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45. 没頭の尊さを思い出させてくれる映画3選

年間100本映画を観ることを自らに課して9年目のわたくしが、ライトに嗜みたい人のために「なりたい気持ちで映画セレクト」する企画、THREE FOR YOU。しばらく休載状態でしたが、久々にお題をいただいたので、書いてみることにしたいと思います。プロジェクトをご一緒している大学生のYさんからのこのお題。

最近、なんだか気が散漫で、何にも集中できていない気がします。コロナになって、時間の使い方やら予定の入れ方も全部リセットされて、家で暇になって、あれ私やることない・・・?と急に怖くなったり。用もなくスマホをいじくってたら真夜中になってたり。高校の時に部活一筋で、辛かったけど充実していたあの感覚って、今どこいったのと思います。何か没頭したいなあと。そんな気持ちの尊さを思い出させてくれる映画をみつくろってください!

ああめっちゃわかる、というか僕のこの記事を読んで出してくれたお題じゃなかろうかとすら思う。高校の部活なんて君にとっては「ついこないだ」のことだろうから、十分覚えているんだろうけど、「思い出す」というか「改めて痛感する」という観点で、3本選ばせていただきます。

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500ページの夢の束

2017年公開
監督 : ベン・リューイン
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スタートレックを愛する自閉症の女性が、脚本コンテストに応募するために勇気を振り絞るお話。どうしても応募したいのに、アクシデントが重なって郵送期限に間に合わない。これはもうハリウッドのスタジオに直で持ち込むしかない。施設から一人でお出かけなんかしたことないのに、そんなの関係ない!… そんな強行力をビンビンに感じる映画。強行力って、歳をとって小賢くなればなるほど出せなくなるわけで、後先考えてしまったり、過度に自分をメタ認知してしまったり、そうこうしているうちになおのこと歳をとってますます強行が効かなくなる。主人公ウェンディの強行軍は、とはいえ危なっかしくて賛否あると思うけど、どこかで「心にいつもウェンディを」忘れずにいたいとも思うのです。この映画から感じられる「没頭の尊さ」は、”やりきったらもはや、結果よりも過程が尊いものになっている”ということ。脚本コンテストの結果は本編をご覧あれなんですが、最後のウェンディの満足した顔がプライスレス。結果が出るかどうかが怖くて強行力が下がっていると感じる人に、ぜひ見て欲しいです。ダコタファニング、圧巻の演技力。

ストーリー・オブ・マイライフ 〜わたしの若草物語〜

2020年公開
監督 : グレタ・カーウィグ
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裕福ではないながらにまっすぐ生きる4姉妹と家族が、少女から大人に成長していくお話。白眉は終盤、部屋中に原稿を広げながら猛烈な集中力で寝食を忘れて小説を書き上げるところでしょうか。まさに「取り憑かれたように」という描写にゾクゾクくると同時に、我が身に直近、いつそんなゾーンがあっただろうかと羨ましい感じがしたのを覚えている。この映画は、”時間”の物語。どんなに今この瞬間が満たされて幸せでもその時間をとどめおくことは誰にもできない。何事も形を少しずつ、時に急激に変えながら、展開していってしまう。家族と隣人と環境に恵まれた少女時代が移ろっていってしまう切なさを、今度は自分の意思と決断で乗り越えて、また豊かな人間関係と環境を勝ち取っていかないといけない。それって大変で苦しいし寂しいけど、いいこともあるよっていう。執筆のゾーンに入る直前に主人公はとある喪失を経験しているわけで、この映画から感じられる「没頭の尊さ」は、”没頭とは得るものではなく、不要なものを削った時に残るもの”ということかもしれない。思えば彼女はずっと、小説を描きたかった。それが時間の虚ろいとともに曖昧になってわからなくなっていたのかもしれない。そう考えると、全ての喪失には意味があって、どんなに失っても最後に残るのは「自分そのもの」なんだから、没頭はそこから始まるということなのかもしれない。登場人物全員が基本、いい人なので見ていてとても澄んだ気持ちで人間の本懐を考えられた。あと画がとっても綺麗。浜辺で二人で死について話す時のカットとか、そのまま部屋に飾れるくらい。色調がいいのかな。グレタ監督 × シアーシャ・ローナン、またやってくれました。

フラガール

2006年公開
監督:李相日
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炭鉱が次々と廃坑になる北国で、起死回生をかけてその地をハワイにするべく少女たちが踊るお話。これはほんと何回見ても泣いちゃう。生きるのってつらいし、人と向き合うのってめんどくさいし、 それでも精一杯、全力で生きましょうよって。 彼女たちを取り巻く環境が過酷だからこそ、日々の練習が楽しくて、どんどん上手になっていって、可愛いフラの衣装をきゃっきゃ言いながら着て見せ合って、そういう様が美しくて眩しくて羨ましい。でも、苦しい中で楽しそうに生きることを面白く思わない人間は世の常としてどこにでもいて、「こんな時にヘラヘラ裸みたいなかっこして踊るな」と。人は、社会性を獲得して真っ当に生きようとすればするほど、没頭とは「周りの見えてない恥ずべき状態」と思うようになってしまうんだろうか。この映画から感じられる「没頭の尊さ」は、”他人に眉をひそめられてからが、本当の没頭だ”っていうことかもしれない。父に殴られ、村から出て行くことになった親友の「今まで生きてきて一番、楽しかった」の福島訛りは何度見ても、もう号泣。蒼井優が、眩しい。松雪泰子が、どツンデレでかっこいい。

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そんな3本、選んでみました。いいテーマで、泣く泣く選外に漏らしてしまった映画もたくさん。描きながら、没頭とは、基本的には「逸脱」なんだなと思うのです。社会性からの逸脱。周囲の目からの逸脱。日常の時間感覚からの逸脱。昨日までの連続性からの逸脱。コロナ禍でステイホームになり、日々の時間感覚が溶けてつながって行った今年は、もっとも得難いことがその逸脱だったのかもしれないと改めて思う。もはや逸脱はフィジカルな体験を伴わなくても、例えば明日からYoutubeチャンネルを始めてみるみたいなことでも体験できることになりつつあって、本当は逸脱のチャンスはエブリウェアなんだろう。でもエブリウェアになったからこそ、そこに求められるのは、自分の気持ちの中にある踏み出す勇気になってきていて。実力とか資金力とか体力ではなく、やっちまえという勇気の格差。そういうものが、没頭の尊さの根っこで広がっているのかもしれない。この映画でそんな勇気が少しでも沸けば、幸いでございます。

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