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放課後まほらbo第二十一話 子どもが伸びる「野外・生活体験」とは

放課後まほらboでは、「あそびは、最高の学び!」の構造化をすすめ、遊びを科学することで、なぜ子どもの「生活体験」が大切なのかを探究します。

【第二十一話】

■なぜ「生活」なのか

 子どもの活動の中で「生活」の持つ意味合いとはなんでしょう。
学校教育では平成元年に生活科が誕生しています。昭和40年代から長い時間をかけて検討を重ね行われた教科の再編ですが、それまでの社会、理科ではなく、生活科とされたのには理由があります。

(1) 児童の発達の特徴
子どもたちは遊びを通して、総合的な学びをしている。
(2) 社会の変化に主体的に対応できる能力の育成
児童が主体的に、具体的、かつ総合的な活動を通して、知識、技能の獲得や習慣を身に付ける必要がある。
(京都教育大学教育実践研究紀要11号2011波多野達二「生活科の成立と現状」)
この流れはその後、総合的な学習の時間、アクティブラーニング、へとつながるのですが、大切なことは「生活」は、子どもにとって大切な学びの機会だということでしょう。

この学習指導要領の改訂は、「自立への基礎を養う」ことを目的としており、
① 具体的な活動や体験を重視する。
② 自分との関りで社会や自然を捉える
③ 自分自身や自分の生活について考える
④ 生活上必要な習慣や技能を身に付ける
という4つのポイントを、波多野は、その目的の中で指摘しています。

 子どもにとって「遊び」や「生活」は、学習の重要なファクターであるというのが、この時の学習指導要領の改訂から明確に発せられたメッセージなのだと思われます。限られた学校教育の時数の中では難しいからこそ、社会教育、地域教育、放課後の場面で実現する必要があると考えてきました。


■「通学合宿」プログラム効果

 この生活の効果に最初に気付いたのは、「通学合宿」という地域教育のプログラムでした。
 以下、「地域における通学合宿活動の実態に関する調査研究」(平成14年 3月国立教育政策研究所社会教育実践研究センター)より引用。

「生活体験・自然体験が日本の子どもの心をはぐくむ」(平成 11 年 6 月 生涯学習審議会答申) では、日本の子どもの心を豊かにはぐくむためには、家庭や地域社会で様々な体験活動の機会を「意図的」、「計画的」に提供することが必要であり、平成 14 年度からの完全学校週 5 日制の実施に向けて、子どもたちの体験活動の充実を図る体制を一気に整備するための緊急施策を提言しています。
この通学合宿プログラムのねらいとして、調査報告書には下記の報告がされています。
• 子ども自身に関するねらいとしては、「働くことや協力することの大切さを理解させたかった」が53%でもっとも多く、次いで「規則正しい生活や整理整頓などの生活習慣を身につけさせたかった」(44%)、「不便なことやつらいことも我慢できるようにさせたかった」(28%)、「友だちとのつきあい方を身につけさせたかった」(25%) となっている

これは参加する子どもに対して、協働や自立を促すことをねらいとするプログラムなのですが、家から離れ、公民館などで共同生活をしながら学校へ通うというシンプルなものです。買い物をし、食事を作り、洗濯をし、掃除をし、同じ釜の飯を食べ、お風呂に入り、共に勉強をし、学校に通う、まさに日常生活のプログラムです。実際10年間実施した中で、子どもたちが大きく成長するのは、この一つ一つの生活の自立体験でした。家では、これら全てのことが、お手伝いの範疇なのでしょうが、この期間は自分たちでやり切らなくては、生活が成り立ちません。大学生や地域住民のサポートを受け、それを達成することで子どもは多くのことを学びます。協働、工夫、対話、人との関りの中でこれらの大切さや、生活の習慣、技能を高めていきます。私はその姿を見て、これらの体験は学習の素地を整えることにつながるのではないかと考え始めました。

■活動から「生活」へ

 日本の多くの小学校では、高学年になると宿泊を伴う自然体験や野外活動体験を実施します。それは特別活動の一環で、その中心はオリエンテーリングや飯盒炊飯、キャンプファイヤーを取り入れています。私は、学校行事としての野外活動も含め、子どもが、このような野外活動体験を通して、どれくらい変化するかに関心があったので、子どもの体験活動の調査をされている杉森伸吉東京学芸大学教授(心理学)に、その効果についてお伺いしたところ「たしかに事前事後の調査では、野外活動体験にも子どもが成長する変化は見られるが、それ以上にお手伝いなどの生活体験の方が、より大きく、持続的な変化が見られます」とのことでした。
 この時から「野外活動」から「野外生活」に、プログラムの内容の変更に舵を切りました。このタイミングで、スウェーデン野外生活協会が提供する幼児向け自然環境教育プログラム「森のムッレ教室」と出会うことになったのです。特に厳しい冬を過ごす北欧の暮らしは野外活動ではなく、野外生活が中心となっていることに新鮮さを感じ、いま求めていることに合致すると感じたのでした。これが「森の冒険教室」の始まりです。自然の中で生活するというプログラムは、子どもたちに多くの知恵を授け、共生することを学び、環境配慮行動を促し、自分の頭で考え、行動することで、いっそうの自立と、豊かな創造性を育むことを体験していると、子どもたちの姿から感じるようになったのです。
 これら一連の取り組みを、日常的に放課後の活動に取り入れることで、どのように子どもの成長を促すことができるか実証研究したのが、平成25年から5年間にわたる「東京学芸大学放課後児童クラブ」の活動です。この実証研究の内容については、改めて触れたいと思います。
 放課後まほらboでは、生活の中での知的冒険遊びを楽しめるプログラムを準備しています。そこでは、学習の基礎と探究を基本にした学びを大切にしています。
 次回は、子どもが伸びる「野外・生活体験」の仕組み、について紹介したいと思います。
では。

(みやけ もとゆき/もっちゃん)