い出します。









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