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November Rain ~short story

天気予報は占いの100倍は確かだ、と思う。
そのわりに、外れても恨む気にはなれない。むしろ、当たらないと思ってる占いに勝手に期待して、裏切られたと思うのは、天気は変えられないけど、運命は変わるかもしれないと思いたいんだろう。

仕事帰りの電車で会った高校の同級生の奈々実と、駅のそばのスタバでそんな会話をしていた。11月の半ばの金曜日、駅前の広場では、クリスマスのイルミネーションが始まった。予報は夜から雨だったのに、降り出しが遅くなったのか、お天気お姉さんのアドバイスを素直に聞いて持った傘は、綺麗に畳まれたまま荷物になっていた。

「置き傘すればいいじゃん」
「ウチ置き傘NGなのよ。それにこれ、自分史上最高額の傘なんだもん。」

そうか、私はこの傘を使いたかっただけかも知れない。先週末出会ったばかりの、一目惚れの傘だ。畳んであると光沢のある黒一色だけど、開くと内側は落ち着いたボルドーで、微かに薔薇の模様の刺繍が透けて見える。華奢だけど手になじむ持ち手もいい。それ以来初めての雨の予報だったから。なんなら、ここで雨が降るまで待ってやろうか。そういうと、あなたらしいよね、と奈々実に笑われた。

すると本当に窓ガラスがパラパラと音を立て始めた。

「やったね、傘使えるよ。」
「奈々実、傘ないよね。」
「大丈夫、彼氏呼んだから。」

彼女のスマホで白いクマのスタンプが「おねがい」とハートを飛ばしていた。

「今日は彼氏のとこに泊まります。」

奈々実は浮かれた敬礼をして見せた。

10分ほどで奈々実の彼氏が迎えに来た。二人は一本の傘に寄り添って、消えて行った。

「ああいうことは、出来ないんだなあ…」

出来ない、というのは私の性格の問題ではない。私の彼氏の週末は、私のものではないから。

職場の上司だった彼には家庭がある。知っていた上で、始まってしまった恋だから、家庭の彼が他の人のものであることを恨んだりはしていない。

明日が見えない恋に不安が無いなんて言えない。だから占いが止められないのかも知れない。街の占い師からアプリの占いまで、色々手を出した。ある有名占い師のサイトでは「恋はクリスマスまでに大逆転」って言われた。天気予報の100分の1も当てにならないと思いながら、未来は変えられると信じたかった。

さあ、傘の出番だ、と店を出ると、ほとんど雨は止んでいた。もう誰も傘なんて差していない。それでも、私は傘を開いてみた。傘の外にはイルミネーションの雨が降り、傘の内側には、丸く私を包む空間が出来た。写真を撮りあう恋人達の間を、傘と私は歩いて行った。

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