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『ボヘミアン・ラプソディー』のヒットの理由について、あまり言われてないので自分で言いたいこと。

「ヘッドフォンからの音楽の解放」、それが映画『ボヘミアン・ラプソディー』の大ヒット・ロングランの理由の一つである事は間違いない。大型スクリーンの映像と共に空間に音を響かせる、映画館という「装置」そのものが、動員と満足度に大いに貢献した。そしてその装置に完璧にマッチするコンテンツとしてクイーンがあった。

クイーンの同時代ファンは、良い音を空間に響かせるためのオーディオ機器にこだわった世代だ。クイーンの音楽は、そういう音楽との付き合い方に合っていた。

そんな時にソニーのウォークマンが登場した。それは音楽を聴く行為を制約された場所と時間から解放したと同時に、音楽体験をパーソナルなものにしていった。鼓膜だけを直に振動させる音は、空間を振るわせ、体で感じるのとは全く別ものだ。そんな時代が30年余りも続いたのだ。

「ドームライブからの解放」という要素もある。かつて海外アーティストの来日公演会場というと、新宿厚生年金会館、中野サンプラザあたりで、大物なら武道館、キャパが足りなければ武道館3daysなど、公演回数を増やすしかなかった。そこに東京ドームが完成し、日本もスタジアムライブの時代を迎えた。1公演で大量動員が可能になったが、武道館ですら音はイマイチと言われたのに、ドームは最悪だ。アリーナでも椅子はパイプ椅子、更に会場が大きすぎて、アーティストとの距離感は筒香のホームランがやっと届くくらいで、結局大型ビジョンを見るしかない。大物ほど良い音、良い距離感で観る機会はなくなる。

そこへ行くと今の映画館という装置はなんと快適なことか。年に1~2回、子供をディズニーやドラえもんを見せに連れてくるだけでは気づきにくいだろう。しかし、今回はクイーンだ。私が観たのはDolby Atmosのスクリーンだが、普段スマホでライブ動画を見ているところから、いきなり巨大スクリーン、空間に最適化された音響は、忘れていた音感の楽しみを呼び覚まし、散々聴いてきたはずのクイーンの音楽と改めて出会う体験となる。

映画館にとっても、その進化した音響性能の実力を発揮する格好の作品だ。爆発音がリアルとか、ゾンビの声が後ろからとか、そんな事が出来るからと言って映画の魅力が大して増す訳じゃない。映画館で観るってやっぱりいいな、と思わせてくれる。

クイーンを知らなかったヘッドフォン・ネイティブの世代は、普段は大人の騒ぎには乗らないのだが、彼らを巻き込んだ事が、オールドファンにとってもちょっと誇らしいに違いない。

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