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老年期少年小説 「誰もいなくなったのはなんで?〈2〉」【幸せを壊すことをやめられない①】

腹部が痛かった。
トラウマの憑依ということをいわれたことがある。

第2チャクラから第4チャクラに樹木のようにはびこっているといわれたことがある。自分のイメージでは心臓の血管のような浮き出た動脈のように感じる。

それが憑依するときには樹木のようなものは消えてしまう。
自分がそのものに覆われてしまい、さまざまに形を変えた恐怖に支配されている状態になる。

その瞬間、幼児が自分を乗っ取る。いや、自分が乗っ取られていながらそのものになっているのだ。

正直言って、そのときの記憶は過ぎてしまうと他人事のような自分がやったことの自覚は弱まる。

他人から見たら別人になっているようでもあるが、自分では自覚は難しい状態になっている。
精神を病んでいるともいえるが、精神科の治療はほとんど効果がない。


特に向精神薬はまったく的外れな効果しか生まない。
むしろ、身体の健康をそぐだけのようである。
あらゆる治療をためしてみたが、さほど効果はない。

人格障害として病院に行っても、そのようには言われない。
多少そのときだけはほっとしないわけではないが…どこにいっても治療は効果があまりないか、おまけにさまざまな病名が疑われて終わる。この腹部の不快感は変わらない。

インナーチャイルドをいやすという治療で、悲しい気持ちを増幅させて泣く方法をやると…確かに体の部分が軽くなったり…私には謎の足の痛みの持病があるのだが…一時的に痛みが軽くなることもある。

しかし、それも根本的な治療とはいえなかった。私の人生に現れるトラウマの事象をできるだけ短く表現すれば…幸せに近づくと、自分から、またはアクシデントで幸せを壊したり壊れたりするということである。

例えば相手からすれば、仲が良かったのに急に喧嘩になるとか、楽しみにしていた旅行が中止になったり、怪我をして新しい仕事契約がなくなったり…。

ついてないという見方もあるが、自分の性格に気づいた人間からは「自分から不幸を選び関係を壊した」と見抜かれ、関係を断たれる場合が多い。


ある医師は鋭く自分の性格を見抜きこうアドバイスしてくれた。

「あなたはいつも自分の本当の気持ちを表現しないことで犠牲という状況をつくりだします。そのときに本心を言えなかったという不満や怒りをおさえつけ続けることで自分を被害者と思い込む癖といいますか…システムをつくっています。そうすると、その人に対する全体像を見ないで切り取ったその怒りをその人に対する評価として意識を拡大させて、真実ではない虚像の加害者をつくりだす傾向があるようですね。厳しい言い方をすれば、少しでも批判されていると感じると、敵と認定してしまうようです。でも…それは客観的には誤解であり、真実の見方からは外れています。あなたの他者への態度を簡潔に言いますと〈人によって接する態度を変える〉ということです。あなたは〈すべての人間は敵であると誤解して感じてしまう〉という誤解があるのかもしれません。それをトラウマと呼んでもいいでしょう。いまのこの状態を変えていくのは…高齢でもあり、とてもむずかしいかもしれません」


ぐうの音も出なかったのだが、なんとか良くなるためのアドバイスをきいた。


「それにはまず、トラウマの事象や性格をすべて正確に受け止めて、自分がそれを人生で許してしまいその結果、問題が起きた、自分で問題を起こしてしまったという自覚が必要です。いまのあなたは現実を半分くらいしか生きてないといっていいかもしれません。つまり妄想の中にいて、真実を生きていません。真実を自分の意識で確認して、自分で考えて選択することでしか、癒やすことは難しいでしょう。あなたにその気持ちはありますか?」


答えに窮していたとき医師はこう言った。


「向き合えば良くなります。しかし向き合わない生き方もあります。それは自由意思です。ただ、ある学者の本に書かれたことだけ紹介して診察を終わりにしましょう。〈この性格をかえるということを成し遂げたとき、織田信長の天下統一よりも困難なことを自分は成し遂げたと思ってよい〉正確ではありませんが、だいたいこういうことをおっしゃってました。…私の力になれることであれば、協力いたします。気持ちを明るく持つのも難しい状況かもしれません。でもね、あなただけではないんですよ。苦しい人たちはたくさんいて、それでも、幸せになっていいんですから、よくなっていきませんか? 年齢は関係ありません。その人その人それぞれに個性的な事情があるのですから…。取り組んでいけば、たのしいことが、きっと起きますから、やってみませんか? 希望をもちましょう。私も患者さんの力になれるように努力していきたいです」


涙が止まらなくなった。

それでも私は、同じような幸せを壊すことをやめられないままでいた。
でも、少しでも、あの医師の言葉を聞いたときの気持ちのうれしさを思い出して、死ぬまでなんとかトラウマの憑依を解消したい。そう思っている。


投げ出すことだけはしたくないと…いまは思っている。