没プロット②『下北沢ディスオーダー』3話

#3(仮)
夜のオフィス街。高層ビルの最上階に位置する部屋。
葉巻を咥えた大柄の男と鋭い目つきの眼鏡の金髪の男が話している。
葉巻男は窓を背に高級そうな革製の椅子に座り込み、眼鏡はその正面に姿勢正しく立っている。

葉巻男がねっとりと口から煙を吐いた。
葉巻男「小鬼の国ィ?あそこの扉は顕現時間3日と4時間だろうが。なんだって1時間程度で閉じやがった?」
眼鏡「ええ、お陰でゴブリン達との戦いで疲弊した街を襲う計画は失敗。さながら関ヶ原の官兵衛といったとこですかね。」
葉巻男「セキガハラァ?カンベエェ?わからん話をするな。理由は?調べはついているんだろうな」
眼鏡「町民達の話によれば、扉を消す力をもつ者が現れたとのことです。」
葉巻男「そいつは…」
眼鏡「ええ、計画の邪魔になりますね。」
葉巻男「わかっているなら消してしまえ。」
鋭い目で葉巻男を見据えて、礼儀正しく会釈をした後眼鏡を正す眼鏡男。
デスクに置いてあるガラスの小瓶からブランデーをグラスに注ぐ。氷を入れてカラカラとグラスを振ると、
一口で飲み切る。顔を顰めて乱暴にグラスをデスクに叩きつける。
葉巻男「この島国は酒も女も口に合わん。こんな仕事とっとと片付けて母国に帰りたいもんだ」
葉巻男「いいか?ワシは気は長くない。手段は問わん。すぐにあの街を手に入れろ。」
眼鏡「承知しました」
再び会釈をすると、眼鏡は部屋から出て行った。
低い笑い声を上げる葉巻男
葉巻男「ふっふっふ、全ては我がジュスティッツィア・ファミリーのために。」

場転。
古ぼけたアパートの2階。
204号室の住人、神枝縹が扉の鍵を閉めながら、眩しそうに陽の光に目を細める。
縹「今日もお仕事頑張るぞっと。」
アパートの廊下を歩く縹。隣の203号室の前で足を止めると、呼び鈴を押す。
しかし反応はない。
しばらく待ったあと、頭をかいて再び歩き出す。
縹(今日も不在かー。誰か住んでる気配はあるんだけどな。お隣だし挨拶したいんだけど…)
階段を降りながら、自転車置き場へと向かう。
その途中、マンションの敷地で上半身裸の白髪の長髪に眼鏡、口髭を蓄えた老人がゆったりとした動きで太極拳の舞踏のような動きをしている。
縹「おはようございます。天神さん」
天神と呼ばれた老人は縹を一瞥すると、「ふむ」と小さく返事をした。
縹(この光景にもだいぶ慣れたな。最初はマジでビビったけど。)
天神の横を通り過ぎ、自転車置き場の自身の自転車の鍵をいじる。
鍵を外し、自転車を敷地外まで押すと、スマホの地図を開き、指定された目的地を検索する。
縹「あ、グレイさんのとこか」
鼻歌を歌いながら、自転車を漕ぎ始める縹。
その背後、黒いスーツとサングラスの男が身を隠している。
黒スーツが耳に手を当てながら、小さく声を発する。
黒スーツ「目標移動、追跡を開始する。」

場転。
街の側に止められた黒塗りのハイエース。その車内。
先程の眼鏡と他に黒スーツが4人座っている。
黒スーツ「ニコロ様、対象移動を開始したようです」
ニコロと呼ばれた眼鏡が眼鏡を正す。
ニコロ「そうですか。では移動しましょう。常に一定距離を保ちつつ、隙があれば攫ってください。くれぐれも町民に見られないように、戦闘行為はできるだけ避けます。合理的にいきましょう。」
黒スーツ「はっ」


場転。
スープカレーMagokoro店内。
縹「お待たせしましたー。出前マンですー。」
厨房から顔を覗かせるグレイ。
グレイ「はーいもうすぐ出来るので少々お待ち下さい…おや、縹君」
爽やかな笑顔のグレイ
縹「どうも、グレイさん」
慣れた様子で挨拶をしながら、四角いリュックを下ろす縹。
グレイ「精が出ますね。」
縹「まぁいろんな借りがあるので、稼がないと…あっとそうだ。」
思い出したようにポケットをゴソゴソと漁る縹。
一掴みお金を取り出すと、そこから2500円を選び取り、グレイに差し出した。
縹「あのこれツケてた分です。遅くなってすみません。」
グレイ、きょとんとしたのち思い出したように「ああ」と声を出した。
グレイ「初日の分ですね。状況が状況でしたしお金は結構ですよ。」
縹「いやいや、悪いです!払わせてください!」
頑なに支払おうとする縹にグレイは諦めたように笑う。
グレイ「それでは縹君の分だけいただきます。」
と言いながら、差し出されていたお金から1250円受け取った。
グレイ「ナギさんの分は本人に支払わせましょう。あの人、一度奢ると調子に乗って何度もたかってきますよ。」
顔を顰める縹。
縹「神様としてどうなんですかそれ。」
グレイ「本当に。縹君、街はどうです。気に入りましたか?」
縹「そうですね。変なもんは色々見ますけど…」
グレイ「縹君は我々の存在を知ってしまいましたからね。」
縹「存在…?」
グレイ「ええ。駅員さん…ゴブリンの時に結界を張ってた方いたでしょう。彼の呪いで基本的に街に入る人間には認識阻害の呪いがかかるように設定されているんですよ。これは私達のような異世界の者の正体を認識した者には影響しないんです。」
縹「あー、普通の人に見えないのってそういう理由だったんですね。」
グレイ「そうですね。」
グレイが一瞬、鋭い目で店の外を見た。
グレイ「…ところで縹君、最近身の危険を感じるようなことはありませんでしたか?」
縹「え…ええ特には。異世界の扉もあれ以来開いていませんし。」
訝しむ縹。
店の奥から店員の声が響く。
店員「お待たせしましたー。配達分出来ましたー。」
縹「あ!ありがとうございまーす!」
手を上げながら店員の元に駆け寄る縹。
注文を確認しながら、リュックに配達分を詰める。
詰めている最中にグレイが縹の肩に触れ、耳元に顔を寄せる。
グレイ「縹君、この街の危険は異界の扉だけではありませんよ。気をつけてください。油断しているとあっという間に命を落としますよ。」
普段の朗らかな声とは違った低い声と恐ろしい警告に緊張する縹。
縹「えっと、それどういう…」
何かを考える様子のグレイ。
グレイ「…さぁ配達ですよ。配達先少し遠いですね。気をつけてください。」
縹「絶対なんか隠しましたよね今!!」
グレイ「ははは、何のことでしょう」
いつものにこやかな笑顔のグレイ。 
グレイ「さあさあいってらっしゃい!!」
不審な表情のまま店を出る縹。
その姿を見送った後スマートフォンを取り出し、電話をかけるグレイ。
グレイ「もしもし、今暇ですよね。」
電話越しに抗議の声が聞こえるが無視して続けるグレイ。
グレイ「少し話があります。」

縹なんだったんだ今の。とつぶやきながら自転車の下へと歩く。
再びルートを検索する。

自転車を漕ぐ縹。グレイの言葉を思い出す。
縹「…異世界以外の危険って何だろ。気になるな。」
縹「それにしたって命を落とすって…大袈裟な。」
自転車の横を車が通り過ぎる。すごく近くを通ったため縹の自転車が少しぐらつく。
縹「あぶな!!…まぁこんなに人とか車が多いのがそもそも俺にとってはそもそも危険だしな。」
はははと呑気に笑う縹。
ふと周囲を見る。ずいぶん街の外れまで来たようで、人通りがほとんどないエリアへと入っていた。
縹「あれ?この辺人通りが…道間違えたか…」
な。と言葉を言い終えるのと同時に先ほど通り過ぎた車が横に並んでおり、後部座席のドアが空いた。
ドアから複数の手が伸びてきて、縹の体を掴む。
抵抗するまもなく、縹の体は自転車ごと車の中に引き込まれ手足を結束バンドで固定された。
縹「え?え?」
と間抜けな声を出す縹。
金髪メガネのスーツの男が縹の横の席に座っている。ニコロだ。
ニコロ「ようこそ。神枝縹さん。」
ニコロ「誘拐完了です。出してください。」
ニコロが運転手に呼びかけると、何事もなかったように車が動き出した。

縹「ちょちょちょ!何なんですか突然!!!誘拐って言いました!??」
ニコロ「ええ、誘拐です。月並みな言い様ですけど、痛い思いしたくなければ大人していてくださいね」
愛想の良い笑顔で恐ろしいことを言うニコロ。
縹「身に覚えがないんですけど!」
ニコロ「誘拐に身に覚えがある人なんているんですか?」
縹「…お金も全然持ってないですよ?」
ニコロ「そうなんですか?日本のデリバリのバイトは稼げると聞いたのですが。まぁ構いませんよ。」
言いながら、銃を構えるニコロ。
ニコロ「別にお金は目的ではありませんから。」
突然の銃に硬直する縹。両手を挙げようとするも拘束のせいで出来ない。
黒服「ニコロさん、まだ殺すのは。」
ニコロ、銃を引く。
ニコロ「おっとそうでしたね。『利用できるだけ利用して』でした。」
縹、物騒な言葉に怯える。
縹「内臓、売るんですか…?」
ニコロ「ははは、そうですね。それもそこそこ価値が出るかもしれません。でも、1番価値があるのは君の右腕ですよ。」
ニコロの目の奥が不気味に光る。
そこで縹は彼らがただの誘拐犯ではなく、裏の街の関係者だと気がついた。

その瞬間。
車内に大きな音が響くと共に、ニコロと縹の間に巨大な鉄の塊が現れた。
驚きすぎて叫び声が声にならない縹。
よく見ると鉄の塊は大剣の刀身で車の天井を突き破って車内に侵入している。
一方、ニコロは驚いた様子もない。
ニコロ「あー見つかっちゃいましたか。」
困ったような声を出す程度だ。

車外。
車の上に大剣が突き刺さっている。
ニコロ「上に乗ってますね。振り落とせますか?」
車がスピードを上げて、蛇行する。しかし、グレイは微動だにしない。
その進行ルートに着流し姿の常盤が躍り出る。
手には刀と脇差を2本持っている。
常盤『四季真流 春型“花風”』
流れるような2本の太刀筋が奔る。
縹が乗っていた側の側面のボディが太刀筋に沿って切り開かれる。その過程でタイヤにも傷が入り車がぐらつく。
運転手が慌ててハンドルを切り車が横転する。
大剣を抜きながら跳び上がるグレイ。着地と同時に何度か地面を転がった車が動きを止める。

縹が目を開く。
妙な姿勢に驚きキョロキョロとあたりを見回す。
常盤によって小脇に抱えられるようにして抱えられていることに気がつく。
その横にグレイが立っている。縹の自転車とリュックを軽々と片手に持っている。
縹「常盤さん!!グレイさん!!」
常盤「ひどい目にあったな縹殿。生きているか?」
縹「…何とか…ありがとうございます」
グレイ「だから言ったでしょう?油断していると命を落とすって。」
店でのグレイの様子を思い出す縹。
縹「…グレイさん、もしかして俺が狙われてるのに気がついたました?」
グレイ「ええ、店の外から怪しい視線がありましたから、もしかしたらと。」
縹「ひっでぇ!!なんで教えてくれないんですか!!何で助けてくれないんですか!!」
憤慨する縹。
グレイ「こうして助けてるじゃないですか」
縹「事前にですよ!!!事前に!!!」
グレイ「ははは、実際に怖い目にあった方が危機意識が出るかと思って。」
縹「お気遣いありがとうございます!!!おかげさまでショック死するところでした!!!」
常盤「あきらめろ縹殿。騎士殿、脳筋だから。」
ケラケラと笑いながら常盤が縹の拘束を斬り優しく降ろしながら言う。

談笑している最中、2人の目が鋭く光る。
刀と大剣を素早く振るったかと思うと、音もなく駆け寄ってきたニコロの警棒を防いだ。
常盤「ふむ、いい腕だな」
ニコロ「光栄です」
素早く距離を取るニコロ。
ニコロ「皆さん起きてください。もう少し粘ってみましょう。」
背後の車から5人の黒服が現れる。
ニコロは片手に警棒、片手に消音機のついた銃を持ち自然体で構える。
グレイ「縹くん、少し下がってください」
常盤「あのメガネは俺がやる。縹殿の命と他のは任せるぞ。」
グレイ「…いいでしょう。」
向き合う両陣営。

黒服の1人が縹に向けて発砲したのを、グレイが防いだと同時に他の黒服達が駆け出す。
ニコロも目にも止まらぬ速度で距離を詰める。縹の前に躍り出るニコロ。
縹の眉間に銃をかまえるが、側面から振り抜かれた常盤の刀に、体を反転させ警棒で防ぐ。
常盤「無視すんなよ。お兄ちゃん。」
ニコロ「うーん、やっぱり抜かせてはくれませんか。」
警棒を弾くとそのまま、常盤が斬りかかる。

黒服達が抜き身のナイフやサブマシンガンを構えながらグレイに襲いかかる。
大剣で1人目のナイフを防ぐグレイ。
グレイ「ここで手を引くなら、見逃してあげますが?」
他の黒服がその隙を突くように剣を持つ手と逆側から襲いかかる。
グレイ「わかりました。命の保証はしませんよ。」
グレイの顔から先ほどまでの笑みが消え、鋭い目つきで黒服を睨む。
グレイがふっと小さく息を吐きながら剣を振るう。
とてつもない膂力で振り抜かれた剣は、受け止めている黒服だけでなく、
襲いかかる黒服を全員まとめて吹き飛ばした。
黒服達はなんとか着地する。サブマシンガンなど銃器を持った一斉にグレイに向けて発砲した。
グレイ『輝け、ティナード』
グレイの大剣が光を帯びる。そのまま大剣を地面に突き刺した。
グレイを中心に衝撃波が走り、弾丸が吹き飛ばされた。
たじろぐ黒服達。
衝撃で縹も尻餅をついた。
輝く巨大な剣を地面から抜くと、そのまま縦に振る。
剣を覆う光がその動作に合わせて奔り、刀身が伸びたように地面を叩く。
巻き上げられた煙が晴れると、地面には焼き切れたような焦げ跡が残っている。
巻き込まれた黒服達は焼け焦げて気を失っていた。

ふうと一息つくグレイ。振り向くと笑顔で、倒れたままの縹に手を伸ばす。
縹「ありがとうございます…」
と言いながら手を取り立ち上がる。

ニコロ「あーあ一瞬でしたね。」
ヘラヘラ笑いながら、ニコロが言う。
常盤「お兄ちゃんももうすぐああなるぜ。」
ニコロ「それはどうでしょう。」
眉間に突きつけられた銃に気がつく常盤。
弾丸が放たれると同時に体を逸らせて回避する。

そこにできた隙に警棒を振るニコロ。常盤もすかさず脇差で防ぐ。
そのまま何度か振り抜かれる警棒をギリギリで躱したり防いだりしながら数歩後退する常盤。
常盤「ちょ…なん…お兄ちゃん…只者じゃ…ねぇな…!」
防ぎながら、何とか声を出す常盤。
間断無い警棒の一瞬の隙をついて刀を振るう。
ニコロは無駄のない動作で飛び上がり、クルクルと回転しながら数メートル後方に着地した。
息一つ切れている様子はない。

グレイ「…偉そうなこと言っといてなに苦戦してるんです?」
常盤「いやコイツ普通に強いんだが!?」
呆れたグレイのツッコミに思わず反応する常盤。

ニコロ「お褒めに預かり光栄です。」
ヘラヘラわらうニコロ。
そして腰についていたホルスターに武器をしまう。
ニコロ「でもまぁここまでですね。仕事は失敗。
一応やれるところまではやりましたし。上も納得するでしょう。」

あっけに取られたような表情の常盤。
グレイ「逃がすとでも…?」
グレイが再び剣を構える。
ニコロ「逃げますよ。」
チリチリと睨み合う2人。

常盤「お兄ちゃん何者だ?ただのヤクザもんじゃねぇよな」
切先を突きつけながら常盤が問う。
ニコロ「ああ自己紹介、まだでしたね。私はニコロ・アモローソ。今はジュスティッツァ・ファミリーの所属です。
ご存知ですかね。この街を狙ってる某国最大のマフィアなんですけど。」
常盤「知らんよ。そんな奴らごまんと来る。」
ニコロ「ですか。」

ニコロ「あなた達2人は名乗らなくて結構ですよ。知っていますし。」
ニコロ「グレイ・オーブラム。通称【騎士の国】出身。最大国家アートリオットの副騎士団長。現在では分隊・
異界先遣隊の隊長でもありますね。表の世界での肩書きはスープカレー【magokoro】の店長。」
ニコロ「常盤長次郎。日本出身。日本剣術の完成形【四季真流】の正当後継者。こちらは表での肩書きは劇団月代団長でしたっけ。」
真剣な目でニコロを見据える2人。常盤の目には僅かに殺意が宿っている。
常盤「別に隠してるわけじゃ無いから知られててもいいんだがよ。
下の名前出さないでくれんか?嫌いなんだよ。」
ニコロ「これは失礼しました。ところで。」
殺意を難なく無視しながら、言葉を続けるニコロ。

ニコロ「君のことはもっと知りたいんですよ。神枝縹さん。異界の扉を閉じたって本当ですか?」
縹「……!!」
突然自身に振られた言葉に驚く縹。息を呑むが返答はしない。
ところがニコロはその反応から全てを理解したようで。
ニコロ「おや、その反応本当なんですね。」
と驚いたように声を出した。
ニコロ「本来であれば連れ帰って、調べ上げたいところなんですが。」
ニコロ「今はそのお2人が許してくれなそうですし。おっと…」
グレイと常盤が縹の前に立ち、庇うような立ち位置を取る。
ニコロは言いかけた言葉のまま背後を横目で見る。
そこには鉄パイプを振り上げたゴートンの姿があった。
するどく振り抜かれた鉄パイプを最低限の動きで躱しながら
ニコロ「3人でしたか。」
と笑った。
そのまま何振りか鉄パイプを回避したあと、後方に飛び距離をとるニコロ。

縹「ゴートンさん!!」
ゴートン「おう、こりゃ何事だ?せっかく気持ちよく寝てたのにうるさくて起きちまった。」
縹たちの方を見るゴートン。
ゴートン「常盤さん、グレイさん。確認ですけどコイツ敵でいいんですよね。」
ニコロ「ひどいなぁ、確認してから殴ってくださいよ。」
グレイ「ええ、町民を脅かす敵ですよ。」
ヘラヘラわらうニコロを無視するグレイ。
ゴートン「そいつは大罪人だ。とっ捕まえて事情を聞くとしようか。」
戦闘態勢の3人。
ニコロ「縹さん。」
それを意に返すことなく縹に呼びかけるニコロ。
ニコロ「まもなく貴方の力はこの街を狙う人間達に知れ渡るでしょう。」
縹「この街を狙う人間達…?」
ニコロ「おや、他の方達に聞いていないんですか?」
縹は聞いてない!とグレイを見る。
ニコロ「唯一神が住んでいて尚且つ異世界と繋がる街ですよ?色んな人に色んな利用価値がある。私たちのようなマフィア、この国のヤクザ、後ろ暗い企業連中、果ては世界を裏で操る某組織とか。まぁその都度町民達に阻止されてるわけですが。なにぶんこちらはただの人間ですしね。」
縹(グレイさんが言ってた他の危険ってそれかぁ…!)
ニコロ「まぁ君はこれからそのほとんどの人に命を狙われることになるわけですが。」
縹「なんで!!!??」
理不尽な!と声を張る縹。
ニコロ「だって貴方、異界の扉を閉じられるんでしょう?先程のこの街を利用しようとしている者たちにとってその力は邪魔でしかないので。資産価値を下げるような存在は消されてしかるべきです。」
冷や汗をかく縹。グレイと常盤は「だから誘拐されていたのか」と納得の様子。
何の話かわからず?を浮かべるゴートン。
縹が恐る恐る口を開く
縹「あの…異世界の扉を…閉じるって…何のことですかね〜…」
常盤(おお、嘘ついた)
ニコロ「もう遅いです♡」
グレイ「心配ありませんよ縹くん。町のお約束その2、町民は他の町民達と協力してその命を守ること。君の安全は私たちが保証します。」
剣を構えるグレイ。
ニコロ「…では私もそろそろ撤退します。縹さん、私個人としては貴方には生き残ってほしい。貴方の存在は秩序と均衡を保つためには有用そうなので。それでは。」
ニコロはそう言うと、姿を消した。足元の地面が破壊されたのと砂煙から高速で移動したのだとわかったが、縹には消えたようにしか見えなかった。
いつの間にか気を失っていたはずの黒服達も消えていた。

それぞれ武器を収める一同。グレイは光とともに来ている鎧が消え、いつものエプロン姿に戻った。
その様子から危機が去ったということを理解しへなへなとその場に崩れ落ちる縹。
縹「何だったんですか〜」
グレイ「お疲れ様です。縹くん。」
恨みがましい目でグレイを見る縹。
グレイ「もしかして囮にしたの怒ってます?」
縹「はっきり囮って言いましたね!!?」
グレイ「ああした方が彼らの本拠地まで突き止められたかもしれませんしね。まぁ途中で君が殺されそうだったので助けたわけですが。」
縹「それはどうもありがとうございました!!!」
怒りを露わにお礼を言う縹。
常盤「それでいきなり俺のところに電話があって「縹くんの命が危険です位置情報送ります」だもんな。騎士殿、もう少し脳筋スパルタ改めた方がいいぜ。」
グレイ「最近のデリバリーは位置情報確認できて便利ですよね」
爽やかに笑うグレイ。
ゴートン「俺、あんまり事情飲み込めてないんだけど、とりあえずグレイさんがひどいってことは理解出来た。」
グレイ「まぁまぁ皆さんカレーご馳走しますから。」
縹「…あ!!そういえば配達!!」
常盤・ゴートン(…なんだかんだコイツもちょっとずれてるな)
今、気にするところかそこ。と心の中で突っ込む。
グレイ「ああそれでしたら。」
ゴートン「頼んだの多分俺だな。」
縹「え、あ、そうなんですか?」
ゴートン「ああ、寝起きの飯に。」
縹(寝起きにスープカレー…)「じゃあここで渡しちゃいますね」
近くに置かれている四角いリュックの元に駆ける縹。
リュックを開けると当然カバンの中はカレーが散らばり大惨事になっていた。
覗き込む常盤とグレイ。
常盤「あーこりゃ大惨事だな。」
縹「う…」
グレイとゴートンとカレーを交互に見る縹。
グレイ(責任の所在に迷っている…)
縹「ゴートンさん!すみませんカレーダメにしちゃいました!!」
グレイ(まずは顧客に謝罪した…働き手の鑑ですね)
常盤(あんたそれ絶対本人に聞こえる様に言うなよ?)
小声でやりとりをするグレイと常盤。

ゴートン「お、おお別にいいぜ。事情が事情だし。それよりグレイさんが奢ってくれるんだろ。
目も醒めちまったし店まで歩こうぜ。」
常盤「そうだな。俺も腹減っちまった。」
グレイ、縹の自転車に跨る。
グレイ「では、私は先に戻って準備をしておきますよ。縹くん自転車お借りしますね。」
ゴートン(自転車が驚くほど似合わねぇ…!!)
縹「え〜」
不満そうな縹。
グレイ「え、どうして!?その方が効率的なのに。」
縹「今回の件で、グレイさんの信用が割と地に落ちたので…
乗ってっていいですけど絶対壊さないでくださいね。」
などど雑談をしながら。一件落着をした団欒を楽しむ4人。

一方、下北沢から少し離れた路地。電話をしているニコロ。

電話越しの声「ちょっと副局長!どこにいるんです!?」
ニコロ「失礼しました。ちょっと独自に潜入任務を。」
声「独自に!?勝手な行動を…もっとご自身の立場に自覚を持ってください!世界治安維持局副局長!!」
ニコロ「ふふ、まぁとびきりの情報もありますから。すぐに戻りますよ。」
相手からの批判の声を無視しながら電話を切るニコロ。
ニコロ含みのある笑顔を浮かべながら空を仰ぐ。
ニコロ「本当、退屈しませんね。あの街は。」
                                            #3 了











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