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池江選手から学ぶ筋力より大事なもの

つい先日、競泳の池江璃花子選手の感動的なカムバックを果たしたニュースは誰もがどこかで見聞きしたと思います。オランダに住む私もSNSを通してそのニュースは届き、知ることとなりました。

白血病という大病を患った、というニュースがたった2年前。10ヶ月という長い入院期間、壮絶な闘病生活の後、プールに戻り、たったの1年間で先日の日本選手権で4冠という快挙!もう少し知りたくなって池江選手の特集を見たところ、18キロもの体重が落ち、6キロ戻した・・・ということは病気になる前から10キロは軽い体重で臨んだ日本選手権!ということになります。知れば知るほど、すごい、としか言いようがありません。

「努力は必ず報われる」

これは池江選手のレース後のコメントです。ものすごい努力をしてきたこと、苦悩を乗り越えてきたこと、諦めなかったこと、を「努力」という言葉にしたのかな、と勝手に解釈しますが、この言葉を「練習量」と置き換えてしまうと違うのかな、と思うのです。精神力の凄さではなく今回は、彼女がどうしてこのようなパフォーマンスができたのかを冷静に考えてみます。

1年以上プールから離れていた、という事実

競泳に明るくはありませんが競泳大国日本の日本選手権という試合ですのでトップの選手たちが集まっていることは明らかです。そう考えると、他の選手たちの準備の量と池江選手ができた準備の量は明らかに違います。ここで、練習をした分だけ強くなる、という考えはすでに覆されます。

前述の通り、池江選手は一時期は18キロも体重が減った、そして私の見たNHKスペシャルの特集では歩行器を使ってヨタヨタと病院内を歩く池江選手の姿も映し出されていました。ほとんどの筋力が失われたことは確かなのです。

練習量や筋力も確実に他の選手より劣る彼女が今回勝てたのには、何か別の理由がある、としか考えられません。

白血病でも奪えなかった彼女の能力

闘病生活で失った練習時間や筋力、でも確実に何かを失わなかった。それは「動き方」なのではないかと思うのです。人々はよく「センス」というボヤッとした言葉でそれを表しますが、シンプルに「動き方」だと思います。精密で無駄がなく、最小限の力で最速で泳げる方法を彼女はパターン化し、脳へインプットしていたのです。

例えば、同じ馬力のモーターを搭載したロボット何台か作ってレースをしたとしましょう。より効率的な動きをプログラミングされたロボットが勝つでしょう。人の動きもプログラミング(動きのパターン)とモーター(筋力)で成り立っていて、どちらかがどちらかを補填することはできません。

今回の池江選手には、闘病で失われたモーター(筋力)は弱かったけれど、プログラミング(動きのパターン)は彼女の脳神経にしっかりと残っていた。そして筋力が弱くても秀逸な動きのパターンだけでここまでのパフォーマンスが出せる、ということを見せつけてくれたのです。

動きのパターン、という概念

動きのパターンは誰かに習って練習して習得するものではありません。その良し悪しは数値では測れず、本人が自分で「探り、構築し、学習する」以外に方法はないのです。これを普段のスポーツなどの練習に取り込むことは難しく、いわゆる「センスの良い人」はこれを自然に無意識に行えることもありますが、練習を重ねてもパフォーマンスが上がらなかったり、練習することで怪我などの不調に繋がってしまった人は練習とは別に行う必要があります。

それだけに特化したメソッドはSomaticsやSomatic Educationと呼ばれ、フェルデンクライスメソッドもその一つです。

池江選手が見せてくれたことはもちろん彼女の努力や精神的な強さであり、そして動きのパターンの重要性だった、と思うのです。これからの活躍がとても楽しみです!

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