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中央線の友だち(ティンダー・レモンケーキ・エフェクト/日記)

自身を「日記」と名乗り、「わたしの日記を送ります。あなたの日記を送ってください。」という短いプロフィールを載せて、Tinderで日記を送り合う女性の自費出版本。
100人規模の相手と日記を交換する中、彼女はひとりの男性に恋をする。途中からはそのお相手の日記も出てくるので、同じ出来事を男女それぞれの視点で綴った恋愛小説みたいに読んだ。

先日、代々木の「手帳類図書室」という施設に行って、見知らぬ人の日記や家計簿を見るのがこんなに面白いなんて…!と驚いたのだが、それはデリヘル嬢や不倫主婦やギャンブラーなど、自分と全く違う世界で生きる人の人生を覗く映画的な面白さだった。

一方、この著者は何者なのかさっぱりわからない。
読み進めるうちに、高円寺で暮らすアラサー女性、ショートヘア、古着好き、背が低い、職業はおそらく美術系のキュレーターか何か…?と断片的に人物像が浮かび上がってくるが、サブカルに異常に詳しいことを除いて特段珍しさはなく、最後まで読み切れるだろうかと不安になりながらページを捲った。(序盤でセフレにフラれて泣くくだりがあり、私はそこで少々冷めてしまった。)
結論、そんな心配は杞憂だった。

彼のことが大好きで、気持ちをストレートに伝える日記さん。
日記さんの気持ちには応えられないものの、友人としての関係は続けたいと切に願い、その気持ちをそのまま日記に書いて本人にぶつける彼。
Tinderを媒体にした往復書簡は、それ自体の斬新さを忘れるほどに二人の文章がいい。

私は日記こそ書いてないが、日記さんに近い感覚でTinderを通じていろんな人に会っているので、全体的に共感する部分が多かった。(出てくる喫茶店の名前やラジ父ヘビーリスナーという共通項もでかい)

下の2節は特に「わかるぅ!」となったし、コロナにかかった時、マッチしていた薬剤師にアドバイスを仰ぐくだりは身に覚えがありすぎて笑った。

・楽しいを楽しさのまま、文章で伝えるのは難しい。

・「面白い人に会いたくて」こういう言葉をいう人をあまり信用していないのは、面白いというのはどちらかがつくることではなく、相互の作用によって生まれるという価値観が共有できないからだ。

Tinderはヤリモクしかいない、男女の友情は成立しないと信じている人には、到底理解されないであろう関係性が、ここにある。

私もかつては東京の西側に住んでいて、3年前に東側に引っ越したが、引っ越してからマッチする人が面白いほど変わった。中央線はやっぱり独特だし、「住む場所で人生は変わる」は真理だなと改めて思った。

今度、高円寺に行く時は、Tinderをぶん回して日記さんを探したい。
彼女のスマホケースには、たくさんのステッカーが入っているに違いない。(違ったらすみません)

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