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負の連鎖(ヤクザ・チルドレン/石井光太)

暴力団の家族として生まれ育った子供たちは、社会の中でどう生きているのだろうか?ー
ヤクザをフィーチャーした映画やドラマはたくさんあっても、描かれるのはあくまでトップ層の大人にすぎない。下層のヤクザや、その子供たちがどんな人生を歩んでいるのか?あまり知られていない現実を、当事者への取材を元に明らかにした作品。

覚せい剤を覚えた母親は猿のように子供を作り、貧困にあえぎ、薬代を稼ぐため悪事に手を染め、時には娘を風俗に売り飛ばす。その娘もまた、辛い現実から目を背けるために覚せい剤を利用する。
読むに堪えない負の連鎖にしんどくなってしまうが、中には更生して暴力団と縁を切り、上場企業で働き家庭をもった人も紹介されていて、救われる思いがした。だがしかし、彼はごく一部の成功例なのだろう。

暴力団の構成員は、しつけに対する考えが歪んでいる。他人だけでなく我が子にも暴力を振るうことが多い。これは完全に虐待で、児童相談所に保護されるべき案件だが、公的支援にはつながりにくい。理由は以下の通り。

①暴力団家庭に立ち入ることが困難
児童相談所への通報は、家族、親族、友人、近隣住人、学校によって行われることが多いが、相手が暴力団となれば「関わりたくない」と考える人が大半。これが発見率の低下につながる。

②両親が公的支援を拒絶する
暴力団構成員は常習的に違法行為を行っているため、あらゆる公的機関と関わることを嫌がる。本書でも、覚せい剤の使用がバレるのを恐れて病院に行けず、命を落とした若い母親の話が紹介されていた。暴力団にとって、公的機関は「敵」という認識なのだ。

③”頼れない”子供たち
こうした環境ゆえに、子供たちもまた公的機関を頼ろうとしない。物心ついた時から、親が公的機関の悪口を言ったり追いかけ回されたりしているのを見ていれば、不信感や警戒感を抱くのは自然だ。さらに、親が逮捕されるかもしれないという恐怖も付きまとう。

あとがきに書かれていた、少年院に入っている男子の「退所しても、また同じ場所に戻って同じことをすると思う」というような発言がすごく印象に残った。人は、自分が救われた方法でしか他人を救えない。暴力団の世界しか知らなければ、他の生き方を説得力をもって教えられる大人が周りにいなければ、子供は親と同じ人生を生きるしかない。

著者は「暴力団家庭のこうした特有の傾向を踏まえたうえで、早い段階で子供たちを児童福祉につなげる必要がある」と最後に述べていて、それは本当にその通りなのだけど、方法が書かれてない。
救わなければいけない、でも方法がわからない。せめてその一助となるように本書を記した、とういことなのだろうが、読み終わった後で私はただただ沈んだ気持ちになってしまった。


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