雪と船底の記憶
白い街に着いた。
風が強く吹くが、不思議と寒くなかった。
船底の黄色が溶け出す波際で、一羽の鳥が小さく鳴いていた。
外套のポケットに手を潜り込ませると、
忘れていた古い思い出や、守ることのできなかった約束に、とても大切な何かがコツンと触れた感覚があった。
思った通りだった。
白濁とした記憶がちらちらと揺れていて、
涙をこらえようと思ったのだけれど、ダメだった。それはあまりに美しすぎて、あまりにそれはあからさますぎた。
涙を拭うことがしばらくできなかった。
柔らかい温もりの手のひらが、もつれあいながら空を向いた。降りしきる雪は遠い海の暗がりへと。
既に遙かであった。
思い返せば、僕は多分、正しく傷つくべきだったのだろう。
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