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スーパーで図太さ合戦

それはもうはるか昔から行われてきた、ありとあらゆるスーパーマーケットでの戦い。朝だろうが昼だろうが夕方だろうが関係ない、われわれの食生活の根本を担う場所なのだからみんな本気。バトルロワイヤル。この言葉、これまで使ってきたなかで今が一番しっくりくる。バトルロワイヤル!!!(呪文ではない)

よほど客層セレブな高級スーパーでもない限り、求め歩くものはみな同じ、お得さである。とにかく安いのをゲットするべし。
うっかりお高めなところに入ると、なんだか……遅い? 流れというか空気がおだやかすぎて、もはや遅い。マダムがゆったりと歩いているし、品物の前でも「あら、なにかしらこの珍しげなソルトは」をまるで脳内で言い終えたうえで手を伸ばすかのように優雅な仕草があちこちに発生しているので、ちゃっちゃかちゃっちゃか安い必需品を買いたい庶民はなかなか邪魔できないのである。置いてある野菜、ぜんぶ有機野菜。生産者のニカニカ笑顔のお写真とか付いてる。良質なのはわかるが高いんよ。豆腐だって底値が100円を超えてたりするので、やっぱり価格帯がアレなところはアレなのだ。

さていつものわりとお得なスーパー、当然ながらお客さんの数がすごく多い。この時間にこんなにおらんでもええやろ……と自分のことは棚に上げて買い物を開始。お得なスーパーあるあるかもしれないが、通路が狭め。なぜかカゴも持っていない、動物園にちょっと寄ってみたみたいにぽけ~と散歩しておられるおじいちゃん。そこ玉ねぎコーナーなんであぶないっすよみんな買うんで。老夫婦が献立を仲良く話し合いながら芋を買うかどうかうにうにしているので、回れ右。芋なんてなんぼあってもええ。すると家族連れが迫ってきて、お母さまに指示された人参をどれ!?どれがいいの!?とお子さん悩み中。どれも同じや!と叫びたいところを我慢し、身動きとれず……というのが日常茶飯事。こういうときに無理やりにでも通ればいいんですけどなかなか難しい。おれは平和にこの時間を終わらせたいだけなんだよ。

キャベツ一玉をよく買う。二、三個手にもって、ずっしりしてそうできれいめなのを選びたい。しかし横に立っているおじいちゃん、積み上げられたキャベツをかたっぱしから両手に持って吟味し始めている……! 既に十個以上いっちゃっている……キャベツソムリエなのか? 良いのとりやがったなオヌシ、などと言われたくないので早々に選んで退散。悲観的予測が過ぎるが、おれは平和に(略)

鮮魚精肉コーナーは山場かもしれない。既に青果コーナーでちょっと疲れたところを襲ってくる安売り。これまた豚小間だの鶏むねだのの特大パックに皆して一目散。豚小間ヘビーユーザーなので、パックの値段をひととおりたしかめて一番安いのにする、というのを何度かやっているが、周りに人が多いとなかなか踏み切れない。あとあんまりパックを触るのもよくないし、見える範囲でいいと思うのだけど、こういうときにも猛者はいる。穴に落ちた我が子を救うかのようにこれでもかと手を伸ばしてすべての値段を確認したいおばさま出現。お肉はぜんぶ新鮮だから大丈夫だと思いますよ。わたしはとりあえず目視の範囲で安めだとわかるものをカゴに入れ、ホッと一息である。

お総菜コーナーは夕刻に近づくにつれて殺伐さを増してくる。全世界の民が大好きな割引である。何度か時間を変えて行くと、何時ごろに20%のシール、何時ごろに半額シール……とわかってくる。ただ、安さを求めるあまりにお目当てが売り切れる可能性もあるから、なかなかの心理戦だ。シールが出現しはじめると、お客さんの手の動きが昼間の1.5倍速くらいになるので、こちらも本気を出さねばならない。シールを貼る係の人も心なしか緊張しているような面持ち。すみませんがめつくて……でも同じものならできれば貼ったあとのを買いたいんです……いつも戦いの中心に図らずもいるわけだから、あの係もけっこう大変である。

昔行っていたスーパーでは、お刺身などのパックに店員さんがマジックで値引きの値段を書いていくシステムだったので、”その人”が出現するとモーゼのように道がひらかれ、あとは人々が金魚のフンと化してちょろちょろと付いて回るのが恒例だった。浅ましき人間よ……と思いながら、わたしもその一員となり、珍味三種盛りの半額をゲットしたのがなつかしい。ああいうの、一度お安く買ってしまうと、通常価格がすごい高く思えるんだよな……。

図太くしぶとくがめつく、の三本立てをマスターすれば回りやすいスーパーだが、穏やかに終えられるならそれに越したことはない。スーパーでの戦いは未来永劫つづくだろう。わたしもあと何十年かは買い物を敢行せねばならないので、知らず知らずと戦術を身につけていることを願う。


短歌

きらめきを選り分けていく つらなったパックの海に手を差し入れて


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