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駅を出ると雨が降っていた
傘を持っていなかったのでしばらく待っていた
バス停の庇に当たる雨粒が鳴らす雨音は
小学生の自分を記憶の底から立ち上がらせた

あのときの私は窓の外を見ている
あるいは渡り廊下を、時折強く吹いてくる風に流された槍みたいな雨に刺されないように走りぬけている
やっとたどり着いた体育館の靴箱の前で体育館履きを忘れたことに気がついてまた教室まで取りに走る
集会が始まった体育館に戻ったときは、先ほどよりさらに強くなった雨風のせいで人の何倍も濡れていて、息が切れるのを大きな呼吸で誤魔化しながらクラスメイトの列の最後に並ぶ
誰も振り向かない
チラリと教師に目をやる
こういう時は絶対に、100パーセント、思った通りかそれ以上の悪い結果につながる
案の定、ものすごい形相がこちらを睨んでいた
雨は失敗を許してくれない

私は窓の外を見ている
授業中かもしれないし休み時間かもしれないけれど、教室の中より外のことばかり覚えている
ちょっと向こうのおばちゃんの家の赤い屋根
おばちゃんの畑のさつまいも
池の鯉
図書室
その棚の推理小説
日に焼けた宮沢賢治
図工室
もしかしたら自分は6年間ずっと窓の側にいたんじゃないかという気がする
あの校舎は晴れより雨が似合う

槍に当たっても、もうあの時みたいにダッシュできない

家に帰ると
稲が水に浸かって自分が溺れているみたいだ
とパキスタンの男性が話していた


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