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分断の正体(「上級国民/下級国民」/橘玲)

2019年4月、池袋の横断歩道で87歳の男性が運転する車が暴走し、31歳の母親と3歳の娘が死亡した事件。あれから広まった「上級国民」という言葉を題した性格の悪そうな新書だが、中身は知識社会化・リベラル化・グローバル化の巨大な潮流のなかで起きた様々な「分断」を扱った社会学的な内容だった。
※ちなみに、あの池袋の老人が逮捕されなかったのは高齢のうえに事故で骨折して入院していたからで、メディアが「さん」づけにしたのは、”容疑者”の表記が逮捕や指名手配された場合にしか使えないためだった。知らなかった…

1.下級国民の誕生

平成の30年は、日本がどんどん貧しくなった時代といえる。GDPはかつての2位から26位まで下がり、非正規雇用者とひきこもりが増えた。
高齢化がますます進む令和の前半は、確実に「団塊の世代の年金を守る」ための20年になる。2040年を過ぎれば高齢化率は徐々に下がるため、それまでは保険料や消費税を少しずつ増やす持久戦になる。
(この事態を避けるためには、本当は働き方改革の前に社会保障制度を整備すべきだった。)

2.モテと非モテの分断

個人的にはこのパートがいちばん面白かった。
現代日本人のポジティブ感情(=幸福度)を調べると、大卒と非大卒の間で明確な差があった。加えて、全てのグループにおいて女性の方が男性より幸福だった。それは、まず前提として男の性淘汰では「持てる者」になる(高い階級に達する)ことと、女性に「モテる」ことが一致するが、女性の場合はバリキャリでもニートでもモテる(あるいはその逆)から。そして若い女性には「エロス資本」があり、年をとって資本がなくなろうとも、女性の方が「つながりをつくる」ことに長けているため孤立しにくい。

海外留学に行く学生の数は、男子2万5千人に対して女子4万1千人(平成29年度)と大きな開きがあり、著者はこれを思春期になると若い女性が冒険的になるよう進化の過程で設計されている可能性と結びつけている。ボノボ(チンパンジー)のメスは、思春期を迎えると他の集団のオスに興味をもつが、これは近親婚を回避するためだ。

この他にも様々な「男女の性戦略の非対称性」があり、その結果、男は年をとると友だちがいなくなり、女はいくつになっても新しい友だち関係をつくることができる。これがポジティブ感情に直結している。

3.世界を揺るがす「上級/下級」の分断

テクノロジー爆発によってゆたかな「知識社会」が到来すると、人々は共同体のくびきから逃れ、自由な意思によって自己実現を目指すようになった。これがリベラル化だ。

リベラルは、人種、出自、宗教、国籍、性別、年齢、性的志向、障がいの有無などいっさいの差別を認めません。なぜならそれは、本人の意思や努力ではどうしようもないことで自己実現を阻むからです。
しかしこれは逆にいうと、「本人の意思(やる気)で格差が生じるのは当然だ」「努力は正当に評価され、社会的な地位や経済的なゆたかさに反映されるべきだ」ということになります。これが「能力主義(メリトクラシー)」であり、リベラルな社会の本質です。

テクノロジーは国境を越えたヒト・モノ・カネの移動を可能にし、グローバル化も招く。つまり「知識社会化」「リベラル化」「グローバル化」は三位一体の現象なのである。

高度化した知識社会では、テクノロジーの性能が人間の適応力を越えてしまうため、高い知能を持つ一部のひとたちにしか理解できなくなってしまう。これがいま我々がいる地点で、現にごく一部の「特権層」に富が集中している。

しかしAIが人間の知能をはるかに上回るようになってしまったら。
どんな人間もテクノロジーを理解できなくなり、機械は勝手に進化していく。シンギュラリティ到来と予測される2045年、「技術」と「魔術」の区別はつかなくなり、知能は意味を失って知識社会は終わるのかもしれない。

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