偏愛(らも/中島美代子)
小説家、コピーライター、劇作家、ミュージシャンと様々な顔をもち、52歳で酔っ払って階段から落ちて亡くなった中島らも。
私の実家に何冊か著作があったため、高校生の頃に読んだことがあるが、ユーモアに満ちていながらも「酩酊状態で書いているのでは?」と思わせる、危険な香りのする文章が印象的だった。
実際、らもはアルコール依存症と躁鬱病を患い、51歳の時には大麻で捕まっているし、死因も酒である。多分、そうだったのだろう。
この作品は、らもの妻である美代子が、らもと過ごした35年間を綴ったもの。神戸山手女子短大に通う裕福なお嬢様の美代子と、実家が歯医者で、灘高→神戸大学を出ている頭の良いらも。この2人がジャズ喫茶で出会い、結婚
し、生涯を共にすることになる。
生い立ちを見れば、穏やかで豊かで真っ当な道を歩みそうな彼らの人生は、波乱万丈で狂っている。
出会ったばかりの頃、会話がしにくいジャズ喫茶で、筆談で愛の言葉を綴り合っていた2人。らもは結婚を機に印刷会社に就職し、結婚してからもラブラブで、1冊の日記帳を共有していた。それはもう、読んでいる方が恥ずかしくなるほどの純愛だ。
一男一女をもうけて幸せに暮らしていた彼らだが、数年後にらもがクスリ中毒、鬱を患い、徐々に歯車が狂い始める。
幼い子供がいながら、彼らの家には常に様々な人が入り浸り、宿泊していく。そして、一つ屋根の下で多発する不倫関係。美代子に自分の後輩と一緒に風呂に入ったり、関係をもったりするように指示するらも。なぜかそれを受け入れる美代子。
挙句の果てには「お互いセックスは外でしよう」「いいよ」と約束を交わし、らもは家に帰らなくなる。
らもの行動はつっこみ始めたらキリがないのだが、実はいちばん変なのは全てを受け入れている美代子では?と思えてくる。らもに対する美代子のまなざしは、どんなにひどい仕打ちを受けても愛に満ちていて、最後に書かれた亡きらもへの手紙はちょっと泣けてくるほどだ。
お嬢様育ちゆえの優しさか、それとも、記憶が美化されているのだろうか。
これは純愛ではなく、偏愛の記録である。
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