アガサ・クリスティー『春にして君を離れ』
※ネタバレ注意
バーナード嬢曰く。というマンガにとてもハマっている。
図書室に集まった4人の高校生たちが本について語ったり、読書という行為について語ったり、読書しなかったりするマンガだ。
最近このマンガを一気読みしてからというもの、出てくる作品を読んでみているのだ。
読んでからマンガを読み直すと、自分があたかも5人目になって話の中に入っているような楽しさがある。今日日、同じ本を同時期に読んでいる人もいないし、読書について語れる人もいない。このマンガでその寂しさを埋めるしかないのだ。
今回は5巻の82冊目に出てくるアガサ・クリスティー『春にして君を離れ』を読んだ。
ミステリーだけど、殺人は起きないし、ほとんど主人公が回想しているだけで物語が進む。なのにぐいぐい読ませて、段々と謎が解明されていくのだ。アガサ・クリスティーは軽いパーカー・パインシリーズくらいしか読んだことがなかったので、こんなに毒々しい小説があるのかと驚いた。
あらすじ:主人公の主婦ジョーンは家庭を守り、満ち足りた幸せな生活を送っていた。しかし、旅のアクシデントで足止めをくらい、一人孤独に今までの人生を振り返ると、それがまったくのまやかしであったことに気づき始める。
この主人公がまあ曲者。周りのすべての人を見下しているというか、その人のライフスタイルや考えを理解しようとする気がまったくない人なのだ。それは家族に対しても友人に対しても同じで、少しでも自分の考えと違うことをしようとすると言葉には出さないけどめちゃくちゃ馬鹿にしてたりする。読んでると本当に鼻についてイライラしてくる。
一番ひどいと思ったのが、滞在しているレストハウス管理人のインド人と使用人のアラブ人の男の子、そしてコックの三人に対しての言葉だ。お金は払っているとはいえ、とんでもなく馬鹿にしている。
そして一番滑稽なのが、その馬鹿にしているインド人が一番主人公を気遣ってくれているところだ。その他でいうと、女学院時代の校長先生も彼女のことを思って助言をしてくれてるが、ほとんどの登場人物が彼女を疎ましく思っており、実の娘ですら彼女を気遣う言葉はない。彼女がこれまでどのように周りに接してきたのかが分かる。
彼女は馬鹿にしている周りの人たちに対して、憐みを感じている。彼女から見ればみすぼらしい姿であったり、情けない人だが、それがかわいそうと思っている。悪人のようにざまあみろとは言わない。それこそ人を対等ではなく、下に見ているという証である。愛する夫に対してもある点では憐みを持っている。しかし、周りは彼女を憐れんでいるのだ。プア・リトル・ジョーン。何も知らされないで、一人幸せにはしゃいでいるなんて・・・。き
ただ、この旅で彼女は気づいたのだ!自分の身勝手な発言によって、周りが自分の元から去って行っているということを。よく気づいた、えらい!これで罪を償って生きていくのかと思いきや・・・
旅のまぼろしとして片づけられる。
お前馬鹿かー!!まじで最初に戻ったよ。そんなんありか。
極め付けはエピローグの最後の一文。もはや恐怖でしかない。
ド嬢ではこの本をあの時の教師に読ませてやりたい!とか書いていたけど、私が読んでいて感じたのはもしかしたらジョーンのようなことをしてるんじゃないか?という恐怖だった。
娘が不倫してたら止めちゃうだろうし、夫が農場やりたいって言ったらやめてほしいとお願いするだろうし、息子が南アフリカ行きたいって言っても危険だからやめろって言うだろうな・・・。まんまジェーンじゃん。
こう考えてみると、両親は私が正社員から工場のパートになることについてやめろとかなんだとか言ってこなかったな。お金かけて大学行かせてやったのに、なんで工場のパートになんかなるんだ!って言ってもおかしくないけど、それは私の性格とかを理解してくれてたからなんだろうな。ありがたいことなんだなあ。気づいてなかったけど。
私は親になったら、ジェーンみたいになっちゃうのかしら。それが恐怖。一人ぼっちになってしまうのも怖い。友達関係とかはある程度仕方ないにしても、家族から見放されるのだけはかなり辛い。特に私の家はつながりが強いように思えるし、私自身がつながりを強くしようとしている傾向がある。もしそれを逆手にとって、自分のやりたいように家族を持って行こうとするならばそれは完全にジェーンと同じになる。
同じにならないようにするには、まず自分自身に意識をフォーカスすることが大事のような気がする。他人にどうこう言っている暇はないからね。できることならレスリーのように現実をしっかり受け入れる強さを持つこと。これは私には難しい・・・。もう少し階段を上った先の目標かな。
それでさあ、私も小説という旅に出た訳だけど、もう読み終わったから戻ってきちゃったんだよ。ジョーンと同じ私も。こういう風に感想を書いてみたけど、ここで思ったことを明日、一週間後、どれくらい覚えてるかしら。
この本だけじゃない。他にもいろいろな本に刺激を受けたりしたけど、今残っているものってかなり少ないような気がする。もしかしたら日常的にジョーンと同じことを何回もしているのかもしれないと思うと、自分が情けなく、馬鹿らしくなってきちゃいます。
アマゾンのレビューは他のクリスティ作品と比べて段違いに多いです。かなりの長文を投稿している方もたくさんいらっしゃいます。この本が今でもまったく古びない、人生を考えさせられる作品の表れだと思います。これからレビューをいろいろと読んでみます。
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