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ぬいぐるみの末路

タイトルが若干、心配になる感じかもしれないがそんなことはありません。
ぬいぐるみ。わたしもふくめ、世の老若男女をするすると惹き込んで離さない、あのモフモフ快楽物質。過去にどんなぬいぐるみを持っていましたか、と聞くだけで、どんな会議でもほっこり、年齢の壁を越えて盛り上がるに違いない。脱線の責任はとれませんが試してほしい。

小学3年生の頃、どこかの水族館に連れて行ってもらったときに買ってもらったカメのぬいぐるみ、名はかめこ。なんとめずらしくタオル生地なので、夏でも暑くない。おめめは閉じていて、いつでも睡眠に誘ってくれるキュートフェイス。

かめこを洗濯機で洗ったら、足の部分の綿がぜんぶからだのほうにとりこまれてしまって、足だけめちゃくちゃ着古した衣類の端くれになり、おなかは突然のメタボデビューするという怪奇現象が起きた。なんとかうにうにと押したり引いたりして綿の位置を矯正するも、ややざんねんなかめこに。すまんかめこ、と言いながら一緒に過ごしたが、繊維の新しさは永遠ではない。ついに買い替えの時が…………

きたと思ったらびっくり、かめこの同サイズはもう売っていないというのです。むしろ今あるこのかめこは激レアじゃないかと興奮したのに、実家にこの古びてゆくタオル生地物体を置きつづけて何になるのだという両親の圧には抗えず、かめこの存在意義、危機にさらされる。

そんなわたしに差した一筋の光が、特大サイズなら売っているという事実。事実とはときに残酷で、成人しようかとしている人間に対して全くの遠慮もなく、そのぬいぐるみの愛らしさと必要性を全面に掲げて迫ってくる。別に無くたって生活に支障はないけれど、わたしの精神的ドリーミーワールド(どこ?)にはぬいぐるみはたぶんおそらくきっとあったほうがよい、とひかえめに判断。

ついにお迎えした特大かめこ、名はかめこ。これまでヨレヨレの刑にさらされながらも部屋に鎮座していたかめこは改名し、かめこJrの位につくことになった。かめこ界の激震、世代交代である。新しくうちに来られたかめこはまるで初夏のようなみずみずしい緑に、焼きたてのスポンジケーキのようなふんわりした黄色で成り立っていて、かめこJrについては形容を差し控えることにする。ぬいぐるみとは入れ替わりが必要な代物だから、決定権をもたざるを得ない持ち主はそれなりの覚悟が必要である。

ちなみにうちのスタメン、くまのぬいぐるみはくまこ、かつて枕をともにしたうさぎはうさこ、ひつじはめえこ、犬はナチュラだった。犬だけ突然オシャレなの何?

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