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放課後まほらbo第十八話 「冒険と創造性」を考える

放課後まほらboでは、「あそびは、最高の学び!」の構造化をすすめ、遊びを科学することで、なぜ「冒険遊び」が子どもの創造性を伸ばすのかを探究します。

【第十八話】

■子どもにとっての冒険

 「危ないから、やめなさい!」のもう一つの側面について考えてみたいと思います。
 この言葉が、どれほど子どもの成長の機会を摘む恐れがあるかは、前回十七話で触れました。危険な遊びが、子どもの力を引き出すという文脈の中で、合わせて身体能力、対処能力の向上や自己肯定感につながることに触れたのですが、子どもの創造性という点から見てみたいと思います。

 「冒険」と辞書で引くと「危険な状態になることを承知の上で、あえて行うこと。成功するかどうか成否が確かでないことを、あえてやってみること。」などと記述されています。まさに「危ないから、やめなさい!」の対象になるわけですが、ここには「挑戦」することが含まれていることがわかります。成長の過程にいる子どもは、当然のことながら、毎日「出来る」とわかることだけをしているわけではありません。日々、新しい出来事や知識と出会い、成功や失敗を繰り返しながら学んでいるわけですから、それを前提にすると、毎日が「冒険」といえるでしょう。つまり、子どもの毎日は「挑戦」の連続なのです。「危ないから、やめなさい!」のリスクとは、挑戦することを抑制することにつながりかねない言葉であり、「成長のための挑戦」を肯定する価値観を否定してしまうことにあります。子どもたちが日々体験する「小さな冒険」を推奨し、肯定する価値観を大人が持つことが肝要です。

■ごっこ遊びと創造性

 ごっこ遊びの代表というと、「ままごと」や「お店屋さんごっこ」です。子どもたちは、お父さんやお母さん、いろんなお店の店員さんになりきりながら、その姿を演じていきます。幼児期から学童期にかけて、このごっこ遊びと創造性の関連については、多くの研究があります。模倣から想像力溢れる物語を生みだすごっこ遊びへと成長していくのですが、特に自然の中での冒険遊びは、その自然物によって想像力が掻き立てられ、多様な物語を生みだすことが確認されています。昔話に出てくる「狸や狐が葉っぱを頭にのせて、くるっと宙返りする」と、なんにでも化けられるというのは、その象徴なのかもしれません。
 里山で冒険教室をしていると、そこはジャングルになったり、草原になったり、大冒険のフィールドになります。子どもたちがクモの巣にかかると「悪者の罠にかかってしまった」と、さっそく一大冒険活劇が始まるのです。
 コロナ禍前ですが、学校の校庭脇を歩いていると、顔見知りの2年生男子3人が運動場の木陰でこんな活劇をやっていました。「その木の向こうには絶壁があって、逃げられないぞ。」「うわぁ、捕まった!助けに来てくれ」「その山を飛び越えないと無理だ」と絡み合いながら、真剣そのもので冒険している姿を、フェンス越しに垣根の隙間から聞き耳を立て、一部始終を楽しませてもらいました。放課後児童クラブの活動でプレーパークを使い、よくそんなことをやっているのです。学校でも運動場の片隅で、中休み20分の少しの時間でも、想像力を掻き立てる冒険が出来るのは子どもの才能です。小枝や、樹木、ちょっとした起伏を使って物語を生みだす創造性は、冒険遊びによって育まれます。

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■冒険で創造性を育むコツ

 学童期になると、こういった遊びをギャングエイジという発達段階で仲間と共に体験することで、創造性と共感力、協働性をいっそう育んでいくと考えられています。特に自然物を使った冒険遊びは、多様性を引き出し、創造性を育むのです。一葉、一枝、一本の樹木、森は、その起点になり、子どもの感性に刺激を与える具体物なのです。そこにいて、それに触れ、それを見つめるだけで、創造性が子どもの中から溢れるようになるためには、私たちがその仕組みを知って、価値観を肯定する必要があります。
 冒険教室の帰りに、子どもたちは、大事そうに手に持っている泥だらけの枝やゴツゴツした石を「これ持って帰っていい?」と尋ねてきます。「ああ、いいよ。冒険でゲットした大事なアイデムだね」と応えると、満面の笑みを浮かべ嬉しそうに帰っていきます。しかし次の瞬間、駐車場から聞こえてくるのは「そんなもの家に持って帰ってどうするの、車が汚れるでしょ」という声が聞こえてきます。確かに、それらは家に持ち帰っても役に立たないし、車の中は汚れるに違いないのですが、創造性を育む魔法は、そこで解かれます。アイテムに込められた子どもの物語に耳を傾けると、新たな創造の世界が始まるかも知れないと思うと、残念でなりません。
 もう一つの懸念は、近年、子どもがごっこ遊びをしなくなったとか、5歳くらいでやめてしまうなどといわれています。デジタルが発達して仮想現実を作りロールプレイが出来るゲームの普及によって、子どもの遊びに対する動機が変化したと考えられ、想像力の発達への影響が心配されているのです。自然を題材にしたデジタルゲームは流行っていますが、そこから子どもの創造力が育まれるのは考えにくいと思うのは、私だけでしょうか。デジタルの楽しさと、リアルの良さを理解しなければならないと考えています。

 繰り返しになりますが、感染症と共に生きるこれからの私たち大人に必要なのは、子どもたちが日々体験する「小さな冒険」を推奨し、肯定する価値観を持つことなのです。
 放課後まほらboでは、冒険遊びを安全に楽しめる冒険教室プログラムを準備していますし、知的探究を基本にした学びの冒険プログラムを大切にしています。
 次回は、スウェーデンで始まった「小さな冒険の旅」について紹介したいと思います。
では。
 
(みやけ もとゆき/もっちゃん)