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小説◇恋愛から足を洗ったOL佐伯ミズホ、早退します。

JKかぁ。懐かしいなぁ。

令和にしては珍しくルーズソックスなJKを、まじまじと見つめていたら目が合ったから目をそらすchickenな、32歳OLなわたし。
七年以上彼氏も彼女もいなくて独身なので貯金がすこぶる貯まってきた。いまが1308万円か。すこぶる使うのもいいが、どうしようか。
29歳のとき、うっかり彼氏が出来かけたときも、するりと交際決定をすり抜けて、キスまでしたのに付き合わなかったことは後悔していない。
それにしてもJK。うっかりちゃっかりまじまじと見つめてしまったけど、ルーズソックスって再び流行ってるのか?
わたしにもJKな頃があった。そしてその頃もルーズソックスが流行ってた。
あれ?タイムスリップしたっけ?と思ってJKをまじまじと見ているうちに自分の女子高生時代が頭上で再生された。
陰キャでも陽キャでもなかったわたしは、JKのときまでは恋愛を楽しんでいた。というか唯一のモテ期がJKのときにやってきたからそのなかでいちばん顔がタイプだったSくんではなく押しの強かったHくんと付き合うことにした。
顔がタイプだったSくんとは付き合わなくて正解だったし、押しの強かったHくんと付き合うことにしたのも正解だった。
いままで二人と付き合ったことがあり二人とも正解だった。でも、29歳で彼氏が出来かけたぐらいの時期に、なんだか今後の生涯で結婚をしたくない自分がいた。

その頃までは、なんとなく結婚を意識しているときもあったが、JKの頃のみモテ期が来たわたしにその後モテ期が再来することはなかったし、顔がタイプなひとや押しの強いひとと出会っても言い寄られることはなかった。29歳まで、自分からアプローチをしようと頑張ったが、あれ?結婚したくないぞ?と思ってからは頑張らなくなった。

でも、せっかく独り身なのだから人生をひとりでも楽しめるようになりたいと思って、30歳の誕生日に引っ越しをした。

わたしは田舎で一人暮らしをしていたが、東京に好きな街があってそこに住むことにした。
その選択もやはり正解だった。

そして、引っ越すタイミングで東京で仕事を見つけねばと思ったが田舎にいた頃のような工場は東京には少なかったので、田舎に住んでいたときと違うOLになってみることして、32歳ではじめてOLになった。

11月10日 15:00
珍しく仕事を体調不良で早退した。腹痛がひどすぎてめまいがしたのだ。
『佐伯さんにしては珍しいねぇ』と心配された。
最寄り駅から帰る途中、川沿いを歩いていた。
薄茶色の枯れ木と青い空、雲ひとつない。



わたしはこの街が好きだ。



新しい職場はとてもいい会社だし、強いていえば母から未婚の私を心配する電話が毎月かかってくることだけが不満だが、わたしとしては完全に諦めているので意志が変わることはなかった。

わたしはこの生活が好きだ。

老後も働くつもりなのに貯金が貯まってきたし、旅行にでも行こうかしら。
職場の隣の部署で出来た女友達と今度ごはんに行くことにした。
東京に引っ越してからは始めて出来た友達なのだが、少し緊張する。というのも最近ひとりが好きすぎる。家にいるのも街を散歩するのも楽しい。ただ、その友達はとても気が合いそうだ。わたしと同じくひとりで生きていくと決めているらしいし価値観も近い。

なんでわたしたちがこんなに、色恋を諦めているのか。諦めていると言うとほんとはやりたいと思われ方だが、本当に興味がない。恋愛を二人として、嫌だったわけじゃなくて、むしろ満足しているから恋愛に嫌気がさしたとかでもない。ただ、わたしの場合モテ期は終わって、結婚もしたくないので、恋愛からは足を洗った、と言うようにしよう、と腹痛で枯れ木が滲んで見えるなか決心した。



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