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54. TOKYOへの憧れを思い出させてくれる映画3選

年間100本映画を観ることを自らに課して11年目のわたくしが、映画初心者のために「なりたい気持ちで映画セレクト」する企画、THREE FOR YOU。54回目のお題は、就職を機に念願の東京生活を始めたのにコレジャナイ感満載な一年目を終えようとしている新社会人のTさんから、切実なこんなお題です。

生まれも育ちも関西で、就活を機にやっと根津で一人暮らしを始めたというのに、コロナがきて在宅で新社会人生活が始まってしまいました。出かけにくいし、同期や先輩、友人と思いっきり東京を満喫することもできない。毎日ワンルームからリモートで会議して、コンビニご飯買って食べて終わる毎日に、ここは本当にあのTOKYOなのか!?と思っちゃいます。私の中でしぼみつつあるTOKYOへの高揚感を思い出させてくれる映画をぜひ教えてください!すぐ見ます!

オリパラも逆風吹きすさんでいるし、都市集中型の社会構成そのものが変換期を迎えているなんて論説も増えてきました。周りでもやたらと逗子とか葉山に物件探してる人増えた感じします。たまに街を歩くとびっくりするほど飲食店が潰れてるし、焦りますよね。もうTOKYOはこのまま静かになってしまうのか。なんかあの絵も言われぬ魔力を持ったTOKYOの幻は溶けてしまうのか。TOKYOがもつその魔力を思い出す映画を、若者目線をちょっと憑依させながら選んでみました。

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3月のライオン (前後編)

2017年公開
監督:大友啓史
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3月のライオン

天涯孤独の将棋少年が、勝負の日々を通じて居場所を獲得していくお話。後悔と前進の話。「あの時あの手を指していれば」「なぜあの時あーなってしまったのか」「どうして今こんなことになってしまったんだろう」… 生きてるとそんなことばっかりだよなあと。でもまあ時間をさかのぼれるわけでもないし、あの時はあの時の最善だったわけで、じゃあ今この時点からなにができるかを、深呼吸して、落ち着いて、前に進もうっていう、なかなかしんどいけど力強いテーマでした。この映画で思い出せるTOKYOへの憧れは「冷たさと温かさが並存する居心地の良さ」でしょうか。主人公の孤独を吸い込むように静かにそこにある隅田川と、すぐそばの佃・月島に温かく存在する和菓子屋一家と。悩みも苦しみもただ何も言わずにほっといてくれる景色と、おせっかいなほどにそれに構ってなんとか力になりたいと思う人情と。そういう温冷が並存するのがTOKYOっぽい描写だとつくづく思います。そのバランスの中に自分のちょうどいい居場所を見つけられれば、この街はとても居心地がいい気がする。どちらかだけだと、結構大変かもしれない。ガラスのように不安定でバランスに苦しむ主人公が一番、TOKYOっぽいかもね。

劇場

2020年公開
監督 : 行定勲
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劇場

演劇を志す何もかも中途半端な青年と、彼を信じ支えようとする彼女の苦しい物語。山崎賢人演じる主人公の演劇を夢見る青年がね、クズなんですよほんと。嫉妬深くて自意識過剰で、他者の目を気にするがあまり、優しさに答えられなくて。ただ、誤解を恐れずに感想を言うと、この主人公は真面目なんだと思う。自分にとことん自信が持てず、成功できないかもしれないと言う恐怖に日々苛まれ、保険を掛けるかのように逃げたりはぐらかしたりすればするほど余計に自己嫌悪が増していく。割と見ていてじれったくてイライラする映画なんですが、なんかそれもまたTOKYOっぽいなと。この映画で思い出せるTOKYOへの憧れは「ダメでもクズでも何も言わず、ただ居させてくれる不干渉さ」でしょうか。二人はTOKYOによってある意味、挫折を味わうわけだけど、思い切り青臭く挫折させてくれるのもまた、TOKYOっぽさなんだろうと思う。すぐに近所で噂が立つとか、そもそも舞台が用意されていないとか、そういう田舎っぽい閉塞感の反対側に振り切った、そういう不干渉さというか、何もしてくれない感じというか。映画の舞台の下北沢・代田あたりの、まだ何者でもない自分でもいくらでもそこにいさせてもらえてしまう、優しさというか、無関心さというか、底なしの空恐ろしさというか。でもそういう、ほっといてくれる空気って、やりたいことを思いっきりやりきりたい年頃にはありがたいと思うのです。TOKYOってそういう街だよなと思って、この1本。松岡茉優さんは本当にいい女優さんになってって、対談したことが僕の自慢にどんどんなってます。応援してます。

男はつらいよ

1969年公開
監督 : 山田洋次
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寅さん


家を飛び出し幾年も経ったテキ屋の風来坊が、故郷の柴又に帰って家族とドタバタを起こすお話。もうほんとにしょうもない男なんですよ。厄介ごとばかり起こすのに気位は高くて、不器用なくせに変なところが大胆で。みんなに迷惑ばかりかけるのになぜか心の最後の部分で、愛されてしまう。寅さんって、ちゃんと見るまで何が人気なのかわからなかったんですが、この人はおそらく、多くの大人たちが自重したり封じ込めている、人間の人間らしさが漏れ出てしまう人のシンボルなんでしょう。素直でありたい。人目をはばからず不器用に頑張ってみたい。そういう、多くの人がどこかに隠している人間くささのシンボル。ちゃんとみてやっとわかりました。この映画で思い出せるTOKYOへの憧れは「帰る場所としてのTOKYO」でしょうか。全国からいろんな人が流れてきて、郷土愛を持っている人が全国で一番少ない街なんて言われるけど、寅さんみたいに、そこが帰る場所だって人もいるわけです。矢切の渡しを渡ったら、そこは自分の街なんだと。色々な人が色々な場所から、それぞれの訳ありを抱えながら集まって、それでもお互いにつながりあって寄り添ってなんとか共に生きていこうじゃないかってできたのがTOKYOなりの郷土だとしたら、生まれた時からそこにあった人間関係よりも、意思で創造されたご縁と言えるかもしれない。意思が土台にあるがゆえに不器用で歯がゆくて寅さんみたいな摩擦もあるけど、それがなんともTOKYOだなあと思うので、最後の1本はこちらをぜひ。

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こんな3本。やっぱり良くも悪くも、長い歴史の上に、一度空襲が落ちてまっさらになって、そこに驚異的な人の意思や夢や都合やをごった煮にして作り上げられたのが、TOKYOなんだなあと改めて思います。それがゆえの冷たさや不干渉さ、だからこそそこで繋がっていこうという意思ある絆。3本選びながらそんなことを感じます。結構、壁とか挫折とか冷たさとか、ネガティブな舞台装置としても使われがちな街なので、あくまでもポジティブに選ぶのが実は難しかったんですが、この3本ならと思って、お送りいたします。コロナという時代背景は流石に織り込んでいませんが、普遍的に感じられることはあるはず。是非是非ご覧くださいませ!

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