見出し画像

穴を覗きたい衝動

私がまだ2、3歳くらいの時。

記憶では秋晴れの、カラッとした気持ちのいい日曜日でした。

当時家族で通っていた教会主催のバザーで母は手伝いをすることになり、朝から大忙し。教会の外階段の、道路に面した辺りで、バザーに出される品々をおとなしく見ている「ちびマイコ」を見える範囲に確認しながら、他の女性たちと、これはここに、あれはこっちに、と準備していました。

段ボールに集められた20円、30円の子供の古着やおもちゃ、アンティークのような銅製のワイングラスやキャンドルホルダー、到底理解できないような内容の古本、ずらりと並んだ盆栽みたいな小さな植木の数々。今でいう、フリーマーケットのような感じだったのでしょうか。ちびマイコにとっては、宝の山、飽きる暇がありません。

ふと、目に止まった、白いプラスチックの、何も植えられていない古い植木鉢。

コロリ、とひとつだけ道路に転がり、ちびマイコが近寄ると、底に穴が空いているではありませんか。

「どうして穴が空いてるんだろう。この穴から、空を見てみたい」

ちびマイコが植木鉢を持ち上げ、思い切りその穴から空をのぞいた時でした。

「ザザーっ!!!」と、ちびマイコの小さな顔を、植木鉢の底にたまっていた土ぼこりと砂が一瞬にして覆い尽くしたのです。

突然、真っ暗闇になった世界。あれ?お空はどこへ。

母が飛んできて、ちびマイコを片脇に抱きかかえ、風のように水道まで走り

バッシャーン、と顔に水をかけました。そして、母は怒りもせず、タオルで顔をゴシゴシ、拭いてくれました。

子供は、そんな衝動に、素直に生きている。

画像1

私の娘が同じ歳の頃、ふと思い出したある日の出来事でした。

多分、0.1秒くらいは見えた、穴から見た秋空の色を、私は今でも鮮明に覚えているんです。もしかすると、砂をかぶって真っ暗闇を体験したおかげで、その青い空が記憶として残ったのかもしれない、と思うのです。

マイコ






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?