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放課後まほらbo第十四話 「危険な遊び」の効果

【第十四話】
■遊びの質の変化と社会
■危険な遊びとは
■冒険の効果
放課後まほらboでは、「あそびは、最高の学び!」の構造化をすすめ、遊びを科学することで、こどものより良い成長を促す「危険な遊び」の効果について考えています。

■遊びの質の変化と社会
 第八話の「遊びの科学-あそびの危機-」でも少し触れましたが、この30年間で子どもの遊びは大きく変化しているといわれています。それは屋外での遊びが減り、遊び相手がデジタルになったということです。新自由主義の下で広がった個人主義が自己責任を求めたことで、多くの親は、外で遊ぶ危険より家の中でデジタル相手に遊ぶことを選択するようになりました。屋外で交通事故や犯罪に巻き込まれる危険から子どもを守るために、家の中でビデオを観たりテレビゲームをしたりすることを選んだのです。教育の私事化は、遊びより勉強することを子どもに求める風潮を強くしました。また、社会は、技術変革で加速度的にデジタル化しはじめました。デジタルネイティブという世代が主流になるのは、もう間もなくです。ではデジタル化する社会で生きていくための子どもの遊びは「デジタル相手」で十分なのでしょうか。デジタルツールを道具として使いこなすことは必要だと思いますが、子どもの遊びがデジタルに偏ることがいいと考える人は、実際は少ないのではないでしょうか。しかし現実はもっと深刻になってきています。WHOは、この30年間で若者のメンタルヘルスが悪化していると警告しています。ヨーロッパでは、若者の5人に1人が情緒や発達、行動の障害を抱えていて、8人に1人が精神疾患にかかっているといわれています。野外での遊び時間が減るのとは反対に、これらの問題が増えてきているのです。米国の精神科医スチュワート・ブラウンの研究では、動物の行動観察から、身体遊びが、賢く、勇敢に、より優しく個体を変化させることが確認されています。では、どんな遊びが子どもの成長を促すのでしょうか。

危険な遊び2

■危険な遊び
 子どもは、遊びの中でちょっと危険なことにチャレンジするのが好きです。
ノルウェーの幼児教育学者エレン・サンドセターは、遊びの環境設定として、子どもを伸ばす危ない遊びの6つの要素を抽出しています。
1、荒っぽさ rough & tumble
2、危険な要素 dargerous elements
3、速さ speed
4、危ない道具 hazardous tools
5、単独の冒険 solitary explorations
6、高さ hight
遊びを通して慣れることで、対処方法を学び、そんなに恐れる必要はないということを知り、自分自身の恐怖心を制御する力がつくと指摘しています。しかし、これはどれをとっても親の目の前で起こると「危ないから、やめなさい!」と言いたくなるものばかりです。5年間の放課後児童クラブの日常の中で、私は積極的にこのような遊びを取入れる方法と指導者に必要な要件の実証研究に取り組みました。こういった遊びを多く経験した子どもと、そうでない子どもとでは違いがみられます。それは個人としても集団としても言えることです。恐怖心の制御は、自己のコントロールにつながり、自信を強めます。色々な場面で対処方法を獲得するということは、スキルを高めることになります。これらは、自己調整学習の3つの要素「動機付け、学習方略、メタ認知」につながるものですが、しかしそれは必ず転移するとは限りません。自然と学び取る子もいれば、そこには働き掛けを必要とする場合もあるというのが5年間の研究結果です。放課後まほらboでは、そのために必要な指導者の役割を意識した取り組みが行われます。

■冒険の効果
 子どもの遊びの変化を考える時にもう一つ深刻なのは、野外での遊びを経験しない親が子育て世代になり始めている現実です。親自身が、野外での遊びを体験していないと文化である遊びの伝播が難しくなるかもしれません。ある都内の学習塾が無人島を購入し、生徒にサバイバル体験をすすめている例が新聞で紹介されていました。塾の代表は、起業した時から勉強だけではなく、月1度の体験活動を取入れておられたので、当時なぜそうするのか質問したことがあります。彼は「その方が、なぜか成績があがるんだよ」と、一言でした。私の住む奈良市では、適応指導教室の生徒が夏休みに自転車で冒険に出かけるプログラムを実施していたことがあります。普段は不登校気味の生徒たちが、チームでテントと食料と地図をもって、奈良から和歌山に向かう冒険です。このように自然体験や冒険をする活動は増えてきていますが、それを意図的に行うには、計画や方法を明確にしながらマネジメントする必要があり、そこには経験と知識が必要とされます。まずは子どもが幼い間に親と一緒に自然に親しみ学ぶことを覚えていくことを、私はお勧めしています。
さらにスチュワート・ブラウンは、遊びで育まれる資質として4つのことをあげています。
1、楽観的な気持ち
2、達成感
3、自信
4、自己を認識する力
この4つは、人が幸せにいきるために必要な資質ともいわれています。
 発達心理学者のキャシー・ハーシュパセックは、幼児期の遊びは一般教養の授業と同じでその後の学校生活・人生全般の鍵を握ると考えています。彼女の研究では、新しい遊びに取り組むことによって、順応性・記憶力が伸びることが分かってきています。そこから子どもが遊びを通して「学ぶための基礎」を高められると考えています。子どもは、遊びを通してこんなプロセスを経験します。
1、遊ぶ時、ヒトは他人が何をしたいか知ろうとすること。
2、それぞれの役割を決める過程で譲り合うこと。
これは、民主主義社会を作るために私たち一人ひとりに求められるルールでもあります。
またカナダの発達心理学者マリアナ・ブルッソーニは、身体を動かす遊びの重要性を指摘していますが、それは危険な遊びなどのリスクを伴う行動が、ケガを予防するのに重要で、そこで子どもはリスクコントロールの術を身に付けるというのです。子どもが危険な遊びを通して学ぶものとして、3つのことをあげています。
1、身体の機能
2、快適でいる方法
3、世の中の仕組み
また日常の行動調査から、子どもが「遊びの場」として緑地を好んで選んでいる実態がわかりました。多くの子どもは、自然物のなかで、自身の身体能力と想像力を育むのです。

危険な遊び1

子どもの権利条約は、世界中の子どもに「遊ぶ権利」を約束しています。いまコロナ禍は、その大切な権利を奪い、家族に大きな負担を強いています。だからこそ、私たち大人には、子どもの権利を守る責任があります。家にこもりがちな子どもの背中をそっと押して「小さな冒険の旅」に誘えるような工夫と努力が必要です。野外で遊ぶという自然との共生には、深い知恵と、高い責任感、それに他者への思い遣りを必要とします。子どもたちは「小さな冒険の旅」を通して、そのことを学びます。それは持続可能な発展のために私たち一人ひとりに求められる「行動を変える旅」でもあります。放課後まほらboで、大切にしているのは、この「賢者の学ぶ力」です。
次回は、子どもの力を伸ばす「ポジティブ心理学」について考えたいと思います。
では。


(みやけ もとゆき/もっちゃん)

※参考資料:NHKBS世界のドキュメンタリー2019.11放送「遊びと科学」(カナダ2019:Tell Tale Productions)