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真正面から向き合う人

2部の年に入学したメンバーももう4年生の秋を迎えている。平たく言うと、表立った主張をしてごりごり活動する代ではなかったと思っている。それは、彼らの上級生たちが、実力と勢いとキャラクターの三角形の最大値を振り切っていたこととどうしても比較してしまうから。
案の定と言ったらよくないけれど、去年の4年生が抜けた後の今季のリーグ戦前半はかみ合わない現状をどう打破していくのかが見えにくい状態が続いた。総理大臣杯も初戦で敗退し、夏の大阪には行けなかった。

次期主将は正直意外だった。同じCBとして活躍していた大きい方の鈴木選手がやるのかなと勝手に思っていたからだ。
去年のインカレ決勝の日、ゲートまで歩く途中に、およそスポーツ選手とは思えないほど乱れた靴音とフォームで走り過ぎてゆくスーツの上にジャージを羽織った革靴の青年。背が高くて今時の若者体型らしく小さな頭蓋骨。
試合では大きい方の鈴木選手と不動のCBとして上級生を支え、でもどこか優しさというか、対峙しなくてもいい批判や雑音に関しても真正面から受け止めそうな不器用さを持っている印象だった。

そんな彼の主将シーズン、チームは前半ぼろぼろだった。うまくいかない糸口を探しながら、また別のところでほころぶことがスパイラルのように続く。去年まで攻撃は特に4年生に頼っていたところも大きく、チームの強みは移り変わっているはずなのに、4年生と一緒にやってきたメンバーたちは新しい形をなかなか作りきれない。どうやって断ち切るんだろうと思っていたら、CBの主将がある日FW登録になっていた。しかも監督に直訴したらしい。


(もちろんいい意味で)その結構暴力的なところは、最初に抱いていた優しさ以外の部分というか、真面目な分ちょっと損をしそうなところとはまた別の側面だった。高校2年生まではFWとしての実績もあるので何も奇をてらった方針ではないが、3年間実績として積み上げてきたCBとしてのプロ入りも見えてきた中なぜそちらに舵をきるのか、正直最初はわからなかった。
FW登録2試合めにあたる6月に観た駒沢公園での試合、主将は前半開始すぐにゴールを決めた。登録1試合めに続く連続ゴール。その時の嬉しそうな表情は、チームを後ろで支えるのはもはや自分以外でもできることだけど、前で引っ張れるのは今の自分しかいないという決意と、それが少し報われた感じも併せ持っていたように思う。それを見て、彼の真正面からものごとに向き合う姿勢の美しさと、その姿勢に巻き込まれてだめだったらしょうがないなという清々しい気持ちになった。

リーグ戦を2位で終えた今、結果的に主将の代わりを勤め続けたCBの3年生は昨年の天皇杯に続いて良くも悪くも多くの場数を踏み、主将がCB登録のままであればここまで伸びなかっただろうというくらい頼れる存在に育った。チームも後期から息を吹き返し、優勝した早稲田との大一番は0-0に終わったものの、この試合のひりひりした愉しさと、すべてを出し尽くした選手達が試合終了後にフィールドに倒れしゃがみ込む光景は今シーズン初めてであり、本当にぐっとくるものだった。
ただ、その試合も含めて主将がメンバー外の日が続いていた。SNSは時折更新されているものの、やたら卒論と関係のなさそうな本ばっかり読んでいる。ここにきて怪我なのか、サッカーやめるのかしらと気を揉んでいたら、決まった。本当に、涙が出たほど嬉しかった。

そして後日談が。

やっぱり真正面からいろいろと向き合うし、優しさと実直さは隠せない、隠さない人だ。それが悪い方向にも働く可能性もあるこれからのプロ人生だけど、それによって心が動く人たちはたくさんいるし、そういう人たちは必ず主将の助けや支えになる。小笠原選手自身が前へ進むためにいいと思うことへ、全力を傾けてほしい。

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