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#小説
モスキート・ヘル(1-5)
一晩開けて、きょうは休みをもらったので町に出ていた。とはいっても午前中だけだけど、ねーちゃんだってたまには一人でぶらつきたくなることもあるのだ。
まだまだスラム暮らしには眩しいものが多いけど、わたしが子供の頃と比べたらこれでも暮らしやすくなったよなあ、といろんな店を覗く。
「アヤメちゃんじゃん、今日休み?」
横合いから急に声をかけられてビックリしたけど知ってる顔だった。モスキート・ヘルの仕事場
モスキート・ヘル(1-4)
「ちょうどよかったやで、ツレが引っ越しするからおうち売りたがってたやで」
「そうわよ」
カキツバタとショウブの心当たりに頼って地下に出掛けるといつものところにクラクラがいた。もう一人すこし大きな白ガエルが来ている。
「ヒラヒラネキやで」
「そうわよ」
モスキート・ヘルは下水の匂いに眉を潜め、テルくんの顔にハンカチでマスクをした。
物件に向かいながら詳細を聞く。
「ヒラヒラネキ、会社やること
モスキート・ヘル(1-3)
「えー! なんでおうち燃えたんですか!? 今日のお給料出ますよね!?」
「たった今家を失った善良な親子にお前は何を言ってるんだ!?」
善良かどうかはわからないけどお給料出ないのは困る!
「タダ働きイヤですもん! うちだって食べ盛りの弟妹が五人いるんですよ!?」
炎の前で喧嘩する。
「現金はさほど家に置いていなかった、通帳は再発行できる、仕事の道具が燃えたのは痛いがいま背負っているものが無事な
モスキート・ヘル(1-2)
昨日の下水の入口でのことをなんとなくひきずったまま、モスキート・ヘルの護衛に来たわたしは車でウタマロのヤクザ街に連れてこられ、何故だか今控え室でお茶を出してもらっているのだった。隣では車椅子のテルくんがすやすや眠っている。
(ふ、ふ、ふ、フーゾクビルじゃーん、ここ!)
ウタマロシティはほぼ歓楽街で占められていてそれ以外はだいたいスラムっていう都会の光と闇みたいなところで、わたしはスラム出だか
モスキート・ヘル(1ー1)
「ねーちゃん、この人死んでるよ」
「持ち物も特にないみたいだ」
「持ってかれちゃったんだね、あとはそれぞれつてのある奴らが持ってくだろうからその辺投げとこ」
モスキート・ヘルの護衛は明日だ。わたしは今日はいちばん上の双子の弟、カキツバタとショウブを連れて小銭を稼ぎに出ている。
ウタマロの街の中心から少し離れたところにわたしたちは住んでいる。父さんは遠くに働きに出ていてたまに仕送りが来る。母さ
モスキート・ヘル(序章)
「お前などがうちのテルちゃんに触れようなどと烏滸がましい」
わたしが止める間もなく依頼人である男、モスキート・ヘルは襲ってきたゴロツキの脛を踏み折り、顔面を銃で撃ち抜いた。わたしのサイレンサー付きの銃だった。腰のホルスターからいつ抜かれたのだろう。
車椅子の少年はすやすや眠っている。
「いや、面倒になるからむやみに殺さないでって言ったじゃないですか」
「お前が頼りないから私がやるしかないのだ