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自分は一体何者なのか?自我同一性の4つの状態【マーシャの同一性地位】

今回は、エリクソンの提唱した自我同一性についての理論を、より深く研究し、新たな側面から捉え直した、マーシャという研究者が提唱した理論について見ていきます。

それは、「同一性地位」という概念です。

今回も、ご自身の経験や、現状に照らし合わせて考えてみてください。
自我同一性という概念は、人間として生きていく上で、本当に大きな問題・課題となっていく事柄です。

ですので、自分の人生を振り返る意味でも、また、これからの人生をよりよく過ごすためにも、この理論を参照して、利用していってください。


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★同一性地位(identity status)

マーシャ(Marcia,J.E.)により提唱された、自我同一性の状態に関する操作的定義のことをいいます。

具体的には、青年に対する15分程度の半構造化面接により、対象となる青年が「危機」(crisis)を経験しているか否か、そして、「関与(傾倒とも訳す)」(commitment)をしているか否か、という2次元の基準に基づいて調査し、その組み合わせによって、青年の状態を、4種類の「同一性地位」に分類します。

★「危機」とは、青年が、自らの可能性について迷い、進むべき方向性を決定するために苦悩する経験のことを指します。

★「関与(傾倒)」とは、危機を通じて決定された自己の方向性に対する積極的な働きかけのことを指します。

※これらは、エリクソンの「自我同一性」という鍵概念を操作的に定義し、実証研究を可能にしたという点において評価されています。

★マーシャの提唱した4つの地位は以下のようになります。

①早期完了(foreclosure):危機を経験せず、関与がある状態。

⇒自己の進むべき道について、特に迷うことなく、比較的早い段階で、進路を決定している状態を指します。

⇒この状態の者は、親や周囲の期待を受け入れている場合が多いとされます。例えば、医師になることを求められる医師の子ども、伝統の継承を求められる伝統芸能者の子ども、など。

⇒自我同一性は確立しているが、危機の経験がないだけに脆弱で、失敗経験などによって容易に混乱に陥りやすいとされます。

⇒人格的には、経験を既存の信念を強めるためだけに用い、融通が利きにくいとされます。

⇒エリクソンの研究では想定されていない状態で(エリクソンは、自我同一性確立のためには危機を必ず通ると考えた)、マーシャ独自の発想とされます。

②同一性拡散(identity diffusion):危機は未経験もしくは経験済みで、関与がない状態。

⇒青年期の心理社会的危機の解決に失敗し、自我同一性を確立できていない状態。

⇒危機を経験しておらず、関与対象もない状態である場合、自分が何者なのか、自我同一性について想像すること自体が不可能となります。

⇒危機を経験したが、関与対象を見つけられなかった場合、何にでもなれるという幻想を持ち続けたり、無気力的になったりするとされています。

③モラトリアム:危機を経験中で、何かに関与しようとしている状態。

⇒様々な活動を行いながら、関与すべき対象を探して試行錯誤する状態を指します。

④同一性達成(identity achievement):危機を経験し、関与がある状態。

⇒危機を経験した上で、関与すべき対象を見出している状態で、確信的に行動できる状態。

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マーシャは、自我同一性の状態を、以上の4つに分類しました。
過去の自分、または現在の自分を見つめてみて、当てはまる状態はありましたでしょうか。

現在の社会においては、②同一性拡散の状態になってしまっている人を多く見かけるかもしれません。
また、従来なら青年期に経験するとされた発達課題でも、現代では、中年期以降になってから(なっても)経験する(している)人も多いのかもしれません。

何度も繰り返しますが、エリクソン理論における発達課題は、その時期に特に多く経験する事柄、ということであって、各発達課題は人生のどの時期にでも出現する可能性のあるものです。

また、現代の社会事情に応じて、各時期に応じた年齢規定も変わってきますので、「発達課題の出現時が、解決時期」と考えればいいと思います。

社会に適応し、精神的な健康を獲得し、その上で、自分の定めた目的に向かって努力して進んでいく状態になるための模索は一生続きます。
心理学の知見が、それを助けてくれるかもしれません。


ということで、今回はこの辺で!


参考・引用文献「心理学概論」(河合塾KALS)


【参考記事】


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