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マシーナリーとも子ALPHA ~光の巨人篇~

 五反田市街に怪獣が現れた。巨大な二足歩行のウシだ!! 50メートルはある! ウシはビルをなぎ倒し、人々を食べる! 肉食ウシなのだ!
 こんなとき、ふだんは自衛隊が現れる。またはトルーたちN.A.I.L.がやってきてその超人的能力で鎮圧する。あるいは虫の居所が悪いサイボーグによって惨殺される、というのが常だった。だが今日は違った。身長50メートルはあろうかというヒューマノイドタイプのエイリアンが現れたのだ!
 全身が銀色に光り輝くツルリとしたシルエットのエイリアンはウシに掴みかかった! そしてチョップ! チョップ! 空手チョップの連打だ! エイリアンは空手家なのか!? と思うとエイリアンは素早くウシの後方に回り込み胴に両腕を回してしっかりとホールドすると美しいブリッジを決めた! バックドロップ! これは柔道だ! エイリアンはあらゆる格闘技をマスターしている!
 その後もエイリアンはウシに回し蹴りや膝蹴り、一本背負いを次々と決める! 巨大なウシもさすがにグロッキーだ! エイリアンはふらふらになっているウシから飛びすさし、両手で忍術の印のようなジェスチャーをサッと行った。するとエイリアンの手のひらからまばゆいビームが打ち出されウシに着弾! 大爆発! ウシは死んだ。

***

 街は大騒ぎである。ウシによる被害を伝えるため五反田に集まっていた報道陣はエイリアンに詰めかけた。ウシを爆殺したエイリアンは、その後満足したように頷くと2メートルほどの大きさに縮んだのだ! ヒーローインタビューに報道陣が沸く!

「あなたは誰なんですか? あの怪獣との関係は? っていうか言葉わかります?」
「ア――。モチカカイ……。あ、はい、すいません。わかります……。えっとあの怪獣のことは特に知りません。私はモヤユ人のワチンチカチといいます」
「言いにくっ」
「すいません。地球人じゃないもんで……」
「なぜ怪獣と戦っていたんですか?」
「いや、なんか地球人のみなさんが困っていたので……ご迷惑でした?」
「まさか、とんでもない! あなたのおかげで地球は救われました」
「やあ、それは良かった……。私、地球好きです。許されるならこれからも地球のために尽くしたい……」

***

(……いや、怪しくないですか?)

 ニュース映像を見たトルーは眉間にシワを寄せる。

(無償で? 宇宙人が? 地球を守ってくれる? どうして? じゃあそのあいだ彼はどうやってゴハンを食べるんです? 住む場所の家賃は?)
「なんか政府とかが補助してくれるんじゃないですか?」

 アークドライブ田辺がとんかつをザクザクやりながらボケッとした答えを返す。

(それがそういった支援は全然いらないと言うんですよ! エネルギーは太陽光があれば十分だし、住む家は借りてるアパートがあるとかで……まったくの無償、ボランティアで地球人の驚異と戦うと言うんです)
「いい人じゃあないですか」
(だから! それだと我々N.A.I.L.がおマンマの食い上げなんですよ田辺ッ)
「確かに困りましたネぇ」

 ワニツバメがズビズビと味噌汁を啜りながら会話に挟まる。ワニ神のセベクは生卵を殻ごと食べた。

「つまりこれは……ダンピングというヤツでスよ田辺さん! 安く働く同業他社が存在すると困るんです。発注を取られちゃいますからね」
「そんなもんですかねえ」
(とにかく! なんとかせねばなりません……)
「なんとかするってどうするんです?」
(ヤツにはなにか裏があるはずです……。いや、もし無かったとしても!)
「無かったとしても?」
(ヤツを陥れてこの社会から消えてもらいます。なぜなら人間を守るのはあくまで人間の仕事! 宇宙人などに任せていては人間のさらなる進化は止まってしまうのです。我々の手で守ってこそ、我々が支配してこそ、この青い地球には価値があるのですよ……。あと助成金も必要ですしね)

***

 トルー、アークドライブ田辺、ワニツバメは手近なビルの屋上にやってきた。一駅ほど遠くに例のエイリアン……モヤユ人の背中が見える。彼が相対しているのは体長50メートルはあろうかという巨大なクラゲだ! 

(大体おかしいと思いませんか? 前回の巨大ウシ出現からちょうど一週間ですよ。一週間! なんで今度はクラゲが現れるんです? いままでこんなハイペースで日本が巨大生物に襲われるなんてことはありませんでしたよ)
「珍しいこともあるもんですねえ」
(ノンキ言ってちゃいけませんよ田辺。怪獣が来ること自体あの宇宙人のせいかもしれないじゃないですか)
「そんなことありますかねえ」
「んで、どうするんでス?」
(まあまず、ヤツの心を読んでなにを企んでるのか探ります。内容次第ではそのまま精神を焼き切るか洗脳するかしてとにかくやっつけます)
「なかなか強引にいきますねえ」
(事態は一刻を争いますからね。組織の長として構成員に冷や飯を食わせるわけにはいきません。では……ハァ~~ッ!)

 トルーの額から毒々しいピンクのエネルギー波が発射される。遠距離用の高出力サイオニックブラストだ! ブラストはギザギザの軌道を描きながらモヤユ人の後頭部に向かって飛び……着弾すると同時に弾けた!

(あれぇ?)

 トルーが思わず素っ頓狂な思念を発する。

「どうしたんですかトルーさん。今の、ダメだったんすか?」
(ブラストが弾けてしまいました……。どうやらやつは精神攻撃を防ぐためのフォースフィールドを張っているようです)
「エェ~ッ。じゃあどうしようもないじゃないでスか」
(むむぅ~~っ! いや、もっともっとがんばって出力を上げれば……ムムム……ドリャア~~ッッ!!!」

 トルーはしばらく力を籠めるとさらに高出力のサイオニックブラストを放つ! そのスピードと輝きはさっきの3倍だ! 禍々しい光を放つサイオニックブラストがモヤユ人の後頭部に当た……らない!
 モヤユ人はタイミングよく身をかがませ……その向こう側にある巨大クラゲに直撃!

「ギェーーーーーーーーーッ!!!」
「「(あっ)」」

 クラゲは特濃のサイオニックブラストをその小さな脳に受けたショックで痙攣! 脳細胞が焼ききれて死んだ!

(あれーーーーっっっ)
「やった! やりましたよトルーさん! トルーさんがクラゲをやっつけたんですよ!」
(良くないですって! 見なさい、市民が勘違いしてあの宇宙人を囃し立ててるではないですか! 誰も私が倒したなんて気づいてないですグムム!)
「うーん、精神攻撃はダメみたいでスねえ……」
(グムムム!!!)

***

「押してダメなら引いてみろですよ」

 その夜、食卓を囲みながら田辺はそう言った。

「引いてみるって……あのデカブツ相手にどうするんですか田辺さん」
「まずトンカツに鎮静剤を染み込ませてですね……」
(あ……もういいです。田辺はあの宇宙人のことを気にしなくていいですからね)
「えーーーっ!! ちょっとトルーさんそりゃあないですよ! 心を読んで先に却下しないでくださいよ!)
(読んでなくてもトンカツが出てくる時点で却下です。……ツバメはなにかいい案はありませんか?)
「うーん、私はとくに思いつかないんですけどセベクが」
「がうがう」

 ワニツバメの左腕のワニがもぞもぞと身体を蠢かす! ワニはツバメとトルーにわかるよう思念波を飛ばした。

(私の考えというのかこうだ。私のナイル川を操る能力を使って……)
「え、そんなことできたんでスか?」
(ほぉ~~う……。それはおもしろいですね。試してみる価値はありそうです)
「え? え? なんですか? 私にもわかるように教えて下さいよ!」

 ひとりだけワニの心がわからない田辺はジタバタした。

***

 一週間後、みたび巨人プロレスが開催されていた。今度の相手は巨大カニだ! モヤユ人はその硬い甲羅にチョップを浴びせ続けているが、さすがに苦慮している。頭を横にぶんぶんとふり、ジーンと響く手の痛みに耐えながらチョップを繰り出す!

(またちょうど一週間後ですよ。どうなってるんですか……)
「チョップして痛いなら蹴ればいいのに」
「じゃあセベク、手はず通りお願いしまスよ」
(任せれた……)

 ワニがガウガウと空中に迎えアゴをパクパクさせながら身をよじる。すると彼女らの頭上にポータルが開き……膨大な質量の水が流れ込んできた! ナイル川の水だ!! 水はワニの手の動きに繰り動かされるように空中を踊り、渦を巻き、ぼわぼわとゼリーのように形づくられていく……。

(本来、こういった芸当はラーやホルスのほうが得意なのだがな……)

 ワニに固められた水が質量を増すのと同時に、太陽の光に照らされていく。すると……おおなんということだろうか! 水が鮮やかに色づいていく! ワニの神秘的エジプト能力によって屈折率を操られた水が太陽の光の反射でまるで着彩されたかのように色づいていく! やがて50メートルはあろうかという大きさの人形に膨れ上がり、まばゆい銀色に彩られたその水は……モヤユ人に瓜二つな姿となった!

(できあがりだ……ニセモヤユ人!)
「へぇ~~っ、ワニさん器用ですねえ」
「なんてったって古代の神様ですからね」
(じゃあセベク、首尾よくお願いしますよ)
(うむ)

 セベクが操るニセモヤユ人は両腕を掲げ足元の人類たちを威嚇する! さらに手近の適当なビルにパンチ! ニセモヤユ人は水でできているが内部の水圧をセベクが調整することにより巨大な破壊力を発揮可能! オフィスビルの一角が吹き飛ぶ!

「すげぇ~ッ! セベク、すごいじゃないでスか。ふだんからアレやればいいのに」
(疲れるしエジプトの一部地域が一時的に水不足になるからなるべくやりたくないのだ)
(ところでセベク、いちおうなんとなく民間人は殺さないようにしていただけたほうがうれしいんですが……)
(まあぼちぼちがんばる。さっきのパンチは怪我人は出てるが人死には出してないぞ)
「器用だなあ」

 ビルが崩れたのをきっかけにカニと戦っていたモヤユ人も異常に気づく! なにせ自分とそっくりな姿の宇宙人が街を破壊しているのだからたまったものではない! 慌ててカニをとりあえず放置し、ニセモヤユ人のもとに駆け寄ってくる!

「こっち来ましたよ! どうするんです?」
(まあ慌てるな。こちらは水だ)
「田辺さんに話しかけてもガウガウとしか聞こえないんですってば」
「え!? なんですかいまワニさん私になにか言ったんですか!?」

 モヤユ人はニセモヤユ人に掴みかかって止めようとする! だがその手はニセモヤユ人の腕を掴むことなくジャバりと貫通した! 流れる水は掴めない!

「ヘッ!?」

 困惑するモヤユ人! そのスキをついてセベク操るモヤユ人は胸から勢いよく水流を発射する! 

「フアーッッ!!!」

 不意を疲れたモヤユ人はもろに腹部に水流を受け尻もちをつく! その背後にはビルが! ガガーンと大きな音を立ててビル粉砕! 市民たちの表情が恐怖に凍りつく!

(やったッッッ! いまそのへんの市民の心を読んでみましたが連中、かなりエイリアンに対して不安を抱いてますよ! やれ同士討ちだとかやれビルを壊しやがってだとか……この調子でいけばヤツを社会的に抹殺できそうですね!)
(どれ、もうひとふた暴れして宇宙人の凶悪なイメージを演出してやるか)

 セベクが気合を入れ直して腕をぐるぐると回しガウガウと身体をよじる! それに合わせてニセモヤユ人も腕を回しビルをさらに破壊しにかかるが……そのときである! N.A.I.L.の面々が集うのとは反対側のビル屋上から閃光が走った……十条のビームだ!

(なにぃ!?)
「なンだァーッ!?」

 ビームはニセモヤユ人に直撃! 超高温のビームが大質量の水で構成されたニセモヤユ人に触れたことで周囲一体はさながらサウナのごとき蒸気で包まれた!

(暑ィーッ!)
「な、な、な、なにごとでスかぁ!」
「あのビームは……まさか!?」

 田辺のサイバー脳に見知った姿が思い浮かぶ。そう、我々はあのビームの発射元を知っている! その十条のビームを知っているッ! 反対側のビルからニセモヤユ人に砲撃を行ったのは……シンギュラリティの強行偵察サイボーグ、ジャストディフェンス澤村だ! 澤村はビームを放った姿勢のままキョトンとしていた。

「あっれ~~。なんかヘンなの。あの宇宙人ケムリみたいに消えちまったぞお」
「不思議ですね……。ネギトロさん、そっちはどうですか」

 相棒のハンバーグ寿司が澤村の傍らでふよふよと浮きながら一駅ほど遠くの距離にいるネギトロに通信を試みる……。彼らは寿司と寿司どうし、神秘的なシャリ・ネットワークで交信することができるのだ!

「ああハンバーグくん、こっちもすぐ終わるよ。ねえとも子くん……」
「そりゃそうよ」

 そう……これによってマシーナリーとも子とジャストディフェンス澤村は円滑な連携を可能にしているのだ。マシーナリーとも子は力いっぱい腕を振り上げ、マニ車の上部のギアを叩きつける! 巨大カニの甲羅に!

「ピギーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!」

 モヤユ人の空手チョップをものともしなかったカニの甲羅が粉砕! 周囲に旨みたっぷりのカニ汁を噴射して巨大カニは絶命!

「ゲェーーーーーーッ!!」
「な、なんで澤村ととも子が……!」
(この流れはもしや……)

 狼狽するのはモヤユ人だ! いまや相対していた怪獣も、自らの偽物も消えた! 一体何が起こっているのか……そのときである! 彼の超人的聴覚が足元から響く奇妙な音を捉えた……。禍々しさすら覚える、無骨なモーターの轟音を!
 次の瞬間、足首からなにか冷たいような感覚が斜めにジグザグに走ってくるような感覚を彼は覚えた。そして……最後に目の前に長い、紫の髪の毛の女性を認めた。女性は両腕がチェーンソーになっている。それを認めたかと思うと彼の視界に斜めに赤い線が入り、次に赤い線を境界に左右にズレはじめた。
 それが彼の見た最後の光景だった。

***

 五反田の街はカニの体液とモヤユ人の残骸と血液で満ちた地獄と化した。人々はこれまでに無い恐怖の光景に恐れおののき、あるいは発狂し、奔走する。そんななかモヤユ人の残骸の上でひとり佇むものがあった。モヤユ人をバラバラにした張本ロボ、シンギュラリティ最強のサイボーグ・ネットリテラシーたか子だ! 

(ネットリテラシーたか子ォ~っ! どういうつもりですかッッ!)
「ああ?」

 ぼんやりしていたたか子のサイバー脳にトルーの思念波が飛ぶ!

(なんでシンギュラリティがこんな……なにが狙いです!?)
「あら……田辺とワニツバメもいるのね。3人そろってどうしたの」
「どうしたもこうしたも、こんな宇宙人がいると私ら迷惑だからなんとかやっつけようとしてたんですけど……たか子さんこそどうして?」
「どうしてって……。まず、人類を助けようとするエイリアンとか邪魔ですし殺すでしょ」
「言われてみればそりゃそーだ」
「あと、それとは別に人類にはちゃんと2045年にシンギュラリティを迎えてもらわないと困りますからね。こーいう、無粋に外部から手助けしようとする上位存在とか余計なんですよ。種としての進歩が無くなります。だから殺した。人類をコントロールするのはね……私たちサイボーグだけで充分なのです。おわかり?」
(グムムム……)
「そっちにとっても厄介だったのなら好都合じゃなくて? 私たちが排除してあげたのですからね。うーむ、これも徳が高い行動といえるかもしれませんね……。じゃ、私ら帰るから」
「あっ、はーい……お疲れさまです……」
「ヤッベ……ネットリテラシーたか子ヤバいでスね……」
(グムムムムーッ!)
「ト、トルーさんなんでそんなに唸り思念やってんスか……。いいじゃないですか、ちょうどよくたか子さんが殺してくれて」
(いいんですけどっ! 目的は達成したんですけどなんかムカつきますッ! シンギュラリティにいいようにやられたようで……グムムーッ!!)
「セベクの水、強ぇ~~って思ってたら瞬殺されちゃったし」
(私もちょっと凹む)

 ワニが残念そうにガウガウと身を捩る!

「ふむ……まあ、たか子さん強いですからね!」

 アークドライブ田辺は胸を張った。

(なに誇らしげにしてんですか! ムキ~~ッ! 腹立つ!!!)

 トルーはやつあたりにモヤユ人の残骸を蹴り飛ばした。
 次の日、改めてシンギュラリティに恐れをなした各国政府、企業からこれまで以上の支援をN.A.I.L.に注ぐという連絡が届いてようやくトルーは機嫌を直したのであった。

***



読んだ人は気が向いたら「100円くらいの価値はあったな」「この1000円で昼飯でも食いな」てきにおひねりをくれるとよろこびます