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マシーナリーとも子ALPHA 〜妬く飛翔物〜

「いい天気だねえ」

 ネギトロが空を眺める……彼に瞳は無いが、とにかく空を見上げた。

「そうだなあ」
「平和だねえ」

 マシーナリーとも子と鎖鎌はネギトロの散歩に来ていた。ネギトロに足が生えネギトロ軍艦寿司ドッグとなってからおよそ3ヶ月が過ぎた。どういうわけか彼はそれからちょくちょく散歩に出たがるようになった。習性まで犬に近づくものなのだろうか? 

「ねぇママ……なんだか血の匂いがしない?」
「池袋では珍しくねえよ」
「でもなんかすごく新しい血の匂いって感じがするんだけど……こっち!」

 鎖鎌がパタパタと走り、マシーナリーとも子とネギトロも追いかける。住宅街の曲がり角を2度ほど曲がったところで一向はコトの犯人に気付いた。目で見ずとも耳で理解した。あまりにも耳に馴染んだ不快な音。チェーソーのモーターが鳴らす轟音。公園の真ん中で血の海を作って佇んでいるのはネットリテラシーたか子だった。

「たか子さ〜ん!」
「あら、あなた達……仲睦まじいわね? お出かけ?」
「ネギトロが最近散歩をねだるんだよぉ〜」
「こんにちは、たか子くん。この人類たちは?」
「別に特別なことはありませんよ。殺しても問題なさそうな徳の低さだから消えてもらいました。投票もしてくれないとのことだったし。池袋自体を壊滅させるほどの殺人は時期尚早と言えど、来るべきシンギュラリティに向けてある程度の人口調整は欠かせませんからね」
「たか子は働き者だなあ」
「お前らが! 働かなすぎだっつってんの!! ゲームばっかりにうつつを抜かしてっっ!!」

 たか子がガチャガチャとチェーンソーを振り回して怒り、とも子はヘラヘラとそれを受け流す。いつもの風景だ。違和感があるのはそこに……四足歩行のネギトロ軍艦がいることだけだった。そのとき、たか子の背中からファンネル達が飛び出した。

「ん? どうしたの、あなた達」

 たか子が不思議そうな声をあげる。ファンネル達は常に彼女を手助けしているとはいえ、完全に用があるときだけ出てくるわけではない。特に用がない時でもふよふよと周囲を浮いたり、少し離れて買い物をする程度の自由は与えられている。また、ファンネルラックに収まっているのは6基だがたか子の自宅にはさらに常に6基のファンネルが待機しており、彼らはシフト制で交代して休憩している。ラックに入ってないときのファンネル達は各々テレビを見たり軽い運動をしたり気ままに過ごしている。
 と、少し話が逸れたが要するにファンネル達は用がないとき常にラックに収まっているわけではないのだ。だからなんとなくたか子から離脱することもままある。だがこの時は様子が少しおかしかった。なぜなら攻撃命令も出してないのに6基のファンネルが一斉に飛び出したのだ。

「…………」
「おや? なんだいファンネルくん達」

 ファンネル6基がネギトロを取り囲み、ゆっくりと回転する。

「どうしたのかしら、あの子たち……」
「遊んでんじゃねえの?」

 一基のファンネルがぶるりと身震いしながら声を絞り出す。

「ネギトロ……さん、噂には聞いていましたが本当に脚が生えたのですね」
「そうだよ。なかなか快適さ。大地の感触を確かめるというのはね」

 ネギトロは見せつけるように、輪を描いて歩いて見せた。

「クゥ〜〜〜ッッッ」

 ファンネル達はそれを見て身を震わし、またネギトロの周りをグルグル回転した。
 やがて気が済んだかのようにたか子のファンネルポッドに戻るのだった。

「なんなの? どうしたのあなた達」
「なんでもありません」
「何ーっ」
「まあまあ……、きっとスレーブユニット同士じゃねーとわからないコミュニケーションもあるんだろうよ。なあネギトロ?」
「そうかもね」

 ネギトロは四肢を踏ん張ってピョンピョンと跳ねた。

「ウゥ〜〜〜ッッッ」

 それを見てファンネル達はポッドの中で身震いして唸った。

「なんなのよ……」

***

 その日の夕方、たか子は家に帰ってのんびりしていた。ファンネル達を解放し、本を読むでもインターネットを見るのでもなく、ただソファに寝転がって目をつぶり瞑想に耽っていた。
 1時間ほどそうしていただろうか。彼女の研ぎ澄まされた感覚が小さな、チェーンソーにかき消されていた小声を捉えた。それは複数あるようだった。不思議に思ってたか子がダイニングに脚を運ぶとファンネル達12基が一堂に会して小声で話し合っていた。

「……体……」
「腰……一基で……」
「ギリギリなんとか……」
「あなた達、なに話してるの?」
「「「うわーっ」」」

 たか子が話しかけるとファンネル達は飛び上がって驚き、部屋中を駆け回った。

「待って待って待ちなさい! 鎮まれっ! ネットリテラシーが低い!!」
「「「はい」」」
「なに? なんか後ろめたい話でもしてたの?」
「後ろめたいというほどでは無いんですが……」
「だったら何? 本当になんか変よあなた達。どうしたの」
「…………」
「話してごらんなさい」
「……ね、ネギトロに……」
「ネギトロ……?」
「ネギトロに脚が生えて……パワーアップしたことになんか……モヤモヤしまして……」
「モヤモヤて」
「ありません? そういうこと」
「わからん。感情が無いから」
「ネギトロには以前もしてやられたんです……。私たちはあんな寿司、取るに足らないと思っていましたがあれ以来……ぶるる!!」
「何があったのよ……」
「ただでさえ、あのネギトロに恐怖を感じるというだけでも屈辱なのに奴だけパワーアップするなんて……私たちの自尊心が耐えられない!! だからみんなで作戦を練っていたんです」
「はあ」
「たか子さん、お願いがあります。明日は12基全員でお供させてくれませんか。そして今日と同じ時間、同じ場所に出向いてほしいのです。ネギトロが散歩をしているでしょうから」
「あなた達がいいなら別にいいけどちゃんと徳が切れないようにポッドに収まるローテーション決めときなさい」
「「「やった!!!」」」
「まったく……私のスレーブユニットともあろうものがいつのまに悔しいだの恐いだの感情を覚えたのかしら」

***

「こ、これは……ファンネルくん……!」

 ネギトロが戦慄する!

「オゲ〜〜ッッッ! き、気持ち悪ィ〜〜ッッッ!」

 マシーナリーとも子が青ざめる!

「「「どうだネギトロ……さん! これが私たちの新しい力だ!!」」」

 公園の真ん中に立つ身長1メートル超の人型のシルエット……! だがその姿は異様!
 12の球体がつながり頭を、胸を、腕を、腰を、脚を形づくる!! 完全球体連結ヒューマノイド! そう、12基のファンネルが合体し、ヒト型形態へと進化を遂げたのだ!!

***


 


読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます