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生産性の罠(限りある時間の使い方/オリバー・バークマン)

人生は4000週間しかない。効率化ツールや時短家電で生産性を上げれば幸福度は上がるかというと、そうではない。生産性は罠であるー

たまたま立て続けに読んだ『DIE WITH ZERO』に通じる内容も多かったが、こちらも名著だった。読んでよかった…。

お金と時間は常にトレードオフの関係にあるが、『DIE WITH ZERO』がお金に焦点をあてた作品なら、こちらは時間に焦点をあてた作品の印象。時間とは私たちそのもの、という一文は、児童文学『モモ』を彷彿とさせた。

1.生産性の量的な罠

世界が提供してくれる素晴らしい体験をすればするほど、「もっとすごい体験をしなければ」と思い、無力感が増していく。
たとえばFacebookを使うと、自分が参加したいイベントの情報を効率的に得られる。しかし同時に、とても参加しきれない量のイベント情報に圧倒される結果にもなる。マッチングアプリはデートする相手を効率的に見つけるツールだけれど、デートできるかもしれない魅力的な相手の数が多すぎて、あまりにも多くを失った気分になる。すべてを完璧にやるためのテクノロジーは、結局のところ、やること「すべて」のサイズをどんどん大きくする。

2.生産性の質的な罠

タスク処理能力を上げても意味はない。「すべてをやれるはずだ」という意識が強まると、「何を優先すべきか」という問いに向き合わなくなるからだ。時間を支配しようとする者は、結局は時間に支配される。すべてを効率的にこなそうとするのではなく、すべてをこなそうという誘惑に打ち勝つことが必要だ。
人は1日のうちに何百もの小さな選択をする。そのたびに、できるかもしれなかった無数の可能性を永遠に切り捨てている。限りある人生を生きるということは、それがどんなに最高の人生であっても、絶え間なく可能性に別れを告げる過程なのだ。「ほかにも価値のある何かを選べたかもしれない」という事実こそが、目の前の選択に意味を与える。
この真実を理解したとき、人は不思議な爽快さを感じる。
「失う不安」のかわりに、「捨てる喜び」を手にすることができる。

3.敵は自分の中にある

インターネットがあらゆる選択肢を可視化し、悪影響を与えていることは言うまでもないが、SNSをやめればいいという単純な話でもない。ネットを切断して山小屋に籠ったとしても、大事なことに集中できるとは限らない。空想に逃げ込んだり、やることリストを整理したり、とにかく何でもいいから、大事なことに集中しないための方便を探しはじめるはずだ。要するに私たちの邪魔をするのは気晴らしの対象だけではない。嫌な現実から逃れたいという、私たち自身の欲求だ。

4.時間と戦っても勝ち目はない

将来のことを考えたり、計画を立てたりするとき、私たちは「時間を所有したり使ったりできる」という前提に立っている。そしてその前提のせいで、いつもイライラしたり、不安になったりしている。時間は自分のものではないし、自由に使うこともできないという確固とした現実が、つねに私たちの期待を打ち砕くからだ。

愛するパートナーとずっと一緒にいたいと望むのは当然だし、そのために相手を幸せにしようと行動するのは良いことだ。でも「絶対に相手を手放したくない」という考えに固執すると、人生はストレスの連続になる。不安から解放されるための秘訣は、「未来はけっして確実ではない」という事実を受け入れることだ。
悲しみや怒りを感じてはいけないということではない。この先悪いことが起こらないよう努力することが無意味ということでもない。「何が起ころうと気にしない」生き方とは、未来が自分の思い通りになることを求めず、したがって物事が期待通りに進むかどうかに一喜一憂しない生き方だ。そうすれば不安から解放され、本当に存在する唯一の瞬間、今を生きることができる。

5.失われた余暇を取り戻す

現代に生きる私たちは、休みを「有意義に使う」とか「無駄にする」という奇妙な考えにすっかり染まっている。でも本当は余暇を「無駄に」過ごすことこそ、余暇を無駄にしないための唯一の方法だ。一度きりの人生を存分に生きるためには、将来に向けた学びや鍛錬をいったん忘れる時間が必要だ。

休暇を取るタイミングも重要である。
2013年スウェーデンで行われた「休暇のパターンと幸福度の相関」調査では、仕事を休むことに加え、同時に休暇を取る人の数にも比例して抗うつ剤の処方量が減った。一人で休むよりも、みんなで休んだ方がリラックスできる。人間関係はうまくいく。

6.終わらない準備期間

私たちはけっして時間を手に入れることができない。なぜなら私たち自身が、時間だからだ。自分が時間そのものだから、時間の上に立とうとか、支配しようという考えは意味をなさない。
時間は本来的に不確実なのだから、そこに安心や確実さを求めようとあがくなら、人生はすべて本番前の準備段階になってしまう。

人生はたったの4000週間しかない。でもそれは、絶望し続ける理由にはならない。限られた時間を有効に使わなくてはとパニックになる必要もない。
到達不可能な理想を捨てよう。
どこまでも効率的で、傷つくことがなく、完璧に自立した人間になることなど、はじめから無理だったと認めて、自分にできることに取りかかろう。

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