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本のこと(5)「蛇を踏む」


ここのところ、
立て続けに面白い本に出会うので、
読むのに必死な日々です。

何について書くか悩ましいですが
2ヶ月ほど前に読んだ
悔しいぐらい美しい作品について書いてみます。

川上弘美「蛇を踏む」文春文庫(1999.8)

この表題作の初出は1996年。
私が生まれる2年も前のことだそうです。

自分が発生する前に紡がれた文章を
大人になった今読むことができるのは
とても幸せ。

川上弘美さんの作品に初めて触れたのは
高校生のころの国語の教科書でした。

「離さない」という作品が載っていて、
あまりにも怖くて衝撃を受けました。
でも、ホラーではないのです。

怖いからもう読みたくないのに
教科書を開くたびに読んでしまって、
不思議な引力を持った文章だと思っていました。

月日が経って、
祖母の家へ行った時に、
本棚に川上弘美の文庫が数冊並んでいました。

この人の本全部貸して、と言うと
川上弘美とても良いから読みなさい、あげるわよ、と。

私と祖母はとても趣味が似ています。
祖母の感覚を信用して全て頂いて帰り、
走るようなスピードで読みました。

その中にこの作品も含まれていて、
川上弘美の作品の中でも
群を抜いて怪しくて美しいと思いました。

物語は、
本当に、蛇を踏むところから始まります。

まずその導入からして凄まじいですが、
そこからの物語の展開も、
設定自体も
コンパクトさも、
全てが完璧だと思えました。

内容についてはここでは秘密にしておきます。
ぜひ読んで欲しいから。



この作品を読んでいると、
この人はどうしてそんなこと思いつくの、という
作者への畏怖のような嫉妬のような
変な気持ちが沸々と湧いてきます。

この文庫に収録されている
「惜夜記」
と言う作品でもそうですが、
全然リアリズムではないのです。

でも。
多分、現実をそのまま書き記すよりも
ずっとずっと生々しくてリアル。
この人の描く神秘的な世界は
グロテスクなほど現実的だと思います。

そんな凄まじい表現を
一色の文字だけでしてしまう作者が
私はとても怖い。



この文庫のあとがきで、
川上弘美の頭の中について
少しだけ書かれていました。

やはりこう言う人が作家になれるのか、と
苦しくなるほど憧れてしまうのでした。

夢が現実を凌駕してしまうことが
きっと本当にあるのだな、と
信じてみたくなります。

私もそういうのが書きたい。

ぜひ、読んでみてください。

それから、
蛇は踏まないように、
気をつけてください。


渡部有希

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