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親密な「知り合い」

10年以上前からTwitter上でやりとりをしている人がいる。会ったことは一度もないけれど、長い間フォローし合って言葉を交わしてきたので、お互いにこれまでどのようなことがあったのかなど、旧知の友達より熟知している。先日、彼女のことを人に話す際に迷った。顔も本名も連絡先も正確に知らないのに「知り合い」ではないだろう。それに、この関係性は間違いなく「知り合い」以上の親密さだ。でも、Twitter以外での交流はないから「友達」でもない気がする。仕方がないので「Twitter上でやりとりをしている人」と言ったが、違和感が残った。そして、既存の言葉にあてはめなければ人に彼女のことを説明できない自分に少しがっかりした。

昔、いわゆる「二股」をかけられていたことがある。当時、彼はもう一方の女性のことを「知り合いが」と言ってよく話題に出していた。彼女のことを話している時にはなんとなくわかった。我慢できず「そんなに親密なのに友達じゃなくて『知り合い』なの?」といった私に、黙り込んだ彼を今も覚えている。本当は「恋人」だから「友達」とは言えず、「知り合い」と言い表していたのだろう。

しばらくして、その彼女と電話で話した際に(いわゆる修羅場だ!)「まいさん」と呼びかけられてびっくりした。彼は、彼女に私のことを名前を出して話していたという。具体的にどういうことが話されていたのかはわからない。しかし二人の間で語られる私は、彼の「友達」でも「知り合い」でもなかったことは確かだ。彼女は彼を「私の相方」と呼んでいた。
のちに彼は「自分にとってはどちらも恋人だと思っていた」と言った。しかし、やはり彼女の方が本命だったのだと思う。

その後、彼は彼女のことを「知り合いが」とは言わず「あちらが」と言うようになり、彼女は彼のことを「相方」ではなく「悪友」と書き表すようになった。彼女はただの「友達」には戻らなかった。その楽しそうな肩書は「妻」よりもなんだか眩しく見えた。
結婚してから私たちの間で彼女のことが話題に出たことはない。しかし今、夫は、彼女のことをなんと呼ぶのだろうと、ふと思う。

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