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#12 松榮亭@神田淡路町

巨大都市・東京の発展の裏側で、かつての街並みは急速に失われている。
ノスタルジックで心に残る街並み、建築物、飲食店…。
真のレガシーを求めて、今日も裏路地を歩く。
懐かしくて心惹かれる、うるわしの東京アーカイブズ。

2000年、『スタジオ・ボイス』という雑誌に連載を始めた。その内容は1か月、毎日同じものを食べ続けるというもの。同じ食べ物の写真が30や31個もズラリと並ぶのは壮観だと思ったからだ。

取材を開始したのは2000年の9月。最初の1か月はトンカツを毎日食べた。これはきつかった。次の10月は毎日カレーを食べた。これはけっこう楽だった。カレーといってもインドカレーから欧風カレーまでいろいろと種類があるので、飽きなかった。

そして11月はオムライスを食べた。これは意外に苦しかった。どこも同じような味だったからだ。

ちなみに同じ店はNGで全部違う店でオムライスを食べた。この連載は、交通費や食事代など一切出ないので、原稿料を考えれば赤字だった。

11月8日(月曜日)にうかがったのが、神田淡路町の松榮亭さんだ。

創業は1907年という老舗の洋食店で、初代の堀口岩吉は東京大学の教授フォン・ケーベル氏の専属料理人だった。夏目漱石の随筆、『ケーベル先生』というのがあって、先生の家に行った様子が描かれている。

随筆には描かれていないが、ケーベル氏は、堀口岩男に漱石のためになにかつくれと命じたそうだ。いきなり、言われたので堀口はありあわせの材料で、洋風かきあげをつくって提供したのだそうだ。
その後、料理人が店を出したことを知ると、漱石も一度やって来たそうだ。

もとの店は靖国通り沿いにあったそうだが、関東大震災で店は倒壊し、靖国通りから50mほど路地を入った場所に移ったのだそうだ。
その建物も2002年に建て替えをした。
そしていただいたオムライスはこちら。

価格は730円だった。
どことなく懐かしい味だた。

そして、次に訪れたのは2008年2月7日。
店は新しくなっていた。
写真を撮影してこの記事に入れた。

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建物は新しくなっていたが、暖簾は変わらないデザインだ。

記事で取り上げているのは、洋風かきあげだけれど、このときも実はオムライスをいただいていた。
それがこちら。

当たり前だが、見た目はほとんど同じ。味も同じだ。
値段は記録がない。
外観は変わっても料理の味は変わらない
デジカメが違うので、色合いなどが違っている。
さらに2008年8月4日に撮影。

そして、なんと2017年6月20日、こちらの取材でうかがった。

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店内にあった価格表を撮影。

オムライスが900円になっていた。
たぶん、味は変わっていないだろう。

ちなみに、何回か食べている洋風かきあげ。

これのつくり方が、店の壁にあったが、
しかし、絶対に家では作れそうもない。

作り方は当時のままなのだそうだ。卓上のウスターソースをかけていただけば、夏目漱石が食べた当時の味が今も味わえる。歴史をいただいている感じがする。

(続く)


【プロフィール】
下関マグロ(しものせき・まぐろ)
フリーライター、町中華探検隊副隊長。本名、増田剛己。
山口県生まれ。桃山学院大学卒業後、出版社に就職。編集プロダクション、広告代理店を経てフリーになる。
フェチに詳しい人物として、テレビ東京「ゴッドタン」、J-WAVE「PLATOn」などにゲスト出演。
本名でオールアバウトの散歩ガイドを担当。テレビ朝日「やじうまテレビ」「グッド!モーニング」、テレビ東京「7スタライブ」「なないろ日和!」、日本テレビ「ヒルナンデス!」、文化放送「浜美枝のいつかあなたと」「川中美幸 人・うた・心」など、各種メディアに散歩の達人として登場する。

【著書】
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