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昏い彼岸へと手を伸ばす

夢の背景は昏い。
闇の中、濁った水に朧に像を結んだ幻影は、理性の手綱の弛んだ頭に、それでも現実との水際を見失わせる。

果して夢は、眠りの中にだけあるのではない。覚醒の中にあっても、白昼の星月のように心の遠景を廻っている。

夢には真も偽もなく、善も悪もない。如何に不条理な夢であっても、不道徳であっても、自らを恥じたり、呵責に悩む事はない。むしろ芸術家や文筆家であれば、その危うい晦冥に踏み込み、泥濘の中から貴石なり、劇物なりを手繰り出す肚がなければいけない。

暗鬱たる深淵から掴み揚げた夢の石榑から研き出された芸術や文学は、往々誰にも心地よいものではなく、寧ろ胸を抉るように痛ましく、禍々しく、如何わしい。しかし、それらが合理的、倫理的思考の彼岸にあるものであることを弁えねばならない。

感性のペダルの深度は其々であり、芸術であれ文学であれ、万人が等しく受容できるものではないが、創作者は受け手の反発に過度に萎縮すべきではない。

夢の昏い畔に立ち、自らを贄とし、天使を引き摺り降ろし、魑魅魍魎を釣り上げる。そうして生まれ来る芸術は時に酷く、壮絶な所業である。


…とまあ、難しい言葉を並べて、勿体つけて、何の話だと。察しの良い方はお気づきかと思いますが、会田誠氏が京都造形芸術大学で行った講義を巡り、参加した女性が苦痛を受けたとして大学側を訴えたというニュースを受けてのものです。

女性はこの大学の卒業生で、美術モデルでもあるとの事。芸術への関心も知識も高い方かと思われますが、今や日本の美術界の最重要人物である会田氏が、どんな作風の芸術家で、どんな人物かは御存知なかったとなると、宝塚を目指していた女優さんが園子温監督や石井隆監督を知らずに出演するとか、乃木坂46に憧れるアイドルがbiSに入っちゃったような(それはちょっと違うか?)もので、お気の毒としか言い様がない。

誰かが何かを出来たとすれば、大学が予め、会田氏は作風も、人物も相当刺激が強いですよー、妊婦なら流産、神父なら昇天するレベルですよー、健全な方は参加を避けましょう。それでもというなら、自己責任で、と念を押して参加を募るべきでした。

おまけ。

因みに会田氏はtwitterで、こう書いていました。
「えー、会田誠って現代美術家って名乗ってるくせに、まだ絵描いたり物作ってたりするの〜、ダサー!古ー!矛盾ー!つくづく日本って感じだね〜!」という幻聴が最近聞こえます…

#芸術 #夢 #会田誠 #美術

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