見出し画像

【俳優覚え書き】下鴨車窓『漂着(kitchen)』

先日終演した下鴨車窓『漂着(kitchen)』について、俳優としての覚え書きをまとめます。
稽古場や本番で思ったこと、感じたこと、今回の目標とその振り返りなど。

下鴨車窓『漂着(kitchen)』
脚本・演出 田辺剛
日時 2022年7月2日(土)~4日(月)
会場 THEATRE E9 KYOTO

【出演】
大熊ねこ/坂井初音/西村貴治/上条拳斗/西澤翼/藤島えり子/にさわまほ/越賀はなこ/加藤彩/福西健一朗/田宮ヨシノリ/池山説郎/森川稔/辻智之/二宮千明/尾國裕子/神谷牡丹/イルギ/岡田菜見


●振り返り① - 目標は「逸脱」「失敗を恐れない」


下鴨車窓に出演するにあたって、今回の個人的な目標は「逸脱していくこと」だった。

この目標を設定した理由は、大きく二つ。

一つは、自分が稽古場で「正解」を求めすぎてしまう傾向にあること。

演出家の求める(求めているであろうと思われる)ど真ん中の演技を目指して、平均点というか、模範的な(?)芝居へと突き進んでしまいがち。

よく言えば優等生的、悪く言えば面白みに欠ける。
自分のそんなところがすごくコンプレックスだった。

だから、今回の公演ではできるだけ失敗を恐れず、稽古場で平均点を目指すのではなく、場合によっては0点を出すくらいの勢いで取り組みたいと思っていた。

もう一つは、何度か観劇して、下鴨車窓の作品にある種の「王道」さを感じていたこと。

下鴨車窓の演目は、身近な設定の話からファンタジックな話まで、ジャンルは様々ながら、物語の骨格がしっかりしていて、ストレートで芯の通った雰囲気が共通している気がした。
物語が強固な分、戯曲を読んだだけで世界観や人物造形がくっきりとイメージできる。

だからこそ、台本から受けたイメージに捉われすぎず、いろいろな方向に感覚を伸ばしていきたいと考えた。


●振り返り② - 肩の力を抜いたほうが自由になれる


台本をもらい、配役が決まって早々に躓いた。
自分の役のイメージが湧かないのだ。

今回の舞台は、海辺のアパートの三つの部屋。
それぞれの部屋の住人と周囲の人間を描く、オムニバスのような構成。
「女3(ユカ)」は、そのうちの一つの部屋の住人だった。

劇中で、女3(ユカ)についての言及は色々あった。
「古いアパートに住んでいるような(ワイルドな)タイプには見えない」「実は切り詰めた生活をしている」「人付き合いが苦手」「お酒が飲めない」等々…

その言葉たちと、実際の言動から受けるイメージだけでは、おとなしくて真面目そうな女性像しか浮かばなかった。

基本のテンションもよくわからないまま、稽古に取り組んだ。



稽古開始からしばらくして、全チームでの通し稽古があり、作品の全容が初めてわかった。
そこで初めて、自分の演技が重(暗)すぎるかもしれない、と気付いた。

そこで、「お酒が飲めない」「人付き合いが苦手」…といった文字上のイメージを一旦振り払って、思いっきり明るいテンションで演じてみよう、と思った。
通し稽古で、いきなり。
明確なプランもないまま、でも一回試してみよう、という気持ちだけで臨んだ。

結果、周りの演技も見えないまま、一瞬で出演シーンは終了した。
空回りした…という感覚だけが残った。

稽古後はちょっと落ち込んだけれど、「失敗を恐れない」という当初の目標を思い出した。
そして今改めて振り返ってみると、あの時の空回りは絶対に必要なものだった。


失敗した通し稽古の後、稽古場で肩の力が抜けている自分に気がついた。

台本のイメージに縛られて、小さな枠組みの中で窮屈に演じてしまっているような感覚に悩んでいたけれど、力を抜いたほうが自由になれるのだった。

周りの空気とか、相手の反応を感じながらゆったりとした気持ちで演じられた。
これだ、と思った。


●振り返り③ - 揺らいだ先の「イエス」


今回、本番に入って気をつけたことは
「とにかく力を抜くこと」
「決めず固めず、揺らいだ状態でやること」
この二点だった。

女3(ユカ)の出番は、最初から二番目と最後から二番目。
特に最初は、まだ客席の空気が固い中で、大熊ねこさん・西村貴治さん・越賀はなこさん達がしっかりと状況を提示してくれるシーンだったので、自分の役割はとにかく柔らかく、リラックスして観ていいんだという空気感を出すことかなと思った。

そして、自分の中の窮屈な枠組み(思い込み・イメージ)から脱するために、演技は固めてしまわないで、その時その時の感覚でベストな手段を選んでいった。

役作りは特にキッチリやらずに、ベストな手段を選んでいった先に自然に人物像が浮かび上がってくればいいなと思いながら演じた。


下鴨車窓『漂着(kitchen)』2022年/撮影=松本成弘


女3(ユカ)とルームメイトの女5(マイ)の関係性について、どう表現していくかは最後まで迷った。

相手役の加藤彩さんや演出の田辺さんともラインを探りつつだったけれど、
ひとつだけ、個人的に譲りたくないことがあった。

それは、ラストシーンを悲しいものにしたくない、ということ。

最後の海岸の場面で、女3(ユカ)は女5(マイ)に同居を解消したい旨を話す。
女5(マイ)は「荷物を持って行く」とだけ言うけれど、なんとなく別れの気配が漂う場面だった。

やろうと思えば、いくらでも悲しくなるし、エモーショナルになる。
でも、そうしたくなかった。

二人の関係性にイエスを示したかった。

ここで一旦離れるけど、二人が一緒にいたことは悪いことじゃなかった。
二人が一緒にいるにはまだ自分の器が足りない、お互いを縛ったり振り回されたりする関係ではなく、もっと良い関係を築きたい。
そんな前向きな思いを女3(ユカ)から感じたから。


おまけの余談。

衣装や小道具の細かい部分にこだわるのが好きなのですが、
今回は女5(マイ)の加藤さんとお揃いのペディキュアを塗っていました。

女5(マイ)が女3(ユカ)に塗ってくれたという設定で。


下鴨車窓『漂着(kitchen)』2022年/撮影=松本成弘


●まとめ


当初の目標の「逸脱」が達成できたかどうかはわからない。

ただ、素朴なイメージの役柄を、自分の力でできるベストな方法で立体化していけた気がする。

「失敗を恐れない」のはまだまだ苦手なので、今後も留意して臨みたい。


ずっとやりたいと思っていた、同性同士の間柄を濃く演じる役をいただけてとても嬉しかった。

出会いに感謝しつつ、次の出会いを楽しみに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?