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マシーナリーとも子ALPHA ~豆の銃篇~

 ドアを開けるとカランカランと音が鳴る。

「いらっっしゃい」

 象頭の店主が新聞を持っていた新聞を起きながら応じる。もう2本の腕はダンベルを上下させていた……4本腕なのだ!

「あ……どうも」

 ワニツバメはペコリと喫茶店の店主……ガネーシャに頭を下げた。

***

「ガネーシャ?」
(うむ、このへんに新しく喫茶店を開いたらしいのだ)

 ワニツバメの左腕に共生するワニ――エジプト神の一柱、セベク――がガウガウと身を捩りながら思念を伝えた。

「それはいいんでスけどガネーシャって確かインドの神さまですよねえ? ヒンドゥー教の」
(そうだ。そうなんだが、あいつ象頭だろ? 友達少ないらしいんだよ。それでちょくちょく私のような獣人がたくさんいるエジプトに遊びに来てたんだ)
「急にかわいそうになってきたな」
(開店を祝ってやりたいし、それに……)
「それに?」
(奴には借りがあるのだ)

***

「話には聞いてたけどセベクのやつ、本当に人間の女の子と合体したんだねえ。大変でしょ。そいつと付き合うの」
「はあ……」

 ガネーシャは器用に4本の腕を使ってコーヒーを淹れつつおしぼりと水とビスケットを同時にツバメに供する。ツバメは紅茶派だが、ここで突っ張るのは得策ではないと黙っていた。

「けっこうがめついんだよセベクは」
(なにを失礼な)

 セベクはガウガウと不満そうに身を捩った。

「まあまあ、動物と合体する気持ちはオレもわかるよ。この頭、そのへんの象の頭テキトウにつけられただけだからね! ヒドイよな~~!」
「それはマジで気の毒でスね……。いや、実際セベクとは別に問題ないんですよ。うまくやってると思いまス]
(そうだぞ。あと私のぶんのコーヒーも淹れてくれ)
「おっと失礼」

 セベクは供されたコーヒーを器用に啜る。

(ところでガネーシャよ。今日訪ねたのはもちろん開店を祝うためでもあるんだが……。お前は私に借りがあったよな?)
「ホラ出た! こういうところがガメついんだよ。見ただろ?」

 ガネーシャは気まずそうにツバメに向かってウインクした。

「前に雀将でボロ負けしてね」
(なに、開店したてのお前さんから金をせしめようなんて思ってない。なにかおもしろいアーティファクトはないのか? それで許してやろう)
「アーティファクトねえ……」

 ガネーシャは背後にある宝箱……昔のロールプレイングゲームにでも出てきそうな、ステレオタイプな造形の宝箱だ……に4本腕を突っ込んでガサゴソとまさぐった。やがて奇妙な形の銃を取り出した。これまた50年代アメリカ的な、オモチャのような……全体的なフォルムはドライヤーかオカリナかといったような曲面で、銃身にはリングが付き、銃口の代わりに球体が取り付けられた、火星人の武器のような形の銃だ。

「すごいデザインの銃ですね……。なんでスかそれは?」
「これは”ビーンズ・ガン”という銃だ。日本風にいえば豆鉄砲というやつだね」
(ビーンズ・ガン?)
「うむ。例えばそのビスケットだが……)

 ガネーシャは右第二腕にビーンズ・ガンを持つとツバメの前に置かれたビスケットに狙いを定め、トリガーを押す。ズビビビビ! と銃口から稲妻のような光線が発射され、ビスケットを包んだかと思うと……ビスケットは豆に変わっていたのだ!

「え!?」

 ガネーシャは豆に変わったビスケットを一粒つまむとポリポリと咀嚼した。

「このようにこいつで撃つとどんな食べ物でも豆に変わってしまうのさ」
(おもしろいじゃないか! ちなみに何の豆だ?)
「ソイ・ビーンズさ」
「食べるのに適した豆ですねえ……おいしい」

 ツバメはポリポリと元ビスケットだった大豆を食べる。なぜか大豆は煎られており、軽く塩味がついていた。至れり尽くせりである。

「でも、豆に変えられるのは食べ物だけなんだ。だからあんまり使い所がなくてね」
(確かに、ビスケットが豆になるって少し損した気分がするな)
「フム……でもこれは……」

 ツバメはガネーシャから受け取ったビーンズ・ガンをポンポンと2,3回弄び、カッと掴んでガンスピン、ビシと構えながら言った。

「……おもしろく使えるかもしれませんよ!」

***

「おう、今日はマシーナリーカレーだぞ」
「やった~!」
「最近マシーナリースープ作ってねーじゃねーかよ」
「家にいることが多いから手を動かしたくなるんだよ」
「とも子くん、たまには寿司を食いなよ」
「そうですよそうですよ」
「金が入ったらなぁ~~」

 マシーナリー家の団らん……。ちゃぶ台をマシーナリーとも子、ジャストディフェンス澤村、鎖鎌、ネギトロ、ハンバーグの2機とひとりと2貫が囲む。もっともネギトロとハンバーグの食事は酢だが。

「じゃあいっただきま~す」

 マシーナリーとも子がカレーの皿のうえで目を閉じて手を合わせる。そのときズビビビビ! と変わった音が聞こえた気がした。変だなと思いつつ目を開けると……皿の上のカレーは山盛りの豆に変わっていた。

「は?」
「オイシイな~! でもさあママ、トマトカレーも悪くないけど私はふつうに水で作ったほうがスッパさがなくて好きだなあ」
「あとハンバーグを載せてくれよ……どうしたのマシーナリーとも子」
「私のカレーが豆になってるんだが?」
「ホントだ。アハハハハハ」
「ウケる。なに豆食ってんだよ。ウキャキャキャキャキャ」
「なにウケてんだよ……。え? 意味わからないんだが。さっき私の前にちゃんとカレー置いてあったよなあ?」
「さあ……。いや、正直自分の前のカレーしか見てなかったけど。ねえ澤村ちゃん」
「今日のメシはカレーって言われて、自分の前にカレー置かれたら全員の目の前にカレー置いてあるって思うよな。豆かどうかなんて確認してねーよ」
「そういう認識の問題の話してねえんだよっ! なんでカレーが豆になってんだよッッ!」
「ぶっ……ブヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」

 窓のほうから笑い声が聞こえてきて、マシーナリーとも子は振り返った……そこにいたのはN.A.I.L.のバイオサイボーグ、ワニツバメだ!

「ウッ、ウケる!!! ハトが豆鉄砲食らったみたいな顔しちゃって! ブヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」

 左腕のワニもガウガウと身を捩らせながら笑う!

「ワッ、ワニィーッ! てめぇの仕業かぁ~!?」
「そうでスよマシーナリーとも子! あなたのカレーライスは私が豆に変えました……この食べ物ならなんでも豆に変えられるビーンズ・ガンでね!」
「なんだそりゃあ~っ!? こ、このっ……殺してやる~~~ッ!!!」
「へっへっへ、そうはいきませんよ! そら徳ダッシュ!!!!」

 マシーナリーとも子は怒りのあまりグレネードランチャーを発射! だが一足早くワニツバメはスカートから徳を噴出して飛び去った。窓は割れた。

「あぁ~っ! 大家に怒られるぜ~~!!」
「んがっ……豆!? 私のカレーが豆にぃ!? どうしてだよぉ……畜生!」
「まあまあ、もうワニツバメ帰ったんだしおかわりすればいいじゃんママ」
「一杯がムダになったのがもったいねえ! ムカつく!!!」
「じゃあ豆食えばいいじゃん」
「それも腹立つ!!!! っていうかせっかくカレー作ったのに豆になったのが腹立つ~~~クゥ~~~ッ!!!」

 マシーナリーとも子は歯を食いしばりながら新しい皿を用意し、ご飯を装い、カレーソースをかける。さっきは変な邪魔が入ったし腹が立つがとりあえずカレーを食べなければならない! ……だが! ズビビビビビ!

「あぁ~~~っ!?!?!」

 無慈悲にも再びカレーライスを包み込む稲妻!!! マシーナリーとも子がおかわりしたカレーライスは……山盛りの大豆に!!!!!!

「ブヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!! あーーーーおっかしーーーー!!! またカレーが豆になってやんの!!!! アッッハハハハハハ」

 窓際から再びのワニツバメ! 目には涙を溜め、転げ回って爆笑している! 腕のワニも愉快そう! ふだんマシーナリーとも子に散々やられているツバメは楽しくて仕方がないのだ!

「こ、このっ……殺してやる~~~ッ!!!」
「へっへっへ、そうはいきませんよ! そら徳ダッシュ!!!!」

 マシーナリーとも子は怒りのあまりミサイルランチャーを発射! だが一足早くワニツバメはスカートから徳を噴出して飛び去った。窓は割れた。

「あぁ~っ! 大家に怒られるぜ~~!!」
「んがーっ! むかつくむかつく! なんだぁあの銃はぁ~~ッッ!?!?」
「ママかわいそう~~。ワニツバメめ、ほんとイヤなヤツだな!!」
「とも子くんとも子くん……アレは怖いよ」
「なんだネギトロ! 珍しくビビりやがって!」
「あの銃は食べ物を豆に変えてしまうんだろう? 僕とハンバーグくんが食らったら溜まったものじゃないよ」
「だから私たちはしばらく隠れてますね」

 ネギトロとハンバーグ寿司は寝床の寿司桶に隠れる! ストライキだ!

「は、薄情者ォ~~ッ!」
「まあしょうがねえよ。確かに寿司にとっちゃあ豆に変えられるなんて殺されるくらい怖いもんなァ」
「畜生~~ッ! ワニツバメの野郎次あったら絶対殺す!!!」
「なんか、殺しちゃいけないとかたか子と話し合ってなかったっけ?」
「んぐぐぐぐぐ!!!! んぐぐぐぐぐ!!!!!!」

 マシーナリーとも子は感情の下ろしどころが見つからず……部屋の真ん中でブリッジをするのだった。

***

読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます