過去に書いたもの③

最後に、今年(2020年)の「平和を考える」の寄稿。今年はアメリカにおける環境問題というお題をいただいていたので、そのテーマで、アメリカの大統領選と絡めて書きました。

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  「気候変動否定者」と言われるトランプ大統領。大統領就任とともにパリ協定から脱退し、就任前には「気候変動はデマだ」とまで発言していた人物です。日本では「そんな人が大統領に選ばれるなんて…」と思う人も多く、他人事になりがちです。しかし、この問題はトランプ氏個人やアメリカ人の環境問題への姿勢だけでは語れないものがあり、私たちが思う以上に複雑で、また身近なものであると言えます。
  アメリカが環境問題に積極的に取り組まないのは今に始まったことではありません。アメリカは世界一の二酸化炭素の排出量を誇り(?)、そのアメリカが、パリ協定の前身である京都議定書(1997年)に批准せず、それが原因で環境問題解決への効果が限られたものになったことは言うまでもありません。そんなアメリカでも、環境問題に積極的なアル・ゴア副大統領(当時)が2007年にノーベル平和賞を受賞するなど、その緊急性・重要性が認められてきており、パリ協定(2015年)はアメリカも参加するに至ったのです。この動きに危惧をおぼえているのが、新自由主義のもとで環境を犠牲に経済的活動を優先してきた企業、そしてそれらを支えるシンクタンクや政府機関です。トランプ大統領の支援者は、一概にブルーカラー労働者と言われていますが、実は彼を支えているのはこうした経済界の人々であり、トランプ大統領当選が象徴しているものは「新自由主義のバックラッシュ」であると言えます。
  一方で、新自由主義勢力の完全勝利かと言われると、そうでもないのが現状です。環境問題を中心的課題として捉える、バーニー・サンダース氏を筆頭にした「プログレッシブ派」がリベラル層において注目を集めはじめ、2018年の下院選や今行われている大統領選においてこれまで以上に票を獲得しているのです。しかし、この「対抗勢力」に問題がないわけでもありません。環境問題の影響は貧困層や人種的マイノリティの住むコミュニティがより深刻であるとされていますが、リベラル派の議論の中で彼らの声がなかなか反映されないのが現状です。実際、環境問題にコミットするライフスタイルを送ることが白人リベラル層のステートメントになる一方で、環境問題が浮き彫りにする格差問題は二の次になっているのが否めません。環境問題のアクティビストとして注目を受けるのもグレタ・トゥーンベリ氏といったヨーロッパ人(白人)であり、アメリカ国内のマイノリティや「発展途上国」出身のアクティビスト達はメディアから注目されません。
  こうしてみると、アメリカで起きていることは、意外と他人事ではないかもしれません。安倍政権下において原発政策など、経済界の声を優先とした政策がまかり通っていることをはじめ、格差の底辺にいる人々が受ける影響について真正面から向き合えていない姿勢は日本でも同じであると思います。環境問題において、誰の声が反映されて、誰が置いてけぼりにされているのか――それを見極める必要があるのは、アメリカだけではないはずです。

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