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18. ざわざわじわじわくる3本

今回は大学時代のサークルのかわいい後輩Yさんから、会社をやめて新たな門出をするこのタイミングでこんな要望をいただきました。

三十路でざわめいている私のために「ざわざわ」「じわじわ」「ざわめく」などのザ行のオノマトペで連想される映画を3本見繕っていただけないでしょうか?

三十路&門出ってことですね。なるほど。で、ザ行。濁音ってやっぱり人間、感情に訴えかけてくる係数が高い言葉に多く含まれているなんだかほっとけない存在なんですが、その中でも

バ行:破裂系。「はぜる」とか「一気に何かが起こる勢い」を感じる
ガ行:打撃系。「叩く」「ぶつかる」とか、あとこれも瞬発系。
ダ行:液状系。しかも粘性高め。物事の動きがしゅっといかん感じ。
………
ザ行:摩擦系。何かと何かがこすれたり、抵抗が高い感じ。

そんな整理が自分の中にはあって。摩擦っていってもいろいろあるとは思いつつ、まずは純粋に、摩擦系の音が聞こえてきそうで、かつなるべくポジティブな作品で考えてみたこんな3本を紹介してみたいと思います。

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百円の恋

2014年公開 
監督:武正晴
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30過ぎて実家にパラサイトする女性が、ふとしたきっかけでボクシングにのめり込んでいく話。安藤サクラがすさまじい。目つきだけでここまでやりきる。人生って成り行きとノリで結局決まっていく部分もあるけど、たとえノリや勢いが動機だとしても人は良きにも悪しきにもいくらでも大きく変われるっていう、その無為で自然な感じと狂気の振れ幅の両極を、2時間で見せられる感じ。人は自分の足でたって社会とつながりを築いていかないと、30すぎると「やべーやつ」扱いされるんだなあという冷徹な事実と、社会とつながりを築くっていうのは、摩擦係数のちょー高い作業なんだよなあという当たり前のことも同時に突き付けつつ、だからこそ、その摩擦がアカスリ的な気持ちよさに変わっていくその様は、狂気の女優安藤サクラここにありですね。この映画から聞こえてくるザ行は「社会とつながるって大変だけどハローニューミーだよね」っていう、乾布摩擦のような痛気持ちいい摩擦音ですかね。

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イントゥ・ザ・ワイルド

2008年公開
監督:ショーン・ペン
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裕福な家庭に育った若者が、本当の意味の自由を求めて放浪の旅に出る。はじめてみたときはなかなか主人公に感情移入できなかったんですけど、最後に彼がたどり着いた”真理”は、とても普遍的なもので。ただ、そこにたどり着くまでがあまりに回り道で、あまりの遅すぎたというか。悔いなく”旅の終わり”を迎えたとはいえない結末なのがつらい。ただ、旅に出なかった場合の彼の人生はたぶんツルツルしたものになっていたんだろうなあと考えると、人はやっぱり、生きるために生きるのではなく、未知と出会い驚き哀しみ感情を揺さぶるために生きるんだなあと思う今日この頃。彼がもし、ツルツルだった暮らしのステージにこの旅ののちに帰還していたらどうなっていただろうかと考えると、それこそワクワクするのだけどね。この映画から聞こえてくるザ行は「自分の殻を破ろうとすると、身体と殻がこすれてすりむけるような音って聞こえるよね」っていう、ある種、破瓜のような印象の音が聞こえる、ちょっとしんどい物語。

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ブロードウェイ♪ブロードウェイ  コーラスラインにかける夢

2008年公開
監督:ジェイムズ・D・スターン&アダム・デル・デオ
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16年ぶりに再演されることになった伝説的ミュージカル「コーラスライン」のオーディションに挑むダンサーたちのドキュメンタリー。芸事って、やはり最高にかっこいいと思う。改めて。その人そのものが商品として価値を纏わなければならないことが、いかに苦しくて、いかに不条理で、いかに究極的か。だからこそ、そこで輝きたいと思う人は、その思いは何よりも強いし、そして、そんな夢を追い努力する人は、何よりも美しいよね。いつみてもパワーをもらえるし、やっぱり自分の人生の主人公は自分でないと!って思い直せる大好きな一本。この映画から聞こえてくるザ行は「うまくいかないかもしれないことに自分の身で突っ込んでいくときのゾクゾク」かなあ。あれって、身体の中から聞こえる音というか、本当に集中の切っ先に立つことが出来ると、人は回りが見えなくなるんだと思うんです。いい意味で。そんなゾーンに入る機会って、こんだけ情報革命しちゃってオールウェイズスマホウィズミーな毎日だと忘れがちな中、生きるチカラを内側から呼び戻すようなそんなドキュメンタリーだなあ。

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基本的に新しいモノゴトを体験すると人間、「斜め上だなあ」と思って、一瞬とまどいながらそれを受け止めると思うんですが、その時に、ココロと現象との間に摩擦が起こっているんだと思う。んで摩擦にもいい摩擦と悪い摩擦があるなと思っていて、いやな摩擦(擦り傷、喧嘩、カルチャーショック)も、気持ちいい摩擦(あかすり、サプライズ)も、その二面性って紙一重で、それが両方見えてくるような映画を通じて、三十路&門出ができればと思ってこの3本にしてみました。人って年取ってくると厚顔無恥になると思われがちだけど、それは「自分にとっての既知の出来事について」の態度であって、そういう人に限って、未知との摩擦が大っ嫌いで、ココロの敏感肌になっていくと思ってるんです。だから、自分もどうにか、摩擦を適度に楽しみ続けられる齢の重ね方ができればなあなんて、これらの映画に思います。

まあ全部見たことあると思いますがあえてこの3本で!これからの良い摩擦を楽しめる人生になるといいよねー!

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