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あしたの転機予報は? #26-親近感のある大阪の営業マン-

師走に入り、年末に向かう忙しない日々。
仕事だけでなく、プライベートの予定もなかなか忙しかった。

関西にいる友人の結婚式があり、
年末年始の帰省の前に大阪に戻る機会があった。

業務関係の連絡で、大阪の営業所のスタッフと電話で話しているとき、
何気なく、近々プライベートで大阪に帰るのだという雑談をすると

「え、紺野さん、大阪来られるんですか? 大阪営業所にも顔出してくださいよ。僕会いたいです。他のスタッフにも紹介したいですし」

と言われ、話の流れで、大阪営業所の飲み会に呼ばれることになった。
私は土曜日にある結婚式の前日に前倒しで大阪に帰っていた。
金曜日の夜、終業後の大阪営業所のメンバーと合流した。

誘ってくれた営業スタッフの渡辺さんの案内で居酒屋に入ると
すでに、アルコールが入り陽気になっている面々がいた。

「お、なべちゃんが、女の子つれてきたでー。よ、大阪の稼ぎ頭、さすができる営業マンは女の子にモテますねー」
なんて、お調子者のスタッフが言った。

「あほ、失礼なこと言うな。ちゃうがな、ほら、本社の紺野さん。みんないろいろ手配してもらったり、教えてもらったりお世話になってるやろ?」

どうも、紺野ですと、近々にいたスタッフたちに挨拶をして、相手も私○○です、僕○○ですと名乗ってくれた。
よく電話をし、電話口では仲良くなっているものの、対面ではなかなか会えていなかったスタッフがたくさんいた。
対面で会えた感動があった。

「え、なべやんが、どこぞの女の子つれてきたってー?」
一番奥の席から野太い声が飛んできた。

「あ、峰本所長です」
営業の渡辺さんが、奥まった席まで案内してくれた。
峰本所長とは、以前のTV会議のときに鋭い突っこみを入れてきた大阪営業所のドンだった。

TV会議上でのイメージがあったから、少し緊張しながら挨拶をした。
「ああ、君か、TV会議のとき、話してた子やろ?」

「そうです。その節はご協力いただきありがとうございました」

「いやいや、こちらこそ、いつもありがとうね。うちの営業どもが無茶ぶりとかして迷惑かけてないかな?」
峰本所長は私の緊張を察したのか、にこやかに話しかけてきた。

「なべやんとか、大丈夫か? こいつ、数字とってくるのは得意やけど、サポート人員への仕事の投げ方とか問題あるから」

渡辺さんが心配そうに私の顔を見つめている。

「いえいえ、渡辺さんは、蜜にコミュニケーションとってくれて助かってます。フォローの電話くださったりとか」

渡辺さんが安堵した表情にかわる。

「ほんまかー? よかったな、わたなべ」
峰本所長が豪快に笑う。

「そうそう、君のところの上司って誰やったかな? 水上くん?」

「組織図上そうですね。今年度は。でも、来年度にむけて、少しずつチームや組織編制をかえているところなので、実質的にといえば、佐藤さんに最近かわりました」
佐藤さんとは、ゆうみさんのことだ。

「あ、そっかいま本社ゴタゴタしてるもんなー。水上くんも大変そうやしなー。出張とかで会うたびに、水上くんいつも忙しそうやからなー。俺は大阪から心配しとるよ」
峰本はうーんと考えこんだ。一般社員にはわからない役職勢で共有されているいろいろな情報を振り返っているのだろう。

「紺野さんもうまく水上くんをサポートしてやなあ……。ま、堅苦しい話はここらにして、飲み会楽しんで。大阪の奴らは酒が入るとうるせーけどな」

「ありがとうございます。私、もともと大阪出身なので、この雰囲気好きですよ」

「あ、そっか、敬語やから全然気づかんかったけど、紺野さん、こっちの人か、そらええこっちゃ。東京しんどーなったら、大阪においで」

峰本所長と話し終えると、渡辺さんに連れられて、愉快な営業たちがいる輪に入って飲みはじめた。

東京からの客人ということで、物珍しいのか、よく話を振ってくれる。
東京にいる○○さんってどんな人なんですか? など普段対面で会えないスタッフの話を尋ねてくるから、飲み会のノリに合わせて面白エピソードを話した。
すると営業達はもっと面白い大阪のスタッフの話をしてくれた。
それに対して、私はケラケラとよく笑った。

「いやぁ、紺野さん、ノリがよくっていい感じっすねー」

「ありがとうございます。根は大阪人なんで、話好きなんですよ」

「親近感! 最初は東京からのお上品な人きたと思ったから緊張しましたもん」

「お上品て。全然ですよ」

場がどんどんとにぎやかになっている。
ひとりの営業のスタッフが私の手先を見ながら言った。
「紺野さん、結婚は……、されてないですよね? 彼氏さんは?」

「おいおいやめろよ、紺野さん困るやろーが」
不躾な質問だと思って遠慮してくれたのか渡辺さんが止めに入る。

「いないですよ」
知られてまずいものでもないから、私はニコニコしながら答える。

「え、もったいない、東京出会いいっぱいあるんじゃないんですか?」
質問してきた営業がまた尋ねる。

「そうですねー、私がその出会い掴めてないんでしょうね。不器用やから」

「え、まじっすか、じゃあ俺立候補しようかな」
その営業は、はいっと手を挙げて言った。

「あほか、おまえレベルが相手にされるわけないやろが」
渡辺さんがピシャリと言った。

「ちぇー、なべやん、囲い込みばっちしやな、紺野さんの。ここにつれてきたんも、なべやんやもんな」

「ちげぇーよ。わざわざ、大阪じゃなくとも、いい男は東京にいっぱいおるやろうしってこと」
渡辺さんが言う。

「ははは、でも親近感があって仲良くなりやすいって意味合いでは関西の人とのほうが相性いいなって私思いますよ」

最近ユリカと出会いの場によく行くが、場所が東京であっても、なぜか仲良くなるのは、関西人が多かった。
今回の結婚式は、ユリカも一緒に行くのだが、二次会でいい人出会えるといいなと話していたところだった。

「……それは、大阪の男どもにとって朗報ですね」
渡辺さんが言った。

ある営業が言った。
「大阪の営業もね、東京の営業のやつらに負けんように、気概だけは、やったるでーって、いつも対抗心燃やしてるんすよ」

「いいですね、切磋琢磨する感じが。そういえば、誰をライバル視してるんですか?」

営業たちは次々と、東京のトップセールスの名前を挙げていた。
その中に水上さんの名前が出てきた。

「水上さんとかただのイケメンなだけやったらいいけど、仕事もできるからなー。まじ数字だけでも勝ちたいっす」
渡辺さんが言った。

「あら、水上さんってもともと関西の人やって知ってました?」
私はそれに対してそう答えた。

「え、そうやったんすか? 知らんかった。 でもあのイケメン枠っつーか、澄ました雰囲気は、なんか東京っぽいっすけどね」

「ははは、でも、水上さん、マインドはすごく関西人ですよ。しゃべってて面白いし親近感あるし。関西弁も抜けてないし」

「紺野さん、水上さんと仲いいんすか?」
渡辺さんがこちらの目を見て尋ねてくる。

「仲いいっていうか上司なんでねー。話す機会はわりと」

「そっか、そうですよね。そりゃ」

お開きになったので、簡単な挨拶を済ませ、私はその場から離れようとすると、
渡辺さんがやってきてLINEの交換をした。
近くでみていたお調子者の営業は「なべちゃん、抜け目ねーな」と笑っていた。

ひとりになったとき私はLINEを開いた。
業務の連絡でぽつぽつと水上さんとラリーしていた。
大阪に帰っていること、峰本所長が心配していたことなど、水上さんに報告した。

そのメッセージを打ち終えたとき、
ペコンと別の通知がきた。
ーー今日はありがとうございました。また出張したときでも、大阪にもどってきたときでもよろしくお願いします。

渡辺さんからのLINEだった。

……to be continued

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